愛犬との絆を深める:ミラーリングの魔法
犬のトレーニング方法のひとつで『ミラー・メソッド』というものがあります。日本では『Do As I Do』という呼び方の方がよく知られているかもしれません。このトレーニングの名前の由来でもあるミラーリング(相手の行動への同調)を気軽に犬との生活の中に取り入れてみようというのが今回の提案です。トレーニングや訓練というほど改まったものではなく、愛犬と心を通わせるためのヒントになれば幸いです。
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そもそもミラー・メソッドってなんだろう?
ミラー・メソッドとはハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学者によって開発されたドッグトレーニングの方法で、「他者の行動を真似して学んでいく」という犬の自然な社会的学習能力を利用したものです。
具体的には、人間が犬の目の前で簡単な動作をやって見せ「Do as I do」や「Do it」(やってみて)というキューを出し、犬が真似することができるとトリーツなど報酬を与えて「このキューが出ると真似をするのだな」ということを定着させていくというのが簡単な流れです。
犬が自主的に何かを学ぶ能力の延長線上にある方法なので、犬も人間も楽しみながらトレーニングができ、力や罰は一切使う必要がありません。
日本でもDo As I Do認定トレーナーの方々が増え、オンライン講座なども実施されているそうです。すでに実行している方もいらっしゃるかもしれないですね。
真似をすることは犬が相手と仲良くなるためのツールでもある
他者の行動の真似は犬の社会的学習能力であると上に書きましたが、犬が相手の行動や表情を真似すること(ミラーリングやマッチングと呼ばれます)は、社会的なつながりを作る、つまり仲良くなるためのツールであることもわかっています。
2015年にイタリアのピサ大学の研究チームが発表した研究結果は、犬同士がミラーリングやマッチングをうまく利用して仲良くなっていることを示しています。
この研究ではドッグパークで遊ぶ49頭の犬たちの様子を録画し、集められた合計50時間以上の映像から犬が遊ぶ時に見せる視覚的なシグナルが分析されました。
ある犬がプレイバウやリラックスして口元が緩んだ表情など遊びに誘う時のシグナルを示すと、一瞬でその表情や動きを真似して応える犬がいることや、反応の良い犬同士はより長く一緒に遊んでいたことがわかったそうです。また顔見知りの犬同士ではお互いの行動のミラーリングやマッチングが初対面同士の場合よりも多く行われていました。
犬は互いの動き、姿勢、行動、表情を真似ることで、相互理解や共感を深めて親近感や信頼関係を作り出していると言えます。これはまた、犬が相手の感情を理解し、それを自分自身の感情に反映させていることを示しています。
私たちが犬の行動に同調することでもっと仲良くなれる?
犬がミラーリングやマッチングを使って他の犬と仲良くなることや、仲の良い犬同士は行動のマッチングが多く見られるというのは、実は私たち人間との共通点でもあります。
人間もお互いに好意を持っている相手とは仕草や行動が無意識に同調したり、自分の表情や行動へのミラーリングをする人に好意を感じることがわかっています。
それなら私たちもこの方法を使って愛犬とのつながりを強くすることができるのではないでしょうか。
一番簡単な方法は、人間が犬の行動を真似することです。犬が興奮気味に遊びに誘ってきた時には高い声で抑揚をつけた話し方で応えてみる。可能ならプレイバウにはプレイバウで応える、などです。
犬の口元がリラックスして笑っているように見える時には、こちらも思い切り口角を上げて笑顔を見せます。
真似をするのは、犬の楽しそうな行動や表情だけにするのがポイントです。
反対に「そろそろ遊びを切り上げて落ち着いて欲しいな」という時には、まず動作をゆっくりしたものに切り替え、次に声の抑揚を穏やかにしていき、犬のそばに座ったり寝そべったりしておしまいとします。これは犬が人間の行動や動作をミラーリングすることを期待しているからです。犬にとっても、「おしまい」や「ノー」という言葉でいきなり遊びを止められるよりも理解しやすくなるでしょう。
ミラー・メソッドのトレーニング方法を始めるには、犬と人間の絆ができていることが重要だといわれています。日常生活の中で犬と人がお互いにミラーリングを取り入れていくことは、絆を深め良好な関係性にもつながります。ミラー・メソッドトレーニングの準備にもなるかもしれないですね。
人間から犬へのミラーリングは行動だけでなく感情の面でも起こります。2019年に発表されたスウェーデンのリンショーピン大学による研究では、飼い主が長期的にストレスを感じていた場合、愛犬のストレスレベルも高くなることが被毛から検出されたホルモンレベルから示されました。
ストレスのない生活は無理な話ですが、愛犬と一緒にいる時には自然と楽しく優しい気持ちになれるかと思います。そういう気持ちをお互いに反映することがミラーリングの極意とも言えそうです。
おわりに
犬の表情や行動をミラーリングすることで、愛犬との絆をより強いものにしてみようという提案をご紹介しました。
「落ち込んでいる時には愛犬が寄り添ってくれる」という例は多くの方が聞いたことがあるでしょう。これは飼い主さんの感情が犬に反映されたことを示し、感情の反映は犬が飼い主さんに愛情を持って、よく観察していることを表しています。
私たちが愛犬の行動や表情を真似する時にも、よく観察することが必要になります。ミラーリングがお互いの理解を深め、仲良くなるために役立つのも納得ですね。
《参考URL》
Do as I Doとは?「犬の生得的なスキルを目覚めさせる革新的なドッグトレーニング法」
https://www.doasido.it/ja/
Rapid mimicry and emotional contagion in domestic dogs
https://royalsocietypublishing.org/doi/pdf/10.1098/rsos.150505
Long-term stress levels are synchronized in dogs and their owners
https://www.nature.com/articles/s41598-019-43851-x
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