犬の心を理解するための練習問題
今回は ガニング亜紀 さんの記事です。
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この犬は本当にハッピー?
先日ニューヨーク・タイムス紙にアレクサンドラ・ホロウィッツ博士が犬に関するコラムを寄稿し、ドッグラバーの人たちの反響を呼んでいました。
ホロウィッツ博士は犬の認知科学に関する研究に携わっており、大学で教鞭をとる傍ら、ホロウィッツ犬認知研究所の所長も務めています。犬の心理と行動に関する著作もあり、日本でもそのうちの1冊『犬から見た世界』が出版されています。
NYT紙に掲載されたコラムのタイトルは「Is This Dog Actually Happy? この犬は本当にハッピー?」
タイトルのすぐ下のトップ画像はベッドの上にヘソ天で気持ちよさそうに寝ている犬。犬好きならば目を留めずにはいられないものでした。
コラムの内容は、SNSなどで人気を集める犬のおもしろ画像や、犬を主人公にした映画など、私たちのまわりには犬を題材にしたメディアが溢れているのに、そこに「本当の犬の姿」が見られないことに対しての嘆きや、犬を人間の基準に当てはめて擬人化し、そこに現れている犬の本当の感情を無視して楽しんでいることへの憤り。
そして犬が本来どんな生き物であるのか、何に喜びを感じ、どんな風に世界を見ているのかを知って犬の『犬性』を尊重してほしいというものでした。
《参考サイト》
(https://www.nytimes.com/2018/03/27/opinion/dogs-happy-hollywood.html?smid=tw-share)
犬の表情は顔の筋肉だけで作られるわけじゃない
ホロウィッツ博士も述べているとおり、SNSにはたくさんの犬の写真がアップされたりシェアされたりして目に入ってきます。その中にはおもしろいセリフやキャプションが付けられていたり、コスチュームなどで擬人化されているものも少なくありません。
「楽しそうに笑っている」と説明がついているけれど、耳や尻尾を見るとストレスを感じているのでは?というものも多く目にします。
「イタズラが見つかって反省している」という説明の犬を見ると、叱っている飼い主に対してカーミングシグナルを発していたり、怖がっているサインが出ている場合もあります。
人間の感覚や基準では犬が笑っているように見えても、犬が本当に楽しいとか嬉しいと感じているかどうかは、耳の角度、尻尾の位置、体全体の筋肉のリラックス度、姿勢など他の要素も併せて総合的に見なくては判断できません。
例えば上の画像は我が家の犬で、笑っているように見えますが、実際には走り回った後で息がハアハアしている顔です。遊んだ後で満足はしていますが、笑顔というわけではありません。
「犬が罪悪感を感じて反省している」などは、犬の感情は考慮しないで人間の基準のみで考えている例です。視線をそらしたり、歯を見せて愛想笑いのような表情をするのは目の前で怒っている飼い主をなだめようとしているからで、自分のしたことが悪かったと反省しているからではありません。また笑顔の場合と同じように、体の他の部分も観察して、恐怖や不安を感じているのではないか確認しなくてはいけません。
犬は他の動物に比べて顔の表情筋が多く表情が豊かだと言われていますが、人間とは感情の表し方が違います。犬の表情は顔の筋肉だけでなく体全体で作られていることを覚えておきたいですね。
「練習問題」として読み取ってみよう
犬のボディランゲージや表情を読み取ることが身についている方なら、キャプション付きの犬の写真や動画のまちがいをすぐに指摘できるでしょう。けれども、犬独特のボディランゲージやシグナルにあまり詳しくない人にとっては簡単なことではありません。そこで、SNSやブログなどにアップされている犬の写真を「練習問題」として使ってみてはどうでしょうという提案です。
用意するのは自分に合った犬のシグナルについて説明された本を一冊。テキストとして使うので、できるだけサンプルになる写真が多いものが理想的です。
本ではなくネットは?という場合、何十種類もある犬のシグナルがすべて写真やイラストで解説されているようなサイトなら良いのですが、断片的な情報しか得ることができないネットの情報はサインの読み違えや誤解のもとになるのでテキストとして最適ではありません。
気になる犬の写真や動画があれば、そこに登場する犬をよく観察して犬の感情や意図を読みとるという「問題」を解いていきます。その後テキストを参照しながら答え合わせをします。この練習問題を何度も繰り返していると、実際に目の前で動いている犬のサインやシグナルを読みとることがずいぶんと楽になります。
例えば、あまりにも有名な「有罪犬デンバー」の動画などは、動画の中で語られているデンバーの気持ちと、たくさんのボディランゲージに現れているデンバーの気持ちに大きな違いがあって、練習問題として最適です。
私自身は『Dog Decoder』というアプリをダウンロードしてテキストにしています。60種類の犬のシグナルがイラストで表現されており、「尻尾が下がっている」「胴体が水平になっている」など注目するべき点はボタンを押すと表示されるようになっているという、とても使い勝手の良いものです。
残念ながら日本語版は出ていないのですが、本よりも手軽に使えるので日本でもこのような「犬のシグナル解説アプリ」が制作されるといいのにと切に思っています。
おわりに
犬の研究者アレクサンドラ・ホロウィッツ博士のコラムをきっかけに、私も日頃から感じていたり心がけていることをご紹介しました。
犬は私たち人間にとってとても身近であるために、つい人間の感情表現を当てはめたり、人間の真似をさせたりということが起こりがちです。けれども当然ながら犬の感情表現や快/不快の感覚も人間とは違います。犬の感情や感覚を尊重し、犬の『犬性』を理解するためには、人間が勉強する必要が有ります。
そのための練習問題をクイズ感覚で楽しみながら取り組んでいるうちに、ボンヤリとかすんでいた犬の世界が、だんだんとクリアになっていくのが感じられることと思います。
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