2014年8月27日
ケーブルカーを乗りこなすワンコ

六甲山の上の方に住んでいるある一人暮らしの男の人が、犬を飼っていた。
名前も分からないし、犬種もわからないけど、
私のイメージでは比較的大きめの日本的雑種。
その犬は、毎朝決まった時間にお父さんが乗るケーブルカーの駅に見送りに、
しかも毎夕決まった時間に帰ってくるお父さんを迎えにくる名犬だった。
お父さんは、毎朝、毎夕駅で送迎してくれるこの犬をたいそう自慢にしていた。
だけど、この犬は全く違う意味で名犬だったのです!
それは、ある日お父さんのもとに届いた一通の請求書から明るみに出た話。
請求書は、山のふもとの蒲鉾屋からだった。
どうやら犬は、毎朝お父さんを見送ると、
次のケーブルカーを待って山のふもとに降りていっていたらしい。
一日中、ぶらぶらとほっつき歩いてはよその犬とけんかをしたり、昼寝をしたり、
学校をさぼった少年のように町をさまよい、
ついでに顔なじみの蒲鉾屋でちくわを一本失敬し、ぱくぱく食べながら駅に戻る。
夕方、いつもお父さんが乗る一本前のケーブルカーに乗って山に帰ってきて、
そこで次のケーブルカーに乗って帰ってくるお父さんを待つ、という戦法なのだ。
知らなかったのはお父さんだけで、地元の人々の間では有名な犬だった。
蒲鉾屋も、この犬をかわいがってはいたものの、
あまりにもいつもちくわを堂々と万引きしていくので、
とうとう何年目かで請求書を送ったという次第。
なんて童話のような話! 今や、都会ではこんなことはあり得ないだろう。
一人でほっつき歩いていては、すぐに保護され、
保健所か動物保護センターに連れていかれてしまうだろうに。
ちくわを食べ続けた犬は、今も生きているのかしら?
実話なんですよ、これ。
母が楽しそうに私に話してくれた実話なんです。