2023.04.14一緒に。もっと、

「いい子」にあてはまらない犬は、本当に「悪い子」でしょうか?

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「いい子」にあてはまらない犬は、本当に「悪い子」でしょうか?

犬のことを褒める時「おりこう」「お行儀がいい」という表現はとても一般的です。またさまざまなキューを覚えるのが早かったり、トレーニングへの反応が高かったりといった要素が「かしこい」「頭がいい」という評価につながるのもよくあることです。

でも犬への「おりこう」とか「かしこい」は「人間にとって都合がいい」の言い換えになっていないでしょうか。一般的な「いい子」に当てはまらない犬にはきちんとした理由があって、私たちはそれを見落としていないだろうかということを考えてみたいと思います。

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どんな犬がいい子で、どんな犬が悪い子?

「いい子」にあてはまらない犬は、本当に「悪い子」でしょうか?
一般的に考えられる「良い犬」のイメージがあります。名前を呼んだら嬉しそうに走ってきて、お手やお座りを教えるとあっという間に覚えてくれる。散歩に出たら他の犬と礼儀正しく挨拶して、よその人に撫でられるのも大好き。

もちろん全てが理想通りには行かないと多くの人がわかってはいますが、愛犬と一緒に笑い合う日々を思い描いて、いざ犬を迎えたら「あれ?なんだか思っていたのと違う」となってしまうのは珍しいことではありません。

それでも子犬を育てるたいへんさは覚悟の上で迎えたのだからと約1年間一生懸命がんばって、そろそろ落ち着いて来て気持ちも通じ合うようになって来るかなと期待していたのに、散歩中にはよその人や犬に吠えるし、かまおうとすると唸るし、呼んでも来ないし、もしかしてうちの犬は賢くないのか?と絶望する。時には愛犬に向かって「バカね」とか「悪い子だ」と言ってしまうこともあるかもしれません。

でも人間が考える「理想の犬像」からかけ離れた犬は本当に賢くない悪い犬なのでしょうか?この点について、2021年にハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学が発表した研究が大きなヒントを出してくれました。

気難しくてイライラしやすい犬は社会的学習の速度が早い

「いい子」にあてはまらない犬は、本当に「悪い子」でしょうか?
この研究では犬の行動上の問題が、彼らの社会的学習の速度にどのような影響を与えるかが調査されました。社会的学習とは他者の影響を受けて行動を習得していく学習を指します。

調査には98頭の犬と飼い主が参加し、最初に飼い主を対象に愛犬の日頃の行動についてアンケート調査が行われました。グルーミングや入浴時の様子、他の犬や見知らぬ人への反応など日常生活の色々な場面での犬の行動や反応についての質問が設定され、寄せられた回答をもとにそれぞれの犬の「刺激へのイライラ度」のスコアがつけられました。イライラ度のスコアには「唸る」「怒りっぽい」「よく吠える」といった行動が関連します。

次に犬の学習速度を観察する実験が行われました。実験は「迂回路テスト」と呼ばれるもので、食べ物が金網のフェンスの向こう側に置かれ、そこに到達するためにはフェンスの迂回路を見つける必要があります。

犬たちは「手がかりなしに自力で迂回路を見つけなくてはならないグループ」「犬にとって見知らぬ人が迂回路を通って見せるグループ」「飼い主が迂回路を通って見せるグループ」の3グループに分けられました。

実験の前には、行動上の問題が少なく飼い主と良好な関係を持っている犬に飼い主がお手本を見せた時に最も早く学習するだろうと予想されていました。しかし最も早く迂回路を学習したのは、見知らぬ人によるお手本を見たイライラ度のスコアが高い犬たちでした。彼らはテスト中に飼い主に助けを求めて振り返る行動も他の犬よりも少なかったということです。

どうしてイライラして怒りっぽい犬は覚えが早い?

唸る、怒りっぽい、よく吠える、イライラしている、という人間にとっては望ましくない行動や性質を持つ犬たちがより早く学習したのはどうしてなのでしょうか。

全ての理由はこの研究だけでは分かりませんが、ひとつ考えられるのはイライラしている犬は人間の行動をより注意深く観察しているため、その行動から最も効果的に学習することができる可能性です。不快なことが起こることに敏感なため普段から周囲の環境や人間をよく観察しているので異変に気づきやすく、それが唸ったり吠えたりという行動につながりやすいとも言えます。

この結果はイライラして怒りっぽい犬は知能が高いとか、問題解決能力が高いことを示すわけではなく、周囲への注意力が社会学習の早さにつながっているということです。

とは言え研究結果は、行動上の問題があるから優秀でないという一般的な見方を否定してくれるものです。犬が何に注意を払い学ぼうとしているのかが見えると、犬も人も快適に暮らすための大きな手がかりが得られます。

愛犬の欠点だと思っていることは最高の美点かもしれません

「いい子」にあてはまらない犬は、本当に「悪い子」でしょうか?
紹介した研究では「イライラして怒りっぽい」という性質や行動に焦点を当てていますが、このような例は他にもたくさん見つけられます。

家庭犬としてはハイパー過ぎて名前を呼ばれても戻ってこなくて「手に負えない」と言われる犬はもっともっと体を動かしてエネルギーを発散したいのかもしれません。ドッグスポーツを始めると輝かしい結果を出す可能性もあります。

人間が出すキューにあまり興味を示さずちっとも覚えようとしないので「この子は頭が良くない」と言われる犬は、問題解決能力が高いので他者から指示を受けることが好きではないのかもしれません。複雑なドッグパズルなどには実力を発揮するのではないでしょうか。

困ったなあと感じている行動は本来の犬種特性から来ているものかもしれません。それは犬種としての仕事をする上で優れた能力を持っているということです。
犬に合った適切な接し方が分かれば、彼らは良い結果を出し、きちんとエネルギーを発散できればお行儀良く休んでくれることでしょう。

私たちが思い浮かべる一般的な良い犬像は、犬の素敵な面のほんの一例に過ぎません。愛犬が望ましくない行動をする時に、何がこの行動につながっているのだろう?と考えることは、愛犬の美点を生かし成功に導くための第一歩です。人間の都合で作られた良い犬像に愛犬を押し込めるのではなく、愛犬の良いところを伸ばす方法を見つけることで犬との関係はより強く深いものになると思います。

おわりに

「いい子」にあてはまらない犬は、本当に「悪い子」でしょうか?
一般的に問題だと考えられる犬の行動は、もしかしたら素晴らしい長所から来ているものからしれないということを考えてみました。自分ではわからないという場合には専門家に相談するのも良い方法です。オンラインで遠方のトレーナーとコンタクトを取ることも一般的になっています。愛犬の良いところを伸ばしてくれる専門家を探してみてください。

その他に問題行動と呼ばれるものは、体の痛みや不調から来ている場合も少なくないので、まずは健康チェックをすることも大切です。

犬によって得意なこと苦手なことは色々ありますが、彼らはみんなそれぞれの方法で賢くいい子です。

《参考URL》
Grumpy Dogs Are Smart Learners—The Association between Dog–Owner Relationship and Dogs’ Performance in a Social Learning Task
https://doi.org/10.3390/ani11040961

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ガニング 亜紀(ガニング アキ)

米国カリフォルニア州在住。2005年から犬との暮らしをスタートして2匹の犬をそれぞれ15歳で見送りました。犬たちとの16年間で知識が増えると犬との暮らしが楽になることを痛感しました。自分が「へ〜!」と感じたことを堅苦しくなくお伝えしていきたいと思っています。