2017.12.26一緒に。もっと、

「犬種」は大量生産すべきものではありません

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文と写真:藤田りか子

純血犬種は贅沢品?

巷には「保護犬」vs「純血犬種」という対立構造がなきにしもあらず、です。例えば「 どうして純血犬種なんか得るのだ?代わりに保護犬を飼えばいいのに!」という意見は皆さんもどこかで聞いたことがあるはずでしょう。

さて、かくいう私は純血犬種の大ファンです。でもそれは純血というステータスが好きなのではなく、犬種に込められているその背景や歴史にすごく惹かれるからなのですね。犬種というと、どうしてもペットショップのショーウィンドーに並んでいる「値段のついた特別な犬」というような連想をされてしまうかもしれません。だからこそ、犬種名というのはある意味「商品の名前」と考えることもできるでしょう。チワワとかラブラドール・レトリーバーという名の商品….

地方文化遺産としての犬種

ドイツにはジャーマンシェパード、そしてオランダにはダッチシェパード(写真)と牧羊犬種にも地域によって異なる種が存在する

しかし犬種という概念の誕生の地、ヨーロッパに住んでいる私は少し別の目で犬種を眺めています。犬種にはいくつか発祥のパターンがありますが、ヨーロッパで生まれた犬種の多くはある使役能力を持つ特定の集団、そして大抵ある地域に限定された犬たちが元になって出来上がりました。例えばヨーロッパ大陸には 牧羊という使役を持つ犬がたくさん存在していました。その中でドイツの牧羊犬はジャーマンシェパードに、オランダのそれはダッチ・シェパード、ベルギーならベルジアン・シェパード、といった風に地域にちなんだ牧羊犬種が出来上がりました。つまり地理的な隔たりが牧羊犬種のバラエティを産んだ、とも言えるでしょう。実は日本の原産犬種だって発祥のパターンはヨーロッパとほとんど同じです。特性があって、地域限定で。秋田犬という獣猟犬がその代表です。

本当の犬種ブリーダーとは?

そしてブリーダー達は犬種の由来となった才能を絶やさないように繁殖をする、という作業を担います。そう、見かけさえ「ジャーマン・シェパード」であればいいというわけではない。犬種が出来上がった由来を考えれば、その内面的なものも犬種の特性として含めなければならないものなのです。

才能や見かけのみならず、繁殖にはもう一つ大事な配慮が必要です。健全性です。特に北部ヨーロッパの国々では、犬種クラブやケネルクラブが様々な規則をブリーダーに課しており、これら三つの大事な要素(見かけ、内面的特性、健全性)を考慮しながら犬種をゆっくり、ゆっくりと作り上げてゆきます。というか、この三つの基準を満たそうとすれば、そんなにアップスピードで「生産」できるものではなくなるのですね。

北欧を例にとれば、ブリーダーは犬の外見が犬種の標準としているものに沿っているか、ドッグショーに必ず出陳します。そして使役犬種(狩猟犬や牧羊犬、警備犬など)であれば、その作業をこなせるかテストに参加します。作業犬種ではない、チワワのような愛玩犬でも、「愛玩犬」という使役を家庭でちゃんとこなせるように、ブリーダーは性質の安定した個体を繁殖の際に選ぼうとします。以前紹介した気質テスト がこの目的に使われます。さらに、ブリーディング前には健全性が保たれているか、獣医師のところでチェックを行います。

飼い主もブリーダーと共に犬種作り

今年迎えたラブラドール・レトリーバーのアシカ。ブリーダーの期待に応えるべき私もアシカのトレーニングに余念がない!

今年の春、私はラブラドール・レトリーバーの子犬を家族に迎えました。一緒にいつか狩猟をしたり、フィールドトライアル(狩猟能力をみるテスト)を試したりするためです。この子犬を得るまでに、それなりの調査をしました。 ただし私は見かけにはあまりこだわらず、その中身(気質と能力)と健全性に集中をしてふさわしいブリーダーを探しました。この子犬を得るまでになんと3年はかかりました。ブリーダーも一年に一回あるいは2年に一回程度しか繁殖しないという理由もあります。

たとえ自分のものになっても、ブリーダーが情熱と努力を捧げて作り上げた子犬。私もブリーダーの思いを踏襲して、その犬種らしく能力を発揮できるよう一緒に暮らす努力は怠りません。いわばブリーダーと共同作業を行なっているようなものであり、これこそが「犬種を作る」という行為なのですね。ブリーダーだけじゃない、その犬種に関わった全ての人がやはり犬種作りの一端を担うというわけです。もし自分の犬が才能を発揮して良い狩猟犬になり、かつ健全性も備えていれば、私はブリーダーとの協調で、繁殖に使うことも厭わないでしょう。こうして次世代へよりよい遺伝子を残す、より良い犬種を作っていくことに貢献をします。これは今後の犬種歴史の一ページを刻むとても面白い作業です。

喩えが悪いかもしれませんが、犬種とは消費者の需要に応じてやたらむやみに大量生産されるものではないのです。ブリーダーそしてその犬種が好きな人々が力を合わせて作る「手作り」の生き物、そう考えてくれる人が増えれば、犬種への見方も変わってくるだろうし、むやみやたらに産ませてそして買わせる人も、あげくのはてに捨てられる犬も減るのではないかと思うのです。

GEEN DOG相談ルーム

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藤田 りか子(ふじた りかこ)

藤田 りか子(ふじた りかこ)

ドッグ・ジャーナリスト。レトリーバー二匹と自然豊かなスウェーデン・ヴェルムランド県の小さな村に在住。スウェーデン農業大学野生動物管理学科にて修士号を得る。犬の繁殖管理や福祉の先進国スウェーデンはじめ北欧の犬情報はもとより、ヨーロッパ各地の純血種の知識に詳しい。著者に『最新世界の犬種図鑑』。 現在ノーズ・ワーク(嗅覚を使うドッグスポーツ)に夢中、コンペティターでもある。
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