2017.07.28心のケア

犬との主従関係は大切?主従関係のチェックと築き方

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犬をしつけるためには「犬との主従関係」が大切で、「飼い主には群れのリーダーとして自信を持った態度が重要だ」と広く言われていましたが、最新の犬の行動学ではどうなのでしょう。代官山動物病院の獣医師で、獣医行動診療科認定医の藤井仁美先生に、飼い主と犬とのよい関係づくりについて教えていただきました。

犬の主従関係とは?

そもそも犬同士の主従関係というものがあるのでしょうか。しつけ本などでいろいろな情報が氾濫していますが、本当のところはどうなのでしょう。 

すると藤井先生は、きっぱりこう言います。
「そもそも犬という動物の頭の中には、<主従関係>という言葉や観念は存在しないと考えてよいでしょう。」

オオカミや野生の犬は、自分(しいては自分たち)が生き残るために行動しています。生き残るとは、食べ物の確保、危険回避、繁殖して子孫を残すことです。オオカミなどが、群れで生活するのは、種が生き残っていくために有利だからにほかなりません。

反対に、群れの中で個々がリーダーになろうとお互いに対立・争い・緊張する関係にあれば、それは生き残っていくために不利となります。内輪もめしているうちに、大切な食べ物や資源を他の動物や群れにとられてしまったり、内輪の争いで傷つくことで本来の群れ以外の敵と戦う力を失ったりして、結果、繁殖もできなくなるからです。

よって、そういった状況を極力避けるために、オオカミや犬は社会性を身につけ、仲間と協調したり信頼したりして行動する能力を持っているのです。つまり「主従関係」ではなく、協調し「信頼関係」を築くことこそが、オオカミや野生の犬が群れとして生き残るために重要なことだといえます。

ちなみに、たしかに優位、劣位という立場は、犬の群れの中にあります。しかし、その立場も場面や日によって変わることがわかっています。優位や劣位があるのも、無用な争いを避けるための、生き残るための群れの動物の知恵といえるでしょう。

築くべきは信頼関係

安全確保のために飼い主主導でお散歩することは重要

これは、オオカミや野生の犬だけでなく、家庭犬でも同じことがいえます。飼い主とパートナーに必要なのは、主従関係ではなく、信頼関係です。そして、その信頼関係をつくるうえで大事なのがしつけです。「犬と人は違う」ことを大前提に、犬という動物を十分に理解したうえで、犬に信頼されるためにはどうしたらよいかを常に考え、しつけというコミュニケーションを実践していくこと。それが大事なのです。

しかし、しつけについては多くの情報が錯綜し、さまざまな考え方のトレーナーもいるので、実際にどうしたら良い関係をつくれるのか悩んでしまう飼い主も多いようです。たとえば、主従関係を教えるためにリーダーウォーク(飼い主が主導権を持って歩くこと)が絶対必要という考え方が従来からあります。また、マズルコントロール(母犬が子犬の口先を軽くくわえること。本来は、母犬が子犬の興奮をおさめ、落ち着かせたり安心させたりする行動)と称して、マズル(口先)をギュッときつく掴んだり、マズルを掴んだまま動きを無理に封じ込めたりすることで、リーダーが誰かを教えることができるという考えもあります。

しかし大切なのは、何のためにリーダーウォークやマズルコントロールをするのかを、飼い主自身がきちんと理解することです。端的に言うと、信頼関係をつくるために必要ならそれをやる、反対に信頼関係を壊してしまうのならやらない。ここがポイントです。

場面や状況によっても異なります。都会でクルマの通りが激しいところでは、愛犬の安全確保(道路に飛び出さないなど)や他人に迷惑をかけないために、飼い主主導で散歩することは必要です。しかし、野山の広い自然のなかをロングリードで散歩するときは、愛犬が自由にプラプラと飼い主の前を歩いても別にかまわないと思いませんか。

つまり飼い主は、状況によって正しい判断ができることが大事なのです。愛犬を護るために臨機応変に状況判断することがリーダー(飼い主)の役割です。犬は人間社会の中で暮らすためのルールやマナーを理解したり、危険かどうかの判断をしたりすることはできません。それを飼い主が教えてあげる必要があります。状況によっては、リーダーウォークが必要な場面もあるでしょう。しかしそれは、飼い主に服従させるためのものではなく、犬の安全を守り、犬の信頼を得るために行うものです。

ただし、マズルコントロールに関しては、犬に不安や恐怖、さらには痛みを与え信頼関係を壊してしまう可能性があるので、基本的にはやらない方がよいでしょう。

犬との信頼関係のチェック方法とは

わが子がなぜこんな行動をとるのか理解できてますか?

飼い主に対して愛犬が以下のような行動をすることがありますか。

マウンティングをする
唸る
咬む
吠える

これらは主従関係のチェックポイントだと思われているかもしれません。しかし大事なのは、なぜこうした行動を愛犬がとるのか理解できているか、ということです。犬が吠えるのは、相手に対する威嚇だったり要求だったりと、いろいろな理由があります。それ以外の行動にも、犬側にはすべて理由があります。それらの理由を飼い主が理解できているのであれば、信頼関係は成り立っているといえるでしょう。反対に、なぜこういう行動を愛犬がとるのかわからない場合は、信頼関係が築けていないと考えられます。理由がわからないまま人間の一方的な考えを押しつけても、信頼関係は築けないからです。

犬との良い関係の築き方

このように、パートナーと良い関係をつくっていくためには、犬目線に立ち、どうしてそういう行動をとったのか、犬の気持ちを考えてあげることが重要です。

散歩中にリードを引っ張りすぎて首が絞まった状態で歩くのは、犬の頸椎を守るためにも、社会の安全・安心を守るためにもよくないですよね。そこで、なぜそんなに引っ張るのかを考えてあげるのがリーダーの役目。普段の運動量が足りなくて欲求不満がたまっているのか、臆病でクルマや踏切の音が恐くてゆっくり落ち着いて歩けず興奮してしまっているのかなど、犬の視点で考えてあげましょう。愛犬の行動の理由が理解できれば、きっと改善する道も見えてくるはずです。

その際に注意すべきは、愛犬のことを擬人化しないこと。また、どうしても犬の行動の理由がわからない、理解できないときは、犬の行動学に精通した獣医師やドッグトレーナーなどの専門家に相談してみましょう。

おわりに

従来からよく言われてきた「主従関係」説。その誤解から解き放たれ、大切なのは「主従関係ではなく、信頼関係!」と、心に刻んでみましょう。そうすれば、さらに愛犬のことを優しい気持ちでみることができ、より良い信頼関係を生む原動力になります。強制的に従わせるのではなく、犬目線で犬の気持ちを理解し、どうすれば良い関係をつくれるのかを考えるのです。無理を強要することなく穏やかに接してくれる飼い主である方が、犬も信頼を深めるはずです。犬から信頼される素敵な飼い主(=リーダー)を目指してみませんか。

取材・文:白石 花絵(しらいし かえ)/ドッグジャーナリスト

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監修: 藤井 仁美(ふじい ひとみ)  獣医師 代官山動物病院 行動診療科担当

監修: 藤井 仁美(ふじい ひとみ)  獣医師 代官山動物病院 行動診療科担当

英国ロンドンで10年間暮らし、伴侶動物の行動学を学び、その知識を生かして動物病院やドッグトレーニングスクールで幅広く活動してきました。GREEN DOG代官山内にある代官山動物病院でも行動問題の治療、しつけ方指導、病気のパートナーのメンタル面(精神面)のケアを専門に行っています。犬や猫が抱える多様なストレスは病気に大きな影響を与えています。病気のパートナーに心のケアを行うと治療効果も上がり、再発予防にもつながることを実感しています。心と体の両方から、パートナーの健康な暮らしをサポートいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。 1990年 東京農工大学卒 2001年 英国応用ペット行動学センターにて研修、公認インストラクター資格を取得 2007年 英国サザンプトン大学院にて動物行動学を専攻 2009年 伴侶動物行動カウンセラーのディプロマを取得 2013年 獣医行動診療科認定医の資格を取得
監修: 藤井 仁美(ふじい ひとみ)  獣医師 代官山動物病院 行動診療科担当

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