人間から話しかけられた時、犬は何を感じているのでしょう?
皆さんは毎日どのくらい愛犬に話しかけるでしょうか?多くの人が、人間の家族に対するのと同じように言葉をかけているのではないかと思います。
犬に向かって話しかけると、いかにも思慮深そうな顔でじっと聞いてくれたり、なんとなく嬉しそうな反応を返してくれたりすることも珍しくありません。
もちろん犬はかけられた言葉の全てを理解しているわけではありません。けれど話を聞いている犬の顔は確かに何かを感じ取っているなと思わせます。
大好きな人から話しかけられた犬が何を感じているのか、そのヒントになりそうなリサーチ結果が報告されています。
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人間の言葉を聞いた時、犬の脳はどうなってる?
磁気の力を利用して体内の状態を撮影する医療装置MRI(磁気共鳴映像法)は獣医学の世界でも検査のために使われますが、通常は検査を受ける犬や猫には麻酔がかけられます。
医療検査のためだけでなく、犬の脳の働きを研究するためのリサーチにもMRIは多く使われています。その場合麻酔を使うと脳の正常な働きが観察できないため、MRI装置の中でも落ち着いて座っていられるように犬を訓練する研究者も増えています。そのおかげで様々な刺激に対して犬の脳がどのように反応しているのかが明らかになりつつあります。
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の神経科学の研究者が発表したリサーチ結果も、そのような犬の脳の反応を教えてくれるものの1つです。
犬が人間から話しかけられたときに脳のどの部分がどのような順番で反応するかを確かめるためにMRIを使った実験が行われました。
犬に対して「賢いね」「よくできたね」などの誉め言葉を、少し高めのトーンの声でいかにも褒め称える感じで話しかけた時と、同じ言葉をあまり抑揚のない落ち着いたトーンで話しかけた時、そして犬にとっては全く意味のない単語を同じく2種類のトーンで話しかけた時の犬の脳の反応がMRIで観察されました。
言葉に対して犬の脳は人間の脳と同じように反応する
犬に話しかけた時の言葉とトーン、MRI画像に表れた反応を分析したところ、犬の脳はまず最初に声のトーンに反応し、次に言葉の意味を理解していることが分かったそうです。これは人間が他の人が話しているのを聞いた時の反応と同じ順番だそうです。
犬の脳も人間の脳も、言葉を聞くと最初に単純で感情的な手がかりを処理し、次により複雑で学習によって得た手がかりを処理します。
この実験では犬がどのように感じたかまでは明らかになっていませんが、過去の複数の研究から犬は飼い主のストレスに同調することが分かっています。
私たちは他の人が話している声のトーンが朗らかであったり楽しそうなときには、こちらの気持ちもなんとなく明るくなります。反対に他の人が怒ったり泣いたりする声を聞くのは、それが自分に向けられたものでなくても辛いものです。どうやら犬もこの点は同じだと考えて良さそうです。
犬が理解するのは声のトーンが先で、言葉の意味はその次ということを頭に置いておくと、犬に話しかけるときに気をつける点も自ずと見えてきます。
褒めるときや遊ぶときには高めの楽しそうな声で、「待て」「おすわり」など大切なキューを出すときは落ち着いた声で話しかけると、犬が理解しやすく混乱しません。
また自分よりもずっと体の大きい人間に大きな声で怒鳴られたりすることが犬にとってどれほどのストレスになるかは想像に難くありませんね。
犬は赤ちゃん言葉が好き?「愛してる」は通じるの?
犬に話しかけるとき、ついつい赤ちゃん言葉になってしまうという方も多いのではないでしょうか。かく言う私も、もうすっかりシニアの我が家の犬たちに対して「お散歩行きましゅか?」とか「おいちい?おいちいね〜」といった調子の赤ちゃん言葉で話しかけることが少なくありません。
この件についても2018年にイギリスのヨーク大学の研究者が、犬は赤ちゃん言葉で話しかける人を好み、強い結びつきを作る傾向があるというリサーチ結果を発表しています。
赤ちゃん言葉を話す人の高い声のトーンや楽しそうな感じが犬に伝わるのと同時に、そのような話し方は楽しい状況と関連づけられていると犬が学習していることも関係があるのだろうと言われています。
また、正式な論文ではありませんが、イギリスの旅行会社が行った面白いリサーチもあります。
4匹の犬に1週間心拍数を計測できるカラーを着けて、飼い主とのやり取りによる変化を観察したところ、飼い主がI LOVE YOUと声をかけると犬の心拍数が平均で46%上昇したのだそうです。
「愛してる」と言われると犬も心臓がドキドキするということですね。
このようなリサーチの数々から、犬たちは人間の言葉に込められた感情やニュアンスはかなり正確に把握していて、言葉の意味も学習によって理解できるということが分かります。
おわりに
私たちが犬に人間の言葉で話しかけるとき、犬がどのように感じているのかを推測させるリサーチのいくつかをご紹介しました。
犬が言葉を理解しているというのは、犬と暮らしている人にとっては当たり前に感じますが、科学的な裏付けや証拠はとても大切です。法律や規制を作るための根拠となったり、犬の福祉を傷つけないトレーニング方法の改善などに役立てることができるからです。
今度愛犬に話しかけるとき、この子の脳は今私の声のトーンに反応して処理しているんだなと考えてみてください。自然と優しい声と気持ちになっていることと思います。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-020-68821-6
https://experts.nebraska.edu/en/publications/evidence-for-a-synchronization-of-hormonal-states-between-humans-
https://link.springer.com/article/10.1007/s10071-018-1172-4
https://www.caninecottages.co.uk/doggy-devotion
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