【連載コラム】「日々のあわい」(第8回)何も考えず、手を動かしなさい

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連載コラム「日々のあわい」(第8回)
何も考えず、手を動かしなさい

ダリアを活けた花瓶

第8回

四年前から趣味で茶道を習っている。そのうち妊娠中でお休みしていた期間があったので、実質三年くらい。習っては忘れ、習っては忘れ・・・の繰り返しで、なかなかお稽古は進まず、いまだに初歩の辺りをウロウロしているが、(気持ちだけは)真面目に続けている。

茶道は、その道に深く入っていけば、高尚な精神世界があるのだろうが、私のような初歩の段階では、到底そこまで行き着くことはできない。お茶を点てるというただひとつの行為の為に何十という手順があり、まずはそれを覚えていくのだが、もちろんその場でメモなどをとってはいけない。大切なのは、とにかく手を動かすことだという。「えーと、次どうするんだっけ・・・?」と頭で考えているうちは駄目なのだそうだ。手が覚え、何も考えなくても自然に動くようになってはじめて、流れるような美しい所作になるらしい。そのために何度も反復し、無心に手を動かすのである。

今通っているお茶の先生は、華道も教えられていて、「お茶よりお花のほうが好き」とご自身でも言っておられる通り、稽古場にはいつもご自宅で育てられた茶花が綺麗に活けられている。茶室に入ると、炭の温かい匂いに包まれる。この茶室の雰囲気も、私がお茶を好きな理由のひとつだ。

先日、先生のお宅にお邪魔したときのことである。応接間に入ると、窓辺に活けられている赤いダリアがぱっと目に飛び込んできた。
「これってもしかして・・・?」と聞くと、「そうそう、あなたのお祖母様のダリアよ」と先生は笑った。
もう十数年以上も前のことらしいが、たまたま先生が我が家の前を通りかかったときに、庭に咲いている赤に白の縁取りのある珍しいダリアが咲いているのを見つけ、どうしてもそれが欲しくなってしまったのだという。翌日、意を決して我が家を訪れ、全く初対面だった私の祖母に、「庭に咲いているダリアを一輪もらえませんか」と言うと、祖母は快くダリアを一株分けてくれた。それ以来、先生のご自宅の庭で、毎年そのダリアは大輪の花を咲かせるのだとか。そのことを先生から聞いて以来、祖母のダリアを見るのを楽しみにしていたので、ようやく対面できたというわけだ。

祖母が亡くなってからもう随分経つが、彼女がかつて大事に育てた花が、こうして生き生きと大輪の花をつけているのを見るのはなんだか不思議な気持ちがした。祖母もまさか、あの日のダリアがずっと他所のお宅で咲き続け、孫の私がいずれその花を目にすることになるなんて、思いもしなかっただろう。誰に見せようと思ったわけでもなく、ただ自分の楽しみの為に育てた花だったと思う。元気だった頃の祖母の姿が、私の脳内に鮮やかに蘇り、じんわりと温かく、どこかせつないような気持ちになった。

何かを残すというのは、実はこういう当人が想像もしないような、小さな行動の結果にあるものなのかもしれない。ああ、こうして私が書いている一文一文も、祖母のダリアのように、いつかどこかで、だれかの心に鮮やかに残れば素敵だな・・・と思う。でもあんまり欲張らないでおこう。気負わず、私は私にできることをやるのみである。
そういえば、祖母もかつて茶道をやっていて、かなり上級者だったそうだ。
「ほら、何も考えず、手を動かしなさい」と祖母に言われている気がする。背筋をしゃんとして、机に向かう。

プロフィール

秋山聡子

シンガーソングライター、文筆家(文芸思潮現代詩賞 奨励賞受賞)

1980 年生まれ。1 児(1 歳)の母。
父、母、息子、犬のルーク(ラブラドールレトリバー)、猫のグリ(元ノラ猫)と、兵庫県の田舎のほうに住んでいます。

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