年齢を重ねるにつれて変化していくパートナー(愛 犬)の心と身体。肉体的にも精神的にも健康を保つためには、運動と遊びが大切です。運動も遊びも心身の両面に働きかけるものですが、運動は身体的な機能維持に、遊びは気持ちの満足や脳の活性につながるものです。パートナーの心身の健康を保つためにシニア犬にとっての運動と遊びのコツをつかみ、充実したシニア犬ライフをお楽しみください。
シニア犬にも「運動と散歩」は大切です
運動することは心にも身体にも良い影響を与えます。栄養価の高いごはんやサプリメントだけを与えていても、運動不足だとそれらの栄養素は効率よく体内で活用できないといっても過言ではありません。運動は血液の巡りを良くし、栄養素を身体の隅々まで運んだり筋力や体力を維持したりします。さらには気分転換になったり行動欲求を満たしたりと、心を満たすことにもつながります。
しかし、シニア犬は若い時と全く同じように動けるわけではなく、徐々にできないことも増えていきます。犬の筋力は後肢から衰えていくことが多く、散歩中に座り込む回数が増えたりふらついたりすることが見られるようになります。そうなってくると、パートナーを大切に思うがゆえに運動を控えるオーナー様もいらっしゃいますが、獣医師から運動を制限する指示がない場合は、関節や筋肉を固まらせないためにも運動を継続することをおすすめします。
運動不足から心身がアンバランスになってしまうパートナーもいます。このようなことを避けるためにもかかりつけの獣医師にアドバイスを求めながら、パートナーのできる範囲の運動を取り入れてあげましょう。ここでいう運動とは、平坦な道をただ歩く散歩や野外で排泄するのが目的の外出ではなく、心と身体へのよい刺激になるあらゆる運動を指します。
ただし、若い時と同じ距離や時間・同じ内容の運動では負荷がかかることもありますので、以下を参考に取り組んでください。
ポイント
運動前には
- ・パートナーの体調をチェックし、その日の状態に応じて散歩コースや運動内容を検討する。
- ・1回の運動(散歩)時間を減らすかわりに、回数を増やす。
- ・可能な限り、夏は涼しい早朝や夕方の時間帯、冬は暖かい日中の時間帯を選ぶ。またひんやりグッズや防寒グッズを活用する。
- ・ウォーミングアップとして、マッサージしたりやさしく前肢や後肢の屈伸運動をしたりしてから運動(散歩)する。
- ・転倒の可能性がある場合は、カラー(首輪)ではなくハーネス(胴輪)を利用し、万が一転倒したときでも首に負担がかからないようにする。
- ・はじめてハーネスを使用する場合は犬具が体に当たる部分に痛みがないかよく確認し、室内でハーネスを装着することにある程度慣らす。
運動中には
- ・体調に合わせて休憩時間を取り入れたり、水分補給したりする。
- ・転倒防止にはハーネス(胴輪)を利用し、リードは短めに持つ。大型犬は体高にもよるがハーネスに手を添えるようなイメージで歩き、万が一転倒しそうになったときに支えられるようにしておく。
- ・散歩中にも遊びの要素を取り入れ、出かけることが楽しくなるように工夫する。
例
- ・安全に遊べる広場などで、お気に入りのおもちゃを追いかけたり咥えたりして体を動かして遊ぶ。
- ・公園の入り口などにあるポール(車止め)をジグザグに歩く。
- ・ゆっくり歩いたり、少し早足で歩いたりする。
シニア犬にとっての遊びとは?
ゆったりした毎日を過ごすようになったパートナーに落ちつける環境を用意することは大切ですが、その一方で、適度な刺激も必要です。そこでシニア犬の生活にちょっとした遊びを取り入れてあげることがおすすめです。
ペット行動カウンセラーで獣医行動診療科認定医でもある藤井 仁美獣医師(GREEN DOG & CAT代官山動物病院)によると、科学的なデータがあるわけではないものの、遊びによる刺激は脳の老化予防にも有効だと考えられているそうです。
さらに遊びの良いところは、脳ヘの刺激だけではなく、楽しみの要素も提供してくれることです。そしてパートナーだけでなくオーナー様にとっても、パートナーのシニア期を楽しむ要素になることです。
ポイント
シニア犬と遊ぶときは...
五感を刺激する遊びは衰えていく感覚器のトレーニングにもなり、脳の活性化にもつながります。もし、視覚・聴覚・触覚・臭覚・味覚のうち、すでに衰えている器官があったとしても残された感覚器を使って楽しい時間を過ごすことは可能です。パートナーの状態を観察し、楽しめる遊びを探しましょう。例えば、草木のにおいをかぐ、穴を掘る、いろいろな素材(土、芝生、落ち葉、アスファルト、石畳など)の地面を歩くなども、遊びの要素を含んでいます。
ただし、パートナーが喜ぶから、楽しそうだからといって、ついつい遊びに夢中になって無理をさせてしまうということはないようにしてください。若いときと違い、シニア犬にとってはちょっとした無理が大きな負担になることがあります。あくまで、ほどよい刺激としての遊びであることがポイントです。こまめに休憩をとったり、体を動かす時間を短時間にしたりして、体力管理・体調管理には充分注意しましょう。
シニア犬にもぴったり!おすすめの「遊び」
おやつ当てゲーム
おすすめポイント
このゲームは体を動かす必要がないので、身体的な負担はほとんどありません。臭覚を使うので犬の楽しみにつながるだけでなく、脳の活性化にもつながります。
STEP1
1おやつを片手に握りこぶしで持ち、パートナーにニオイをかがせます。
2おやつを片手に握りこぶしで持ち、パートナーにニオイをかがせます。
3これを繰り返し、「差し出されたオーナー様の手の中のおやつをもらうには、その手に"鼻をつける"もしくは"前肢をかける"とよい」ということを教えます。
STEP2(STEP1が慣れてきたら挑戦!)
1片方の手だけにおやつを握りこぶしで持ちます。
2握りこぶしにした両手をパートナーの前に差し出し、それぞれニオイをかがせます。
3パートナーがおやつを持った手のほうに「鼻をつける」もしくは「前肢をかける」ことができたら、よく褒めてそのおやつをあげます。もし間違ってしまったら、もう一度はじめからやり直してみましょう。
獣医師からのアドバイス
おやつをあげすぎないように気をつけましょう。おやつをあげたときは、その分ごはんの量を減らして調整します。もしくは、ごはんの一部をあらかじめ除けておき、それをおやつ代わりに使うこともできます。
宝探しゲーム
おすすめポイント
おやつ当てゲームと同様、臭覚を使うことで楽しい刺激を与えることができます。
また部屋の中を動きまわることで、ちょっとした運動(身体的刺激)にもなります。
-
1
コングなどの知育おもちゃを複数用意し、フードやおやつを詰めます。小皿などを使っても構いません。
-
2
パートナーを別の部屋に連れて行くか一時的にクレートに入れるなどして、パートナーに気づかれないように部屋のあちこちに設置します。
隠し場所は原則としてパートナーが届く場所、見つけられる位置にします。単純にパートナーの見えるところに置くだけでもいいですし、遊びのコツをつかんできたら難易度を上げて、家具の陰や本の下などに隠しても構いません。
-
3
パートナーに隠したおもちゃ(小皿)を探させます。見事探し出せたらたくさん褒めて、そのおやつをそのままあげてください。
※パートナーが興奮しすぎないように注意してください。
※オーナー様が隠れてパートナーに探させる「かくれんぼ」もおすすめです。
獣医師からのアドバイス
部屋の中で遊ぶときはフローリングなどのすべりやすい床は避け、滑りにくいマットを敷くなどの配慮をすることをおすすめします。パートナーが興奮すると、無理なターンや滑りが足腰に負担がかかる場合があります。骨や関節に問題を抱えている子は、特に注意が必要です。
【番外編】「クリッカーを用いた、頭を使うトレーニング」もおすすめ!
クリッカーとは、指で押すと「カチッ」という音がするドッグトレーニング用のアイテムです。「カチッ」という音はごほうびが出る合図でもあり、パートナーが望ましい行動をしたときにそれが正解であることを伝える合図でもあります。このクリッカーを用いて、パートナー自身に「頭を使って考える」ことを促しながら、ゲームをするような感覚でいろいろなことを教えることができます。
パートナーと一緒に学ぶスタイルのしつけ方教室では、クリッカーを用いたトレーニングを教えているところも増えています。まずはパートナーと一緒に体験していただくことがおすすめです。クリッカートレーニング関連の書籍やDVDも販売されているので、それらを参考にするのもよいでしょう。
獣医師からのアドバイス
クリッカートレーニングをしていくと、パートナーは自主的にさまざまな動きを見せるようになります。これはパートナーが自ら考えて行動している証拠なので、脳への刺激という面ではおすすめです。その一方で、興奮して動きが激しくなると足腰に負担をかけてしまいますので、室内で行う際は宝探しゲームと同様に床材に配慮するようにしましょう。
おすすめ商品
迷ったときは、専門家に相談しましょう
犬のトレーニングについてあまり経験がない、もしくは特定の状況でどのようにパートナーと関わればよいのかわからない場合は、犬の行動に詳しい専門家に相談することをおすすめします。また身体の状態や持病について不安がある場合は、獣医師に相談してください。専門家と連携していくことで、よりパートナーにあった運動方法や遊び方、さらにはパートナーとの付き合い方や絆の作り方などのヒントが得られるはずです。これらの方法はひとつではありませんので、パートナーとオーナー様に合ったものを見つけてくださいね。
この記事を書いた人
ホリスティックケア・カウンセラー
GREEN DOG & CATシニア犬カウンセラー、アドバンス・ホリスティックケア・カウンセラー、ペットマッサージセラピスト、ドッグライフカウンセラー
動物関連専門学校を卒業後、福祉関係の仕事を経てGREEN DOG & CATへ。 チーフカウンセラーとしてこれまで1,000件以上の犬の健康・食事・しつけの相談を行う。現在はシニア犬カウンセラーとして相談を行うほか、専門学校での特別講義やセミナーなどでの講師としても活躍中。
この記事を書いた人
遠藤 和義(えんどう かずよし)
ドッグトレーナー、ホリスティックケア・カウンセラー
国内外の著名なドッグトレーナーやインストラクターに師事しながら、仙台、栃木、横浜などのしつけ方教室でアシスタントを7年間務めたのち、 岡山の動物系専門学校で専任教員としてドッグトレーニングを指導。現在はGREEN DOG & CAT 代官山でドッグトレーナーとして、オーナー様向けのしつけ方教室を担当。人と動物とのより良い関係づくりと、動物福祉の視点を踏まえたパートナーの家庭でのトレーニング方法を日々伝授している。