2023.05.10一緒に。もっと、

犬の心臓病との関係は?2023年研究で明らかになったグレインフリーフードの安全性

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犬の心臓病との関係は?2023年研究で明らかになったグレインフリーフードの安全性
2018年から2019年にかけてアメリカ食品医薬品局が「グレインフリー(穀物不使用)のドッグフードと犬の拡張型心筋症に関連があるかもしれない」と発表し、日本も含めて世界中の犬の飼い主さんたちが驚いたということがありました。覚えていらっしゃる方も多いかと思います。

このたび(2023年3月)、グレインフリーのフードに多く使われている豆類と心臓病の関連について「安全である」という研究結果が発表されました。今回は過去の研究も含めてご紹介します。

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2018年から2019年のグレインフリーフードを取り巻く経緯

犬の心臓病との関係は?2023年研究で明らかになったグレインフリーフードの安全性
2018年7月に米国政府機関であるアメリカ食品医薬品局が「犬の拡張型心筋症の症例が散発的に報告されました。診断された犬の多くがグレインフリーフード(豆類や芋類を多く含む)を食べていました」と発表しました。
さらに翌年の2019年6月に診断された犬が食べていたフードのブランド名と診断症例の多かった犬種を発表しました。

拡張型心筋症は特定の犬種で多く発症するので遺伝性の病気である可能性が高いと考えられていますが、食品医薬品局が発表した犬種には従来から好発犬種と言われていた犬種以外も含まれていたので遺伝以外の素因があるのでは?と考えられました。

一方で「心臓の専門医にかかるような犬の飼い主がプレミアムと呼ばれるグレインフリーフードを与えている割合が高いのは当然では?」という声や、1,000件を少し超える症例はアメリカ全体で言えば多くはないのでは?」という声も聞かれました。

結局グレインフリーフードまたは豆類を多く使ったフードと拡張型心筋症の因果関係が立証されることはなく、食品医薬品局は後に「豆類を使ったフードが危険だという証拠はない」と発表したのですが、なんとなくウヤムヤになったまま今まで来てしまったという印象です。

豆類を使ったフードで給餌実験をした結果

犬の心臓病との関係は?2023年研究で明らかになったグレインフリーフードの安全性

2023年4月、カナダのゲルフ大学の研究チームによって豆類を含むドッグフードは犬の心臓の機能に影響を及ぼすのかどうかを調査した結果が発表されました。

調査には家庭犬のシベリアンハスキー28頭が参加しました。シベリアンハスキーは拡張型心筋症の遺伝リスクを持っていません。もしこの調査で参加した犬の心臓の健康状態に変化があったとしたら、遺伝ではなく食事が影響したと考えられます。

犬たちが食べたフードは調査のために作られたレシピで、豆類(エンドウ豆、黄エンドウ豆、ピント豆、ヒヨコ豆、レンズ豆)の配合が0%、15%、30%、45%の4種類が用意されました。全てのフードにはチキンも使用され4種ともタンパク質と脂肪が同じレベルになるよう調整されています。28頭の犬たちは無作為に4つのグループに分けられて4種類のフードのうちのどれかを20週間与えられました。

期間中は毎週の体重測定、毎月の健康診断では血液検査で心臓バイオマーカーやアミノ酸濃度を測定、給餌期間開始前と終了後に体組成を評価するためのスキャン、さらに心エコー検査も行い、心臓への負担や体の変化が観察されました。

給餌期間が完了した後の犬たちは、最も豆類の濃度の高い45%のフードも含めて4種類全てのフードで体組成や心臓の機能に変化は見られませんでした。つまりどの犬も拡張型心筋症の発症を示す変化はなかったということです。

この調査結果は、原材料に豆類が使われているドッグフードが心臓の機能に影響を与えることはなく、犬の健康にとって安全であることを示しました。

近年増えているヴィーガンドッグフードでも安全性が証明

犬の心臓病との関係は?2023年研究で明らかになったグレインフリーフードの安全性
豆類が多く使われていると言えば、この数年でいろいろな種類が増えたヴィーガンやベジタリアンのドッグフードがあります。動物性の原材料が使われていない植物性のフードです。

これらのフードは肉類にアレルギーがある場合にも重宝されますが、近年ではサスティナビリティ(持続可能性)の点からも環境に負荷の少ないフードとして注目されています。

植物性原材料のフードのタンパク質源は豆類が使われることが一般的です。豆類を多く使ったヴィーガンフードについて2023年3月にアメリカのウェスタン健康科学大学とカリフォルニア大学バークレー校が15頭の犬に給餌実験を行なった結果を発表しました。
この実験の給餌期間は1年間で、エンドウ豆とポテトタンパク、ビール酵母をタンパク質源とした総合栄養食のフードを15頭の家庭犬が食べて定期的に健康チェックをしたものです。

こちらも1年間の給餌期間の後は、心臓バイオマーカーの測定値も含めて犬たちはみな健康でした。総合栄養食として作られたヴィーガンフードは健康を保つために必要な栄養素をしっかりと供給でき、ここでも豆類は犬にとって安全なタンパク質源であることがわかりました。

栄養面とは違う視点からも拡張型心筋症との関連を否定した調査結果

犬の心臓病との関係は?2023年研究で明らかになったグレインフリーフードの安全性
2022年には栄養成分とは違う視点でグレインフリーフードと拡張型心筋症の関連を調べた調査結果が報告されています。
アメリカのミズーリ大学とリサーチ会社が行なったこの調査は、グレインフリーまたは豆類を多く使ったフードが犬の拡張型心筋症の原因であるなら、これらのフードの売り上げ増加に比例して発症数も増えるのではないかという仮説に基づいて行われました。

グレインフリーフードが発売されていなかった2009年をスタート地点として2019年までの10年間で、グレインフリーフードの市場シェア率は29%にも上り、ドライフードではシェア率43%にもなりました。

しかし同じ期間のアメリカの循環器専門動物病院の68,000件以上のデータを分析したところ、拡張型心筋症の発症数は増えも減りもしていない横ばい状態でした。

豆類を多く使ったグレインフリーフードを与えられている犬は激増したけれど、拡張型心筋症の発症は増えていなかったのです。グレインフリーフードと心臓の病気に関連があるという証拠は見つからなかったということです。
前述の給餌実験の結果も併せて見ると、豆類が多く使われているフードを安心して愛犬に与えられる結果です。

おわりに

犬の心臓病との関係は?2023年研究で明らかになったグレインフリーフードの安全性
アメリカで2018年と2019年に大きな話題となった、豆類を多く使ったグレインフリーフードと犬の拡張型心筋症の関連について、複数の研究結果が関連を否定する結論を出したことをご紹介しました。

2019年以降この件についてあまり情報が聞かれなくなっても、なんとなく心に引っ掛かると思っていた方もいらしたのではないでしょうか。いくつかの研究結果から、豆類を多く使ったフードも安心してローテーションに組み込めます。

穀物を使用していないグレインフリーフード、穀物を使用しているフード、植物性原材料のみで作られているフード、いろいろなタイプのフードがありますが何が一番良いかは犬によってそれぞれ違います。犬の好みや健康状態に合わせて選択肢がいろいろあるのは嬉しいことで、さらに研究によって長期的な安全性も確認されたことは大きな安心材料です。

《参考URL》
The Pulse of It: Dietary Inclusion of Up to 45% Whole Pulse Ingredients with Chicken Meal and Pea Starch in a Complete and Balanced Diet Does Not Affect Cardiac Function, Fasted Sulfur Amino Acid Status, or Other Gross Measures of Health in Adult Dogs
https://doi.org/10.1016/j.tjnut.2023.03.027

Domestic dogs maintain positive clinical, nutritional, and hematological health outcomes when fed a commercial plant-based diet for a year
https://doi.org/10.1101/2023.02.18.525405

Incidence of Canine Dilated Cardiomyopathy Diagnosed at Referral Institutes and Grain-Free Pet Food Store Sales: A Retrospective Survey
https://doi.org/10.3389/fanim.2022.846227

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ガニング 亜紀(ガニング アキ)

米国カリフォルニア州在住。2005年から犬との暮らしをスタートして2匹の犬をそれぞれ15歳で見送りました。犬たちとの16年間で知識が増えると犬との暮らしが楽になることを痛感しました。自分が「へ〜!」と感じたことを堅苦しくなくお伝えしていきたいと思っています。