2017.08.18心のケア

行動学の専門家がお答え!犬が雷を怖がる理由と対処法

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近年は異常気象が多く、突然の雷雨やゲリラ豪雨など不安定な天候が増してきたように感じます。雷が嫌いな愛犬の飼い主にとっては心配が募る季節ですね。そこで今回は犬が雷を怖がる原因や対策、ケアの仕方について、獣医学と動物行動学の両視点から診療できる代官山動物病院の獣医師、獣医行動診療科認定医の藤井仁美先生に教えていただきました。

なぜ犬は雷を怖がるのか?

「うちの子は雷が嫌いなの」と言う飼い主さんは多いのですが、そうであっても行動診療科では慎重に診療します。そして、雷が鳴っている最中に恐怖に関連した行動をする場合、雷恐怖症と診断することがあります。なかには雷が鳴る前から不安症状を示す犬もいます。雷の音が鳴る前からわかる犬もいるのです。

ではそういった犬は何に反応しているのでしょうか。考えられるのは……
●音
●光
●風向き、空気中の匂い、明るさなどの変化
●静電気
●骨伝導による振動
 など

何に反応するのかは個体により違います。静電気や骨伝導による振動などは推測ですがあるかもしれません。いずれにしても、犬が恐怖を感じるのは、生命を脅かす危険があると判断しているからです。生命の危険があることを怖がったり回避したりするのは、犬にとっては当たり前の行動といえます。

では、恐怖や不安に関連した行動を示すようになってしまった理由は何なのでしょう?
雷に対して恐怖や不安行動を示すようになる理由をいくつかあげます。

1.その犬のもともとの気質/生まれた時の飼育環境/子犬の社会化期の過ごし方
生まれつき音に敏感な犬種や敏感になりやすい気質の犬がいます。飼い主の家に来る前の飼育環境やそこでのストレスなどが影響することもあります。また生後3~13週の社会化期に様々な刺激(音など)に適応する学習が不足(社会化不足)してしまうと、一般にいろいろな刺激に対して過敏に反応し、恐怖や不安を感じやすくなってしまうことがあります。

2.雷に対する強い恐怖体験によってそれがトラウマとなったため
社会化期に刺激に適応できるように努力していたものの、たとえばすぐ近くで雷が落ちとても大きな音と光を感じて、「怖い!」「危険だ!」と学習し、トラウマ(精神的外傷)となってしまう場合などがあります。トラウマによる恐怖心を取り除いてあげることはとくに時間と技術を要します。

3.飼い主が雷を怖がる様子をみて学習したため
雷を怖がる飼い主の気持ちが犬に「うつっている」ケースです。
「雷が鳴ると、飼い主が怖がる」→「雷=怖いもの」と犬も学習し、怯えるようになるという流れです。

4.飼い主になだめてもらった/優しくしてもらったことを学習したため
上記3のように雷が怖い飼い主が、愛犬を抱きしめ、「大丈夫よ」などと犬をなだめたり、優しくしたりすると「雷=怖がると飼い主が優しくしてくれる」などと学習し、ますます怖がるようになる場合があります。

5.医学的な事由があるため
病気による体調不良、痛み、加齢などに伴って不快感や不安が増加したり、感覚が過敏になったりするなどの理由が隠されていることもあります。

雷恐怖症状の犬が見せる仕草、行動

パートナーの様子をよく観察してあげましょう

恐怖や不安には個体差があり、犬によって実にさまざまな行動をとります。雷が近づいてきたらパートナーの行動をよく観察してみてください。以下にあるような行動は恐怖や不安に関連した反応や行動の例です。

<恐怖・不安行動いろいろ>
よだれがでる
パンティング(ハアハアと速い呼吸をする)
震え
嘔吐
下痢、血便
引きこもる/隠れる
うろうろする/落ち着くことができない
逃避行動(この場から逃げようとする)
 ※そのため雷の日に脱走・迷子・事故などが増える
そこから逃げたくてドアを壊す、リードを引きちぎるなどの破壊行動
抱っこしようとしたら噛みつく(逃避行動からくるもの)
排泄に関する粗相(トイレ以外の場所でする。回数が増える。下痢で汚すなど)
吠え続ける(恐怖の対象を追い払おうとしている)
けいれん、失神
 など

恐怖・不安行動が現れたときはどうすればいいか

上記のような行動がでたら、飼い主がすべきことは以下のとおりです。

1.犬に対しては何もしないこと!
意外かもしれませんが、初期対応としてやるべきことは「何もしないこと」です。雷が鳴り出し、犬が恐怖・不安行動をし始めても、なだめたりもせず、抱っこもせず、声もかけず、なすがままにしておきます。もちろん飼い主も雷を怖がって騒いだりしてはいけません。飼い主も平常心でいてください。普段との差がないように普通に振る舞います。雷が鳴っても、飼い主は何もアクションを起こさないことが重要です。

犬がどこかに逃げこんでいるのであれば、その場所の安全を確認した上でそこにいさせてそっとしておきます。雷で動揺してパニックになる犬もいます。そういった場合は安全確保をしてください。脱走させない、落下事故を起こさないなど、犬の身の安全の確保は必ず行います。ただし、リードでどこかにつないでおくとパニックでリードが首に絡み付いて思わぬ事故につながることがあります。脱走を予防する際もむやみな拘束はやめ、ある程度自由が利く状態にしておいた方がよいでしょう。

そしてもうひとつ注意点。恐怖行動を起こしている最中の犬に対して「叱る」「ひっくり返しておなかを出させる」「拘束する」など、罰を与えて対応をする飼い主がいますが、これらは恐怖行動がよけいにひどくなるので、絶対にしてはいけません。こういった罰による対応はさらなる恐怖や不安を与えるだけでなく、飼い主と犬との信頼関係をも破壊してしまいます。犬の立場になり気持ちを考えて対応しましょう。

2.身体症状がひどいときは、すぐ動物病院へ!
パニックのあまり身体に大きな異変が起きているときは対応が必要です。放っておかずに早急に病院へ連れて行ってください。 恐怖のあまり、以下のような身体症状がでたときは緊急事態です。

注意!
●吐き続ける
●下痢が止まらない
●血便をする
●けいれんする
●失神する
 など

3.かかりつけの獣医師にこの行動について相談する
上記のような緊急事態にはならないものの、雷に対する恐怖・不安行動が見られる場合は、一度かかりつけの獣医師に相談してみましょう。雷が鳴ると愛犬がどのような行動をとるのかを先生に説明してみてください。恐怖・不安症状を起こしている最中の動画をとっておくと、より説明しやすいです。

その上で健康状態を確認するための診察をしてもらいます。恐怖や不安行動は、痛みや病気などで起こる可能性もあります。まずはそういったことがないかを確認しておく必要があります。病気や痛みなどが見つかれば、かかりつけの獣医師はそれを治療することができます。ただし、それでも恐怖や不安行動がおさまらないのであれば、行動診療に詳しい獣医師(可能であれば認定医)を紹介してもらうとよいでしょう。

4.行動診療の認定医の診察を受ける
雷に対する恐怖などを緩和するためには、獣医行動診療科認定医がいる動物病院などで、行動診療を受けるとよいでしょう。行動診療では詳しくカウンセリングを行い、診断(原因を突き止める)し治療プランを立てます。原因は単純なひとつのことでなく、いろいろなことが複合的に絡まっていることもあります。カウンセリングでは子犬のときからの様子や現在の環境、生活スタイル、飼い主との関係性なども細かく分析し、原因を特定し診断します。やはりこのときも、恐怖・不安症状を起こしている最中の動画を見てもらうのがよいでしょう。

診断がついたら治療プランを立てます。そのプランにしたがって、お家でいろいろと実践してみることになります。恐怖や不安行動ができるだけ起こらないような環境づくりや接し方の改善だけでなく、今後恐怖が悪化しないための方法や恐怖や不安を少しでも緩和するための方法、サプリメントや薬物などを飲ませる方法などが治療プランには含まれます。

5.行動診療の治療プランに従い日常生活の見直しやトレーニングをしていこう
上記1では雷が鳴ると恐怖・不安行動を起こす犬に対する初期対応を書きましたが、そういった行動の緩和を目指して、恐怖心に負けないような心を育むような対応も行いましょう。これは雷シーズンが始まる前にスタートすることが大切です。

この日常生活の見直しやトレーニングの方法は、犬種、個体などによって様々な違いがあります。基本的な例を紹介しますが、パートナーの様子を見て行動診療の治療プランに沿って実践するのがベストです。

ちなみに下記に紹介する対応法は雷が鳴っている最中にやるものではないので、間違えないようにしてくださいね。

(1)犬の行動ニーズを満たし適度に発散する機会をつくる
たとえば牧羊犬などの作業犬に多いのですが、行動ニーズにあった運動や遊びが足りていないと、ささいな音などの刺激に対して過敏に反応する場合があります。日常的に、犬種に適した行動ニーズを満たすための運動、脳を刺激するゲームなどを行って発散させると不安傾向の犬も落ち着いて刺激に対する過敏さを軽減することができます。

(2)犬種に関係なくトレーニングやノーズワークなどを行う
オビィディエンス(服従訓練)やノーズワーク(鼻を使ったトレーニング)をして、指示に従うとか、鼻を使って集中力を養うなど、パートナーに頭を使わせる楽しみを教えましょう。こういった作業などをつうじて成功体験を積ませることで、犬が自信をつけたり、飼い主との絆が強くなり、雷に対する恐怖克服の糸口になります。

(3)系統的脱感作と拮抗条件付け
これは行動修正法のひとつです。たとえば、雷鳴を録音したものを小さな音で聞かせたときに怖がらずに落ち着いていたらおやつ(ごほうび)を与える。それを犬が怖がらないレベルの音
の大きさで繰り返す。
そして少しずつ音を大きくしていっても、冷静に落ち着いておやつを食べられるようになるまで練習します。この方法は犬の行動を評価すること、音の大きさレベル
を判断すること、オヤツを与えるタイミングを間違えないこと、さらに音以外の複数の刺激に対しても行う必要があることなど、いろいろ難しい点がたくさんあるので、認定医や認定医から紹介されたトレーナーの指導を受けながら実践するとよいでしょう。

(4)薬物やサプリメントによる治療
雷に対する恐怖やパニックがひどくて危険な行動を起こす場合や、実際に雷が鳴っていなくても不安行動などが起こってしまう場合などは、認定医の先生の判断で抗不安剤や抗うつ剤を処方することもあります。雷が起きそうな30分〜1時間前に頓服として飲む薬や、普段から毎日飲み続けて不安のレベルを下げる薬などがあり、処方や飲ませ方は獣医師の指示に従わなくてはいけません。薬の作用で犬の恐怖・不安・興奮などのレベルを下げ、犬の苦痛を緩和してあげることは非常に重要です。また薬が効いてある程度パートナーが落ち着いていたら、(1)で書いたように「犬に何もしないでそっとしておく」ことも比較的実践しやすいでしょう。薬の使用に抵抗がある人は、心を落ち着かせる作用のあるサプリメントからスタートするのもよいでしょう。

おわりに

QOL(クオリティ オブ ライフ)の質が重要

雷を怖がり怯えるパートナーの姿を見ていることは飼い主としても切ないものです。雷に対する恐怖は、犬にとっても飼い主にとっても辛く、治ってほしいと心から願う行動です。「この子は臆病な性格だから治らない」とか「このままでもしょうがない」と諦めている人も多いのではないでしょうか。パートナーのために諦めないで、行動診療に詳しい獣医師を訪ねてほしいと思います。アドバイスによって症状が緩和されるかもしれません。

恐怖や不安に関連した行動をそのまま放置していると、そういった行動がひどくなったり、まだ雷が鳴ってもないうちから雷がくることを予見しパニックに陥るタイミングが早まる犬もいます。犬とはとても賢く、学習のできる動物ですから、対応の仕方次第で良くも悪くもなるのです。雷シーズンを楽に過ごさせ、パートナーのQOL(生活の質)がよくなるように、飼い主さんが対応や治療に前向きになり、早めに行動診療科認定医などのアドバイスを受けながら取り組んでみてください。そしてパートナーの苦しみを和らげ、心の傷を癒やし、支えてあげてください。

行動診療をおこなっている獣医師の情報は、こちら(http://vbm.jp/syokai.html)に載っています。

取材・文:白石 花絵(しらいし かえ)/ドッグジャーナリスト

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監修: 藤井 仁美(ふじい ひとみ)  獣医師 代官山動物病院 行動診療科担当

監修: 藤井 仁美(ふじい ひとみ)  獣医師 代官山動物病院 行動診療科担当

英国ロンドンで10年間暮らし、伴侶動物の行動学を学び、その知識を生かして動物病院やドッグトレーニングスクールで幅広く活動してきました。GREEN DOG代官山内にある代官山動物病院でも行動問題の治療、しつけ方指導、病気のパートナーのメンタル面(精神面)のケアを専門に行っています。犬や猫が抱える多様なストレスは病気に大きな影響を与えています。病気のパートナーに心のケアを行うと治療効果も上がり、再発予防にもつながることを実感しています。心と体の両方から、パートナーの健康な暮らしをサポートいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。 1990年 東京農工大学卒 2001年 英国応用ペット行動学センターにて研修、公認インストラクター資格を取得 2007年 英国サザンプトン大学院にて動物行動学を専攻 2009年 伴侶動物行動カウンセラーのディプロマを取得 2013年 獣医行動診療科認定医の資格を取得
監修: 藤井 仁美(ふじい ひとみ)  獣医師 代官山動物病院 行動診療科担当

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