【犬との暮らし】犬の心を育む6~犬の心に伝わる注意の仕方、教え方のコツ6つ
こんにちは。ヒトと犬の心と行動カウンセリングをしている、ドッグメンタルトレーナーの白田祐子です。
犬の気になる行動を改善するために、しつけの本を参考に実践してみても、なかなか思い通りにならず、ガッカリした経験がある方も多いのではないでしょうか。なぜ、お手本通りにやっても、うまくいかない場合があるのでしょう。今回は、犬に正しい行動を教えるコツを一部ですが取り上げてみたいと思います。ポイントは「何をするか」よりも「どのように伝えるか」です。1つでも、ぜひ取り入れてみたいと思ってもらえると幸いです。
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目次
1:穏やかに心を通わす
犬の行動を正すときに、怒りやイライラなどの感情が優先されるとメッセージは伝わりにくくなるものです。大声や怒鳴り声は、最初は有効かもしれません。でも、怖いから従うのでは、犬はなぜ怒られたのかを理解していないため、怒る人がいなくなったりその声を無視できるようになると従わなくなってしまいます。
また、いつも強い口調で「お座り!」と命令されていると「お座り」と嫌な気分がくっついて意識に植えつけられるので、お座りを拒否したくなりがちです。毅然とした態度は必要ですが、強い命令口調や感情をぶつけるのではなく、いつでも穏やかな冷静さが求められます。その他、引っ張る、たたく、マズルを掴むなど力で支配しようとしたり、罰を与えることは信頼関係が壊れ、問題行動の発展や学習意欲の低下を招く可能性が高まりますので「よい結果は生まれない」と覚えていてほしいと思います。
2:声や顔に表情を持たせる
いくら穏やかさが大切といっても、普段と変わらない様子や自信なさげの声では犬の意識を通り過ぎてしまいます。声や顔に表情を持たせて「いつもと違う」と思わせることが大切です。たとえば、あなたの目の前で「おやつが欲しい」などの要求吠えをしているのをやめさせたい時、犬の目をしっかりと見て、目に力を込めて首をゆっくり左右に振り、フラットな声で短く注意をすると、その緊迫感や雰囲気などからメッセージが伝わりやすくなるのです。心はリラックスしていながら、声や表情では真剣味を表現するのがコツです。大切なのは言葉よりもそこに含まれる感情です。また、気持ちを集中させて1回で決める覚悟も必要です。
言葉を伴わせる場合は、短い言葉のほうが犬には伝わりやすいものです。たとえば、私は「おわり」「あとで」「待て(止まれ)」「シーッ(静かに)」など、なるべく3語以内でバリエーションも最小限にするようにしています。
3:脳のスイッチを切り替えさせる
人や犬、鳥などに吠えかかろうとしたり、狙いを定めているときなど、犬の行動をすぐに制御したいときは、まず、こちらに注意が戻るような合図をして、意識を切り替えさせることが必要です。たとえば、首輪(胴輪)とリードを繋ぐ金具をカチンと鳴らすように素早く刺激を与えるなどです。その他にも、指を「パチッ」と鳴らしたり、舌を「タンッ」と鳴らしたり、音の出るおもちゃをポケットに忍ばせて短く鳴らしてもよいでしょう(おもちゃを見せてはいけません)。その時に言葉を使うと、意図していない感情が声に含まれて逆効果になることもあるので、声は出さない方がよいと思います。
音が聞こえない状況や首の刺激に慣れている場合は、直接お尻や横腹をタッチすることをお薦めします。私たちも、心が感情に支配されたり何かに集中している時などは、周囲の声や動きに気付きにくいものですよね。そんなとき、肩や背中をポンポンッと叩かれるとフッと我に返った経験はありませんか。その時のように、「ハッ」としたり「ワッ、びっくりした」という程度の強さとスピードでタッチします。こうやって、愛犬の脳のスイッチが切り替わってこちらに意識が向いてから、注意、褒める、その場を離れるなどすると、より指示が伝わるようになるでしょう。
4:行動モデルを示す
正しい動きや振る舞い方を学びたいという意欲は生後半年ほどから高まります。犬同士はある行動をできない仲間がいると、その行動を何度も見せることで、正しい動き方を覚えさせます。人間との暮らしでは、私たちには当たり前と思っている行動でも犬は教えてもらわなければ分りません。静かに心を込めて、順序だてて動きを教えてあげると、犬はそれを理解し適切な行動を覚えようとするのです。適切な行動を具体的に繰り返し伝えてあげるようにしてみましょう。
ワン!ポイントレッスン:行動モデルの示し方
<ステップ1>一連の動作を一つ一つの動きへと切り離す
例えば、テーブルに前足をかける犬を脇で静かに待たせたい場合、テーブルから前足を離す、前足が床に着く、動きを止める、座る、の4つの動きに分ける。
<ステップ2>ゆっくりと順序だてて短い言葉で動きを正す
テーブルにかけた前足を静かに押して払う、4本の足が床に着き落ち着くのを確認し、「お座り」の指示を出す。テーブルに手をかけた状態で「お座り」と言っても、その体勢からは座りにくいのでなかなか座りません。あるいは手をかけたときに「ダメ」とだけ言っても、テーブルに近づいたことがダメなのか、食べ物の匂いを嗅いだり見たりするのがダメなのか、境界が犬には分りません。前足を払らわれてからどう動くのかを覚えさせることで、テーブルと「座る」が結びつくのです。
5:自己決定感を与える
昨今、犬のしつけは、従来の単に罰を与えたり褒めたりして行動変容させるものから、情報がどのように獲得され保存されるかという認知論を中心とした方法が主流になってきました。方法としては、心理学でいう道具的条件づけ(instrumental conditioning)といった20世紀初頭の学習心理学を軸になされます。この実験では、自らの行動結果から得た快は、その行動をとる満足感と重なり意識に植えられるため、行動が維持促進しやすいとともに、他の課題へのモチベーションも高まることが明らかにされています(Skinner,B.F.;1904-1990)。つまり、自発的な行動の結果良いことがあれば、犬はその行動を覚えて、とり続けるようになるということです。
たとえば、ゲージに入るのを教えるとき、ゲージの入り口までは体に手を添えてお尻を押したりするなど誘導してあげたとしても、最後は犬が前へ進んだ瞬間を見極めて手を離し、あたかも最初から犬自らがゲージに入るという行動を選択したと思わせることが大事なのです。そしてゲージに入ったら褒めたり撫でたりおやつをあげると、犬は自発的に行動した結果よいことがあったと記憶し、その後は自らゲージに入るようになるでしょう。他の場面でも最後まで無理に犬を引いたり押したりせず、少し力を加えて導き、思う方向に犬が進んだとき力を緩めることを心掛けると、目指している方向は同じだと犬も気付けるようになるはずです。
6:繰り返し教える
最初のうちは、一度正しい行動ができても、すぐにまた違う行動を繰り返すかもしれません。子犬も母犬に注意をされたときの行動をわざと繰り返して、もう一度注意をされるか試します。あなたの愛犬もあなたを何度か試すかもしれません。ですから「昨日はできたのに今日はできない」とがっかりせず、「試されている」ということを思い出してみてください。
でも犬はなぜそのような行動をとるのでしょう。実は人も動物も経験・理解・判断という少なくとも3つの働きが段階的に重なりあったときに学習されると考えられています。この道筋を踏みしめて納得したとき、はじめて行動が変わったり、新たな行動が獲得されるのです。この、メカニズムを理解しておくと「どうして?」と苦い気持ちになるのを防げるかもしれません。
ワン!ポイントアドバイス:学習の3段階とは?
【経験】
見る・近づく・嗅ぐ・触れる・体を使うなど、感覚器官や運動器官を用いてなされる
経験。「なぜ?」「なに?」という問いかけになる。
【理解】
経験から得た問いかけを比較分析などし、「なるほど!」と理解にいたる。
【判断】
理解したことを「それは正しいのか?」と繰り返し確認することで「やっぱり!」
と学ぶ。
学習が定着する手前で終わらないよう、繰り返しフィードバックして正しい行動で終わらせることが行動を学ぶためには不可欠なのです。
おわりに
愛犬に正しい行動や習慣を教えることは、その犬が本来持つ性質や性格を変えてしまうことになるのでは、と危惧している飼い主さんもいるかもしれません。でも、犬の行動を正すということは、犬が心や行動をコントロールするために必要な情報を与え、方向性を示してあげることだと思うのです。そのためにも、状況を見極め、その注意や指示が本当に必要なのか、自分自身に問いかけてみることも必要で、案外、新たな発見もあるかもしれません。
愛犬の困った行動や心配な行動を正すときは、ハッと気付かせ、いつもと違う声や表情で具体的な行動を示しながら繰り返し教え考えさせることが大切です。注意をする時だけ犬に注目すると、犬は注目されるためだけの行動をとりたがるようになりかねません。リラックス状態や正しい行動をしている時に褒めるということも忘れてはいけませんよね。
私たちが真剣に犬に向かうと犬もそれを感じ取り真っ直ぐに向き合います。でも、あまり真剣になりすぎて、深刻になってはいけません。「あー、こうやったら楽しいかもね、面白いかもね」「面白そうだからやってみよう」という、気持ちも忘れずに、ぜひ今回のコツを「取り入れてみよう」と思っていただけると嬉しいです。間違ったタイミングや方法で注意をすると、犬の心も傷つきます。困った行動でお悩みのときは、深刻な状態になる前に「専門家のサポートを受けることも一つの方法」であることを忘れずにいてほしいと思います。
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