犬種や体のサイズによって賢さが変わるって本当?最新の研究結果から改めて考えてみたこと
犬についてのコラムや読み物で「頭の良い犬種ベスト10」だとか「知能指数の高い犬種」といったタイトルを目にすることは珍しくありません。読み手の方も、リストやランキングに常に挙げられる犬種について、ごく自然に「頭のいい犬なんだな」と考える人が多いでしょう。
でも本当に犬種によって頭の良さに差があるのでしょうか?
この点について一石を投じるような2つの面白い研究が発表されています。どちらも犬のサイズに基づいて調査分析されたもので、この結果についていくつかのメディアは犬の頭の良さについてセンセーショナルな見出しで伝えています。
犬の賢さや頭の良さって何だろう?ということを、これらの研究の意図するところと併せて、改めて考えてみたいと思います。
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【研究①】犬の脳のサイズと認知能力に関連はある?
2019年3月アメリカのアリゾナ大学の人類学の研究チームが、犬を対象として脳の重量と認知能力の間に関連はあるのだろうか?というテーマで行った研究の発表を行いました。
具体的には、脳のサイズが大きいと神経細胞の数も増えるので、より複雑な認知能力が得られるだろうか?というのが調査の目的です。
インターネットを通じて一般の家庭犬の飼い主が募集され、純血種74犬種7000匹以上の犬が調査に参加しました。参加者は自宅で指示された通りに実験を行い、その結果がデータとして使用されました。
実験は10種類行われました。その中で逆さまにしたカップの中にトリーツを隠すところを見せて1分〜2分半時間を置いてから犬がトリーツの場所を覚えているかどうかを試した「短期記憶」のテストと、犬の前にトリーツを置いてマテの指示を出し人間がわざと後ろを向いた時に待っていたかどうかの「自制心」のテストの2つにおいては、脳の重量が大きい犬の成績が有意に優れていました。
その他の実験と脳の重量の関係は、広く異なる結果を示すものでした。
この調査結果を「大型犬は小型犬よりも賢い!」という見出しで紹介するメディアもいくつかありましたが、研究者はそのような言葉はまったく発していません。
犬の得意分野は人間が選択育種してきた結果
記憶力や自制心など犬のサイズによる得意分野の違いは、犬種が作られた目的や歴史が影響している可能性があると言われています。
犬は人間との長い共同生活の中で、働く目的に合わせて選択育種されて人間の手で作り上げられてきた生き物ですから、犬種ごとに特定の能力や特徴があるのは当然のことです。大きいサイズの犬にはその大きさゆえの目的があり、小さい犬にはそのサイズでなくてはならない理由があってのことです。
現代では、その犬種が作られた目的のために働く犬よりも普通の家庭犬として生きる犬が多くなっていますが、当初の目的のための特性が家庭の中での生活にそぐわないからと言って「頭が良くない」というのは、人間の勝手な都合です。
上にあげた調査研究は家庭犬が調査対象になっています。大型犬では、おそらく人気犬種であるラブラドールやゴールデンレトリーバーが多かったことと思われます。
その名の通り猟での獲物をレトリーブ(回収)する役割を持つ彼らは、獲物がどこにあるかを確認して回収してくるために短期記憶が優れているのは当然のことと言えます。
他の犬種であっても、大型犬の多くは犬が独自に作業するのではなく人間の仕事を手伝うために作られてきたので、自制心を持つ個体が選択育種されて来たはずです。
反対に小型犬では小型のテリアを代表として農場で作物を荒らすネズミ駆除のために作られた犬種が数多くいます。人間の指示を待つのではなく独自の判断でネズミを狩る犬ですから、家庭の中で黙っておとなしくしているはずはありません。
犬種の持つ本来の目的に目を向けないで、大型犬は小型犬よりも賢いなどと論じるのは無意味なことですね。
【研究②】トイレトレーニングの達成度と犬のサイズは関連する?
2019年8月にはアメリカで行動治療を行なっている獣医師の研究チームが、体重9kg以下の小型犬と体重18kg以上の大型犬でトイレトレーニングの達成度の比較調査の結果が発表されました。
データはインターネットのアンケート調査によって収集され、トイレトレーニングが達成したという定義は「直近の2ヶ月間、常に指定された場所で排泄することができた」と設定されました。
735件のデータが分析され、トイレトレーニングに関して小型犬の達成度は67%、大型犬の達成度は95%と、大型犬が有意に高い数字を示しました。
しかし、研究者はトレーニングの達成度から大型犬の方が賢いとは考えていない旨を述べています。
犬のサイズと生活環境の関連にご注意!
上記の研究者は、小型犬は大型犬に比べて代謝が高く膀胱が小さいためトイレの回数も多くなり、その分失敗してしまう確率が上がることを指摘しています。
またこの調査が行われたアメリカでは、トイレトレーニングと言えば室内で専用シートを使うよりも庭に出て用を足すよう訓練することが主流です。
しかし小型犬はアパートやマンションで飼育されていることも多いため、庭に出るよりも難易度の高い専用シートでのトレーニングが必要な犬の割合が高くなります。このこともトレーニングの達成度に影響している可能性があります。
体の構造や、体のサイズによって生活環境の違いが生まれることがトイレトレーニングの結果の差になっている可能性があるのに、小型犬は賢くないという結論を出すのは早計です。
このような調査が行われた目的は、トイレの失敗は犬が保健所などに連れて来られる理由の上位にあるため、さまざまな角度から検証することでより効果的な対策を取るためです。
大型犬と小型犬の賢さを比較するためではありません。
「賢い犬種ランキング」の意味のなさ
犬種や体のサイズを引き合いに出して「どの犬が賢いか」を比べるのは意味のないことです。そもそも犬種によって賢さの種類が違っているからです。
生き物の賢さの種類は一つではありません。それぞれの賢さは生きる環境に適応した結果ですから比べることなどできません。
犬種ごとの得意分野や特性を本来の目的で発揮させず、人間の都合に合わないから「賢くない犬種」と呼ぶことは本当に身勝手なことです。
また同じ犬種であっても個体差は必ずあります。
例えば同じラブラドールでも盲導犬と爆発物探知犬では、その適性がまったく逆なのだそうです。穏やかな我慢強さが必要とされる盲導犬、好奇心旺盛でエネルギッシュであることが求められる爆発物探知犬。探知犬の育成団体には盲導犬候補の落第生の中からスカウトしてくるところさえあります。でも「盲導犬と爆発物探知犬はどちらが賢いか?」など誰も問いませんよね?
巷でよく見かける「賢い犬種ランキング」が無意味であるだけでなく、犬への敬意に欠けたものであるとも言えます。
おわりに
「賢い犬」「知能の高い犬種」というテーマが取り上げられることは多いものですが、それは意味のないことだと2つの調査研究を例にあげてご紹介しました。
一見すると犬の賢さを比較しているのだろうか?と思われる2つの研究は、認知能力の得意分野やトレーニングの達成度を調査することで、どの犬種が賢いのかではなく違いを生む要素は何であるのかを知るためのものです。
「賢い犬ランキング」を作る意識の裏側には「賢くない犬ランキング」もあるということです。
それが犬それぞれの本来の姿を尊重しておらず、犬への理解の妨げにもなり得ることを、きっとお分かりいただけることと思います。
《参考URL》
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10071-018-01234-1
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1558787819300991?via%3Dihub#!
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