【犬との暮らし】犬の心を育む7~犬に必要とされるリーダー像とは?
こんにちは。ヒトと犬の心と行動カウンセリングをしている、ドッグメンタルトレーナーの白田祐子です。
「犬は家族に順位をつける」「問題行動を起こす犬は自分の方が、地位が上だと思っているから」「人が上位に立ちましょう」など、このような話しを見聞きしたことはありませんか?
これは、狼の群れは頂点に君臨する存在(アルファ)が統率しているという観察結果から得たアルファ理論をもとに、20年以上前に広まった考え方です。近年の研究では、自然界の狼の群れには支配と従属の関係は確認されず、また、狼と犬を同一視することに限界もあり、上下関係で制するしつけ方には大きな疑問が持たれています。
でも、アルファ理論が否定的に据えられたからといって、「犬はリーダーを必要としない」ということではありません。今回は、犬と一緒に暮らす人間に求められるリーダー像について考えてみたいと思います。
ドッグメンタルトレーナー白田さんのこれまでの記事はコチラ→白田さんの記事一覧
犬にとってのリーダーとは
犬の群れの生態観察をするとリーダーの存在が確認されます。ただ、アルファ理論と大きく違うのは、リーダーは群れを支配する唯一絶対の存在ではなく、その時々の目的や状況に適した犬がリーダーになるという点にあります。
たとえば、狩りのときには、足が速い犬(運動能力)、戦略を考える犬(頭脳・技術・経験)、群れをまとめる犬(発信・統率力)が、それぞれ役割分担をしてリーダーシップを発揮します。また、子犬の教育では、親や兄姉犬(寛容・協調)が繰り返しコミュニケーションのサポートをします。泳げない犬には、何度も泳ぎ方の手本を見せ(忍耐・具体的)、勇気を与え対岸へ導く(意志力)など、それぞれの局面で群れの安定と問題解決にふさわしい資質をもつ犬が、自然発生的にリーダーの役割を担います。支配と従属や上下関係はなく、常に同じ犬が君臨することもないのです。
リーダーと支配者の違い
人と犬の関係で人が果たすべき役割は、上位に立って犬を従属(服従)させることではなく、犬が心や行動をコントロールできるように必要な経験と情報を与え、方向性を示すことだと思うのです。たとえば、他の犬に過剰に吠える犬に対して怒って黙らせるのではなく、「吠える必要はない」ということを正しく伝えるということです。振る舞い方が分らない犬には行動の結果を何度も体験させ、人や犬が大勢いる場面では「この場は私に任せなさい」と安心させることが重要になります。リーダーは身を委ねるダンスのパートナーのように、大勢を統率する指揮者のように、安心して航海を任せられる船長のような存在であるとよいのではないでしょうか。完璧な従属関係があって、命令には従うけれども、命令がなければ何をしたらいいかわからないようでは、日常生活を快適に過ごしているとはあまりいえないと思うのです。
リーダーと支配者の行動原理の比較
私たちに求められるリーダーシップ
私たちは犬を家庭に迎えたときから、犬が群れで暮らしているときに親兄弟や先輩犬の適切なリーダーシップから身に付けることができたスキルを、それぞれの場面のリーダーに替わって担うことになります。全てを担うのはとても大変なことだと思います。また、人間にはとうてい叶わない役割もあるでしょう。そのなかで、私たちがリーダーを担うとき、犬を支配せずに上手に心と体の成長を育ませるのに不可欠なのが、サポート(援助)とガイド(導き)です。
サポートする
私たちの家庭にやってきた子犬は、生活上のできないことがいっぱいある状態ですので、当然保護(ヘルプ)する場面が多くなると思います。一方で、子犬はできること、やりたいことがどんどん増えていきます。好奇心が高まり、身体や感情の動きが活発になると、「ケガをしないか」「他の犬と仲良くできるか」という心配も多くなってくると思います。この時、愛犬の身を心配するがために、無意識に保護が支配へと変わっていく危険性が強まるのです。
たとえば、あなたが危険だと判断する場面を避けるため、まだ経験さえしていないのに「ダメ」「おいで」など、指示命令するのはどうでしょう。もちろん、危険なものに触れないように、事前に身を守るのは大切なことです。でも、犬が自分で身を守る行動や、自分の感情と行動をコントロールするなどの社会的スキルを身につけるためには、体験も必要です。
問題なのは、いつまでも愛犬を子犬や赤ちゃんのように、できない存在として扱い、過度に保護してしまうことが、規制ばかりを加えて支配へと繋がってしまう可能性があるという点です。リーダーの役割は犬を見守り必要なときには手を貸すことです。犬の成長にしたがって、できない存在からできる存在ととらえて、保護(ヘルプ)から援助(サポート)へ、私たちは単なる保護者からリーダーへと成長する必要があるのです。犬の「できる」を増やしていくことがリーダーの役割であり、犬が求めていることではないでしょうか。
ただ、お互いに成長してもヘルプが必要なときもあると思います。たとえば、命や心が危険に晒されているときや、私たちが持ち合わせている能力を越えているときです。その状況を見極めるためにも、私たちは犬のことをもっと知る必要があるのだと思います。
犬の欲求とコントロールについての記事はコチラ→【犬との暮らし】犬の心を育む2~ニーズとセルフコントロール
ガイドする
「大切な愛犬を守りたい」「いい飼い主でありたい」という願いは、飼い主として当たり前の感情だと思います。でも、それが時に犬の自由を奪い、自ら伸びようとする芽を摘んでしまう恐れがあることも事実だと感じます。犬の成長に合わせて、私たちも対応の仕方をかえていくことが必要です。犬は体験に基づく学びから知識と対処という社会的スキルを身につけ、行動選択の幅を広げながら問題解決能力を高めていくのです。
犬の「できる」「やりたい」を認め、自ら体験し考え、選択し、確かめ、成し遂げる喜びへと導いて(ガイドして)あげることが、リーダーに望まれることだと思うのです。犬本来の姿を尊重しながら、幸せな未来を願ってガイドしてあげることは、犬に喜びや充実感を与える愛のメッセージになると思います。正しい振る舞い方や対応策を知らない犬にとって、問題は逃げ出すことしかできない障害となり、それがしばしば、私たちの思う「困った行動」として現れてしまうのでしょう。
犬の群れで分け合う資源に限度がある場合、配分する犬(リーダー)が求められる資質は信頼です。私たちもリーダーとして認められるためには信頼に基づく関係があることが鍵となります。そのためにも、一定の枠組み(ルール)を作り、その枠組みの中で根気よくガイドをしてあげることはお互いの信頼を深めるためにも必要です。
信頼についての記事はコチラ→【犬との暮らし】犬の心を育む4~犬に信頼されるための「3つのC」
ルールについての記事はコチラ→【犬との暮らし】犬の心を育む5~愛犬と信頼関係を高めるルール作りの5ステップ
おわりに
不安や心配から無意識に愛犬を過剰に保護し、手元でコントロールしたくなる飼い主の方は多いように思います。そこには、できない存在を保護することで充実感を得られるという人間の心理も関係しているように感じます。もし、保護からサポートの切り替わりがうまくできず、愛犬に社会的スキルを身につけられなかったとしても、愛情があれば対応できることはたくさんあると思います。でも、スキルを身に付けることで得られる、犬本来の欲求や本能に対する充実感や喜びとは縁がなくなり、犬として必要のある大切なことを学ばないで育つ恐れがあることを、忘れてはいけないと思います。
犬の成長速度は速く、私たちはどんどん置いてきぼりを食うこともあると思います。慌てて追いつこうとすると失敗することもあるかもしれません。そのような時、過剰に不安や心配をしていないかな?愛犬と信頼関係はできているかな?自分の愛情は独りよがりになっていないかな?と、時々立ち止まって、振り返ってみることも「あり」でしょう。そして、その不安や心配の原因は愛犬にあるのか、それとも自分自身にあるのか、一つ一つ考えてみることも大切だと思うのです。そして、気付いたことから修正していくように、リーダーシップをとっていければいいと思います。
【関連記事】【犬との暮らし】犬の心を育む8~「甘え」から生まれる信頼関係と社会性の発達
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