犬にとっての「怖い」をしっかり考えよう
今回は ガニング亜紀 さんの記事です。
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アメリカで犬にまつわる話題のこの1〜2年の傾向を見ていると、犬が感じる「怖い」という感情を従来の対応よりも重く受け止め、真剣に向き合おうというムーブメントが目につきます。
犬が何かを怖がるのは、自分の身を守るための本能で、自然の中で生き残るためには必要なことです。
けれども家庭の中で暮らしている犬にとっては、必要以上に何かを怖がることは心と身体の両方の負担になってしまうため、人間が調整してあげることが必要です。
ケアされることなく放置されている恐怖の感情は大抵の場合エスカレートして行き、犬の生活の質を低下させていきます。
犬の福祉のためにも、一緒に生活する人間の安全のためにも、犬の「怖い」に対してどのような取り組みが行われているのでしょうか。
獣医師が中心になって立ち上げた「恐怖」についての教育プログラム
最近の、犬の恐怖にきちんと向き合おうというムーブメントにおいて、度々その名が挙がるのが、2016年にスタートしたFear Freeという団体です。
その名の通り「犬や猫を恐怖から解放しよう」という目的で獣医師のマーティ・ベッカー氏を中心に立ち上げられました。
獣医師、トリマー、トレーナー、動物保護団体、一般の飼い主らに対して「人間はもっと動物が感じている恐怖を理解して、正しく向き合わなくてはならない」という理念のもとに、セミナーやオンラインでの情報発信などの教育活動を行っています。
例えば獣医師やトリマー向けには待合室での動物の不安を軽減するレイアウトの提案、犬に恐怖を感じさせない体の触り方、トレーナー向けには最新の科学的な理論を応用したトレーニング、動物保護団体に対しては犬が怖いと感じていることを尊重した上での査定やリハビリテーションの指導、またそれぞれの専門家の講演などが実施されています。
一般の飼い主向けにはSNSやブログなどが多く活用され、セミナーも行われています。
まず何よりも、犬の「怖い」を読み取れているだろうか?
犬のボディーランゲージや発しているサインを読み取ることの大切さは再三語られているにも関わらず、SNSなどには恐怖やストレスのサインを出している犬の画像や動画に対して「笑っている」「反省している」など、全く見当違いのコメントやキャプションがたくさんついて出回っています。
ペタンと倒れた耳、白目がのぞいた目元、ギュッと引っ張って口角の上がった口元などは確かに一見可愛らしく見えます。それが幼い子犬であれば尚更でしょう。
しかしこれらはストレスや恐怖に関連するサインです。無視し続ければ、犬のストレスレベルは上がって行き、恐怖から攻撃に転じることもあります。
このような傾向を重く見た多くの専門家が、犬のサインを正しく読み取ることについて警告と情報を発信しています。
一般の飼い主が犬のサインを読み取れるようになるには、理想的にはトレーナーやセミナーを通じて専門家から直接学ぶことが一番です。
それが難しい場合には、犬のサインが総合的に解説されている書籍を最初から最後までしっかりと読んで、全般的に勉強することが重要です。
怖がっている犬への接し方とは?
Fear Freeが発信する情報の一例として、犬が何かを怖がっている時の接し方をご紹介します。
多くの方が、犬が雷などを怖がっている時に優しく声をかけて撫でたり慰めたりすることは、犬に「やっぱり何か悪いことが起こっているんだ」と思わせ恐怖を強化するため、望ましくないという説明を聞いたことがあるのではないでしょうか。
しかし、現在はこの説は間違いであることがわかっています。
犬が恐怖を感じている時に撫でたり優しく声をかけても、犬のストレスレベルは下がりません。これは唾液中のコルチゾールの値を測定することでわかっています。
一方で大好きな人に撫でられることで、愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンや幸せホルモンと呼ばれるエンドルフィンの分泌が増えるため、ストレスレベルは変わらなくても飼い主による慰めは有効です。
マッサージやTタッチなどで犬が落ち着くなら積極的に取り入れることが勧められています。
しかし、もしも飼い主も雷が怖くてドキドキしていたり、パニックになった犬に対して動揺していたりすると、犬はその気持ちを感じ取ってストレスレベルは増大してしまいます。
そういうことが起こらないためにどうするのかと言うと、呼吸法とマインドフルネス(意識を集中させて、自分の感情・思考・感覚を冷静に認識し受け入れること)を練習するのだそうです。
私は常々「犬と暮らすというのは、自分自身と向き合う修行のようだ」と思い続けていたのですが、やっぱりそうだったのかと苦笑してしまいました。
犬が体に触れて欲しくなさそうだったり、触れられていることすら気づかないほど取り乱している時には少し距離をおいて見守り、できるようならフードパズルやコングを与えてみます。
飼い主の存在が恐怖を和らげることになるならそれはそれで良いのですが、他の方法も考えておかなくてはなりません。飼い主の不在時に怖いことが起きた場合にパニックに陥らないためです。
安心できる隠れ場所、防音のためのカーテン、危険のない家具の配置、サンダーシャツ、音楽、匂いなど愛犬にとってベストな方法を、できれば知識のある専門家に相談して計画を立てることが必要です。
場合によっては医師が処方する薬の使用も
昨年アメリカ食品医薬品局は、雷や花火などの大きな音が怖い犬の恐怖を和らげるための新薬を承認しました。
音への恐怖に特化した薬というのは新しいものですが、犬が何かを極端に怖がっているために行動上の問題が起きたり身体的に影響が出ている場合に、獣医師が抗不安薬を処方するのは珍しいことではありません。
薬の使用に抵抗を持つ方は少なくありませんが、脳内物質を一旦ニュートラルな状態にリセットすることで行動療法やトレーニングもスムーズになります。
犬の恐怖症は人間の不安障害に相当する可能性を示唆した研究もあります。
また最近ではヘルシンキ大学の研究者が、犬の恐怖症とヒトの恐怖や不安症状を伴う精神神経疾患がほぼ同一の遺伝子領域と関連していることを発見しています。
つまり犬の恐怖症は単に「うちの子は怖がりで」と軽く済ませられない場合もあるので、医学的な治療も視野に入れることで解決に向かうこともあります。
犬が何かを怖がることの全てを病気だと考える必要はありませんが、様々な可能性を知っておくことは、いざという時の対応に大きな違いを生むかもしれません。
おわりに
犬の「怖い」という感情に向き合うことが改めて注目されているのは、犬の福祉を向上させ安全な社会を作るために、とても良いことだと思います。
私自身も、我が家の犬たちが過去に「怖い」という意思表示をしていた時の対応を思い返して、申し訳なかったと反省していることがたくさんあります。
自分だけでなく、過去にお世話になったいくつかの動物病院では診察を嫌がる犬を叱る獣医さんもいたなあと思い出し、Fear Freeのような団体が獣医師向けの教育プラグラムを実施していることの有り難さを感じてもいます。
犬の「怖い」のサインが人間に正しく受け止められて、適切に対応されるようになれば犬も人も今よりももっと幸せになれる、そんな未来を目指して行きたいものです。
■参考URL
(https://fearfreepets.com)
(https://www.sciencedaily.com/releases/2019/01/190123091155.htm)
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