今回は、全ての飼い主が経験する"パートナーとのお別れ後の過ごし方"について考えたい。
ペットロスとは、「悲しみの涙が感謝の涙に変わるまでの時間」のことだと僕は考えている。
「その時期をどう過ごすか?」「どのように感謝の涙に変えるか?」そして、「周りの人はどのようにケアをしてあげればよいか?」について、ペットロスについてのハンドブックを発行しているHAAC(Human And Animal Community:ハーク)さんにお話を伺ってきた。
犬の写心家 ホタパパ(初田 勝一)
1966年京都府生まれ。犬の心を撮る「犬の写心家」として活躍中。
いきいきと躍動感のある写心が愛犬家の間で話題となり、2007年に開催した写心展「ガンバレ!老犬写心展やさしい時」が反響を呼び、毎年シニア犬をテーマにした写心展を全国各地で開催。自分の人生を変えたゴールデン・レトリバーのホタル(10歳)とジャック・ラッセル・テリアの岳(2歳)とともに、全国各地の愛犬たちを撮影している。
今回は、全ての飼い主が経験する"パートナーとのお別れ後の過ごし方"について考えたい。
ペットロスとは、「悲しみの涙が感謝の涙に変わるまでの時間」のことだと僕は考えている。
「その時期をどう過ごすか?」「どのように感謝の涙に変えるか?」そして、「周りの人はどのようにケアをしてあげればよいか?」について、ペットロスについてのハンドブックを発行しているHAAC(Human And Animal Community:ハーク)さんにお話を伺ってきた。
HAAC(Human And Animal Community:ハーク)
飼い主心理学を学んだ獣医師およびカウンセラーによって運営。ペットロスを含め、ペットに関するさまざまな相談を受けたりペット関連の仕事をしている専門家向けにセミナーを実施したりしている。
今回、お話を伺った方々
先崎 直子さん
獣医師として横浜市の動物病院に週3回勤務 。「飼い主とペットのより幸せな暮らしのサポート」をモットーに、治療以外に飼育相談の時間を設けてカウンセリングをしたり、パピークラス、歯みがき教室などの活動を行ったりしている。
宮下 弘子さん
獣医師としての臨床経験を活かし、現在、"動物病院専任のカウンセラー"として動物病院に勤務。告知場面での同席、ターミナル期のメンタルサポートをスタッフと協力して院内で行ない、獣医師とご家族の橋渡し的な役割を担う。
稲本 有香さん
死生学、グリーフ・スタディ、ターミナルケア、カウンセリング等について学び、グリーフ・カウンセリング・センター(GCC)においてカウンセラー資格を取得。現在、GCCにおいて委託カウンセラーを務める。
ホタパパ:「まずはじめに基本的なことをお伺いしたいのですが、ペットロスとは何ですか?」
稲本さん:「そうですね。おそらく多くのオーナー様がペットロスについてよく分からないままに、『なったらどうしよう』と不安に感じておられると思いますので、基本的なお話からしたいと思います。ペットロスとは、愛するものを亡くした後におこる、さまざまな反応や変化のことです。かけがえのない大切な存在を失ったとき、私たちの心や身体、考え方、人間関係などにさまざまな反応や変化がおこります。それは心理学用語でGrief=グリーフ(悲嘆)と呼ばれ、愛するものを失ったときに誰でも経験するものです。大切なパートナーを亡くしたときに経験するペットロスも、このグリーフのひとつです。」
ホタパパ:「愛するものを亡くした後の変化ということなら、パートナーを愛する人は全てなるのでしょうか?」
稲本さん:「そうですね。ちょっと想像してみてください。愛するパートナーを亡くして、少しも悲しくないという方はいらっしゃるでしょうか?悲しみや寂しさを感じることも、ペットロスの反応のひとつです。そう考えると、ペットロスはパートナーを愛する方の誰もが経験しうることだといえるでしょう。」
ホタパパ:「では、ペットロスにならないようにすることはできないのですか?」
稲本さん:「そうですね。さきほどホタパパさんは、『ペットロスとは、悲しみの涙が感謝の涙に変わるまでの時間のことだと思う』とおっしゃいましたね。私たちHAACも、ペットロスとは『パートナーを亡くした痛みや悲しみが癒えるまでにたどる"心のプロセス"』だと考えています。そのプロセスは人によってさまざまで、個人差があります。 比較的スムーズに気持ちに整理がつく方もいらっしゃれば、そうでない方もいらっしゃいます。心理学の専門用語では『グリーフ(ペットロス)の複雑化』という言い方をするのですが、何らかの要因でペットロスがこじれ、心のプロセスがうまく進まずに滞ってしまい、重くなったり長引いたりした状態、という風に考えていただくと分かりやすいでしょうか。ですので、ペットロスについては『ならないようにする』のではなく、こじらせずに『うまくつき合っていく』ためにどうすべきか?と考えた方がよいと思います。」
ホタパパ:「では、ペットロスが重くなる要因にはどのようなものがあるのでしょうか?」
稲本さん:「ペットロスが重くなったり長引いたりする要因はさまざまですが、代表的なものがいくつかあります。たとえば、突然の死や若いパートナーの死などです。私たちは普段、『将来はこうなるであろう』という想定をもって生きています。パートナーについても漠然と『歳をとって徐々に身体が弱り、いずれはお別れの時がくるだろう』というように考えていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。看護や介護をする中で、一つひとつ納得しながら日々を過ごし、その日を迎える。そういった場合と比べて、突然の別れや若すぎる死は全く予期せぬことで、死という現実を受け入れること自体が困難になることがあります。またご自身がご高齢の場合、これまでの人生で身近な親しい人との別れを多く経験していることがあります。その分、パートナーの存在がより大きくなり、亡くしたときの喪失感が一層強く感じられるということもあるでしょう。」
ホタパパ:「ご夫婦の場合、奥さんは乗り越えられるのに、ご主人が思いのほかひどい場合があるのをよく聞くのですが。」
稲本さん:「確かにそういうことはあると思います。ペットロスとうまくつき合い、心のプロセスを進めるためには、まずはパートナーの死という現実を受け入れること、そしてきちんと悲しみと向き合い、自分の感情を解放していくことが役にたちます。しかし一般に、女性と比べて男性は社会的な立場もあり、泣いたり、悲しみなどの感情を表に出したりしにくいということもあるのではないでしょうか。ペットロスを否定してしまうことで、かえってペットロスが長引いてしまうことがあるのです。それは周りからの否定、自分自身での否定です。男性は『男だから、悲しむなんてよくない』と自分で自分の感情を閉じ込めてしまうこともあるでしょう。また男性に限らず、女性も社会的な立場や性格によっては、感情を表に出せない場合があると思います。
またこのほかに、周囲からのサポートが得られない場合も要因のひとつとして挙げられます。たとえば、動物病院の先生やスタッフとのコミュニケーションがうまくいかなかった場合を考えてみてください。パートナーの看護や介護をするオーナー様にとって、病院は本来なら何よりも頼りにしたい存在ではないでしょうか。しかし診察の中で、先生との価値観の違いやちょっとした言いまわしで傷ついた場合、それを引きずってしまうということもあるのではと思います。
今お話ししたいずれの場合にも共通していえることは、さまざまな要因によって悲しみを癒す心のプロセスが滞ってしまうことがあるということ。そのような場合には、気持ちの整理をつけ、前に進むために周囲のサポートがより一層必要になってくるということです。」
ホタパパ:「では、そのためにどんな準備やケアをすれば良いですか?」
先崎さん:「いくつかありますが、ひとつは、信頼してなんでも話せる人、自分の気持ちを分かってくれる人がいるかどうかということです。友人でも家族でも、動物病院のスタッフや行きつけのお店の店員さんなど、だれでも良いです。
ペットロスにより起こる反応や変化は、誰にでも起こり得ることです。それを自分自身が否定し、自分の心にふたをして閉じ込めてしまうのではなく、何らかの形で表現することが、ペットロスに対処するのに役立ちます。周りに話せる人が見つからない場合は、『ペットロスホットライン』を設けてボランティアの方が電話で話を聞くという活動をされている団体もありますので、そういったところにコンタクトをとるのもひとつの方法です。また『今は人と話したくない』という場合は、日記やパートナーに宛てた手紙を書いてみたり、自分の気持ちを絵に描いたりして、感情を解放するという方法もあります。」
宮下さん:「また獣医師の立場からお話すると、できれば普段から定期的に病院に行かれることをおすすめします。パートナーの体質や体調を理解することももちろんですが、オーナー様がご自身のパートナーに対してどういうお考えをもち、どういう関わり方をしているかを普段から知っておくことで、治療方針などを決める際にとてもやりやすくなります。お互いが治療に対する考えを100%出しあってはじめて、よいコミュニケーションになります。獣医師もオーナー様も『これは言わなくてもわかっているだろう』『こんなこと聞いちゃいけない』というふうに思わず、とことん話す、聞くことが重要です。今、獣医療の分野でもコミュニケーション・スキルの向上を進めており、大学でも必須の単位にし、オーナー様とのコミュニケーションをスムーズに行えるよう、改革をしています。
また、病気に対する知識不足など、わからないことに対する漠然とした不安や、パートナーが元気なときはできていたことがだんだんできなくなっていくことへの恐れなどに対し、医療者に遠慮なく打ち明けていただけたらと思います。そうすれば正確な情報をお話したり、必要であればペットシッターなどのサービスをご紹介したりすることもできますし、日中の介護が大変であれば、お預かりなど直接的なサポートをご提案することもできます。細かいことでも一つひとつを解決してもらうことで、オーナー様にとってもパートナーにとっても、亡くなるまでの時間をできるだけ良い状態で過ごしていただくことができると思います。」
ホタパパ:「自責の念に駆られる方も多いと思うのですが、それについては何かありますか?」
宮下さん:「パートナーの死までの間に、さまざまな選択の場面があります。それに対し『あの選択をしなければ...』など、自責の念に駆られる方はいらっしゃるでしょう。それには、なかなか難しいことかもしれませんが、『今』目の前にいるパートナーに目を向けるように心がけることが大切です。限られた時間をどのように過ごすことがパートナーにとって望ましいのか、とことん考えることです。そして自分自身だけでなく、家族や友人、病院の先生など、周りの人にもその決断を受け入れてもらうことです。それでもパートナーを亡くした後に自分を責める方はいらっしゃいますが、考え抜いた結果の選択であれば、最終的には『あの時のあの選択がベストだった』とご自身で納得されます。」
ホタパパ:「孤独感に苛まれる方もいらっしゃいますが、孤独とどう向き合うべきですか?」
稲本さん:「孤独感のあり方も人によってさまざまですが、その孤独がどこからきているかです。愛するものを亡くして孤独感を感じる方は多いと思います。それは自然な感情ですよね。ですが、悲しみと向き合い、心のプロセスを進めた方々の多くは、亡くなったパートナーとの間に今も続く絆を再確認され、『今もそばにいて見守ってくれている気がします』『大切なことを教えてもらいました。それが今の私を作っているんです』などとおっしゃる方もいます。それはパートナーとの新しい関係性であり、そのようにおっしゃるオーナー様たちはもはや、孤独感に苛まれてはいないのではないかと思うのです。それに加えて周りのサポートも、孤独感の軽減に役立ちます。」
ホタパパ:「周りの人はどのようなケアをしてあげればいいですか?家族だけでなく、今はfacebookやブログで"犬"を通したつながりが増えてきています。さまざまな距離感の立場で、パートナーの死を迎えた人に対し、どういう接し方をすれば良いですか?」
先崎さん:「パートナーの死を迎えた今、そのことをどのように受け止め、どういったサポートを望まれているのか、オーナー様によってさまざまです。ネット上で頻繁にやり取りをしている方のパートナーが亡くなったとき、心からお悔やみを伝え、何とかその方のお力になりたいと思うのは、とても自然なことです。ただ残念なことに、よかれと思って伝えた言葉や行動が相手の望むサポートでなかった場合、逆に傷つけてしまう可能性があるのも事実です。ネット上の言葉のやりとりは相手の表情や口調がわからないので、その方の望んでいることを察するのが、とても難しいです。
言葉のみで伝える際には、パートナーが亡くなられたことに対するお悔やみの気持ち、その方を心配する気持ちに極力焦点をあてるようにし、『うちの子の場合はね...』と自分に焦点が移ったり、ペットロスのプロセスを無理に促すような、その時期にそぐわない励ましの言葉は控えた方がよいかもしれません。またパートナーを亡くされた方で、今は他の人と言葉のやり取りをすることを負担に感じられる方もいらっしゃると思います。そのような場合には、『コメントを寄せていただき、ありがとうございます。もう少し心の整理がつきましたらコメントいたしますので、申し訳ありませんが、しばらくお待ちください』というような意思表示をされると、心のプロセスを進めることに集中できると思います。」
ホタパパ:「ペットロスが重くなるとどのようになるのでしょうか?うつのような状態のことですか?」
稲本さん:「うつとペットロスの関係ですが、ペットロスの反応で抑うつ状態になることはあります。それは原因が明確で、パートナーが亡くなったことに心と身体がショックを受けているわけです。ただペットロスの場合、何週間も何カ月も1日中ずっと抑うつ状態が続くということではなく、たとえば仕事や家事に集中しているときは悲しみが頭から離れている時間もあるわけです。心のプロセスをスムーズに進めるためには、悲しみと向き合う時間も、ひととき悲しみから離れて生活する時間も、両方が大切になります。時には何か好きなことをして気を紛らわせたり、リラックスして心と体を休める時間をもったりすることも役立ちます。そうやって2歩進み1歩下がるというように、徐々に日常の生活パターンにもどっていくわけです。
しかし何らかの理由で1日中ずっとパートナーの死と向き合い続け、その状態が何週間も何カ月も続くと、心身の健康を損なってしまいます。そうなると、自分自身や周りのサポートだけでその状態から脱するのは難しいので、心療内科などの専門家のサポートを受けることも選択肢のひとつになるかと思います。」
ホタパパ:「そういう場合はカウンセリングに行くのですか?心療内科に行くのですか?」
先崎さん:「ご自身で心身の不調を自覚し、何とかしようと思われる方であれば、心療内科に行くことに抵抗がないかと思いますが、そうでないと抵抗を感じられる方も多いと思います。周りの方々は、例えば、眠れないのであれば『眠れないのはつらいと思うから、お医者さんに診てもらって薬を出してもらおうか』という言い方があると思います。また『身体に現れた症状を改善するために』という言い方でおすすめする方が、受け入れてもらいやすいかもしれません。そのときに一緒に行って差し上げることがサポートになることもあります。
メンタル面では『苦しい気持ちをきちんと聴いてもらうと、楽になるかもしれないよ』とカウンセリングや自助グループによるサポートにつなげる方法もあるかと思います。今はネットなどでいろいろな情報を集めることができますので、基本的にはご自身で、ご自分にあった病院やカウンセラー、自助グループなどを見つけていただくのがよいと思います。もしなかなか見つけられないということでしたら、私たちでもご相談をお受けできますし、また首都圏に限られますが、私たちが信頼しているカウンセラーやグループをご紹介することもできます。」
ホタパパ:「そうならないために、ぜひこの対談を読んで、周りのサポートを受けながら乗り越えて欲しいですね。」
HAAC:「最後にお伝えしたいのは、パートナーたちは人間とは違う動物であるということです。人間は未来に対して不安を抱くことがありますが、犬や猫は、今このときを懸命に生きています。まだ来ていない彼らの死を恐れるのではなく、出会ったことに感謝しながら、『今この瞬間』をパートナーとともに大切に過ごしていただけたらと願っております。」
ペットロスについて、そして今までの連載についてまとめてきた、僕とGREEN DOG & CATの担当者。 周囲の人から「一番心配な2人がペットロスについてまとめている。」って言われます。
悲しみの涙が感謝の涙に...。
犬は99%の感謝と1%の悲しみを残してくれる。その1%の悲しみはとてつもなく大きくて、高くて乗り越えられないような壁にさえ感じる。その、たった1%の悲しみで99%の感謝の心を見失うこともある。誰もが通る道、大げさに言えば、出会った瞬間から別れのカウントダウンが始まる。ずっと一緒にって誰もがそう願っているし、叶うことのない切ない想いを抱いている。
自分の人生が終わる瞬間、走馬灯のように人生を振り返れる時間があるという。僕はきっと、ホタルと出逢えて本当にシアワセだったって、そう想いながら目を閉じるだろう。今までの連載、「ひとりでも多くの方にひとつの選択肢として覚えていてください」と表現してきたが、本当は、そう遠くない自分への手紙(メッセージ)なのかもしれない。このコメントを書くだけでも涙が溢れてくる。ホタルを抱きしめたくなる。だから今日を、一緒に笑顔で過ごします。
(ホタパパ)