スウェーデンでポピュラーな犬の気質テスト
文と写真:藤田りか子
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今回は、ドッグ・ジャーナリストで 元dog actuallyライターの藤田りか子さんより、北欧スウェーデンで行われている犬の気質テストに関する記事をお届けします。
目次
犬の気質を客観的に知ることのメリット
もっと自分の愛犬を知りたい!と思ったことはありませんか? 人と同様に犬にも気質というものがあります。 それを客観的に診断してもらえば、さらなる愛犬への理解を深めることができそうです。例えば
「私の愛犬は勇敢によく吠えるけれど、本当に勇ましい性格なのだろうか」
とか
「他の犬を見るといつも慌てた感じだけど、 社交的なのだろうか、それとも怖いだけ?」
といった疑問も、気質テストの結果で犬の本当の気持ちを推し量ることができます。のみならず今後愛犬が見せる行動に対して どのように対処すべきか一つのガイドラインを得ることもできるでしょう。怖がりであるということがテストで分かれば、吠えていた理由もおそらく恐怖心ではないかと推測できます。と、その怖がりを減らせるようより社会化&環境馴致トレーニングを強化する、 そして人の世界で犬がより気持ちよく生活することができるよう手助けができます。
スウェーデンケネルクラブによる気質テストとは
私の住んでいる国、北欧スウェーデンでは、犬の気質テストが飼い主の間でとてもポピュラーです。これは他の欧米諸国でも見られない現象であり、さすが犬文化の先進国ならではと思います。気質診断は盲導犬など職業犬の世界ではよく行われています。が、スウェーデンには一般の家庭犬も受けることができる気質プロファイル・テストなるものが存在します。
これを管轄しているのは、業者や企業でもなく、スウェーデンのケネルクラブ。ケネルクラブはスウェーデンにおいて犬の戸籍・繁殖管理を統括する中央機関で、このテストは元はと言えば、犬の健全な繁殖のための 「ツール」として生み出されました。 犬の性質を知ることで、より良い両親個体を選択し、より良い性質の子犬を繁殖していこう、というのが意図です。
生まれつき人間の社会不適応な性質(恐怖心が強いなど)を持った犬であれば、 その気質そのものがハンディキャップとなることもあります。犬は人間の側で一生暮らさなければなりません。だからこそ人社会にできるだけ受け入れやすい気質の犬を生み出す、というのは我々だけのためではなく、犬のウェルフェアに関わる大事な部分でもあります。どうしても人社会に受け入れられない場合、里子に出される、あるいは安楽死になるというリスクは非常に大きくなるでしょう。これは当然犬にとって幸せなことではありません。
テストで推し量る犬の特質
ケネルクラブに登録されていれば、どの犬も受けることができます。ただし一歳になるのを待たなければなりません。テストが公式に導入されたのは2012年、これまで約1万匹の犬、そして約200犬種がテストを受けました。テスト結果は全てケネルクラブにデータとして記録され、誰もがその結果をインターネットを通して閲覧することもできます。これら気質テストの結果は膨大なサンプルゆえに学術研究のための解析データとしても役立っており、犬学の発展に貢献しているのは注目に値します。
テスト会場は全国に30箇所ぐらいあります。敷地にはいくつか犬を驚かすような仕掛けがあり、そこで犬の反応を見て、どのように対処するか、飼い主とどのようにコンタクトを取るか、などを観察して、審査員が判断します。仕掛けのみならず、知らない人が犬に近づく、一緒に遊んでみるというような項目もあります。
さてこれらの結果からどんな特性を見ることができるのでしょうか。
社会性
知らない人に対してどのように挨拶をしたか(あるいは避けたか)などを見て、その犬の社会性や社交欲を推し量ります。犬種によってもこの特性については随分違いがあります。日本犬などは割合楚々としていますね。一方でレトリーバーといった鳥猟犬は非常に友好的です。
遊び欲
テストでは物品を使って遊びます。その時に果たしてこの犬には物品欲があるのか、遊びたいという欲はあるのか、を診断します。この部分は犬をトレーニングする時(しつけも含め)に大事な特性です。遊びが好きな犬は、モチベーションを与えやすいですから、当然トレーニングもやりやすくなります。
食べ物への欲
開けにくい、あるいは全く開かないプラスチックの容器に食べ物を入れて、それを取ろうとする犬の欲をみます。
飼い主とのコンタクト
テストを通じて、どれだけ犬は飼い主とコンタクトを取ろうとしていたのか。何か嫌なことがあっても、飼い主にどれだけ依存しようとするのか、を判断します
好奇心
いろいろな事象がおこる人社会に生きるにあたって、好奇心の強さ、というのは大事な気質の要素です。好奇心の強さのおかげで、「怖いなぁ」という状況だって克服することもできるわけです。犬が楽に生きてゆくためには、やはりある程度持っておくべき資質でしょう。
恐怖心/不安感
恐怖感の反対は、動じないこと、すなわち安心感と言えるでしょう。家庭犬としてはできるだけ「動じない」気質の犬が好ましいのは言うまでもありません。人に対する恐怖感というのは遺伝性が強いとも言われています。
攻撃性
どの犬にも自分を守るための攻撃性というものが備わっています。ただし人の社会に犬が共生するために、際立った攻撃性を持つというのは望ましくはありません。このような特性をテストできちんと見抜く、というのは今後のしつけ方にも大いに影響するし、繁殖ということを考えれば、やはり使って良い個体なのか否かというのを決定素材ともなります。
自分の犬を客観的に見ることの良さ
私も愛犬のラッコを連れて気質テストを受けに行きました。別に彼を繁殖に使うつもりは毛頭なく、やはり多くの飼い主同様、自分の犬についてもっと知りたかったというのが動機です。テストの結果ですが、他人に対する自信や安定感は思った通り4、そして人への攻撃性については0でした。スコアは0から4までの5段階。4が一番度合いが強いことを示しています。意外だと思ったのは、遊び欲。もっと高いスコアになるかと思ったのですが、なんと2(まさに真ん中です)。
こうして客観的に診断してもらうことで、ラッコのありのままを受け入れることができたと思います。私の理想の犬は遊び欲がとても強いタイプなのですが、その理想を勝手にラッコに押し付けて、時々がっかりしたりフラストレーションを感じていたものです。というのも、必ずしもラッコはトレーニング中に遊びに毎回興じるわけではありませんでした。しかし、こうしてテスト結果で客観的に「2」と出されると、がっかり、と言う気持ちは消え、ならばもっと遊び欲が出るようにトレーニングを積もう、と言う前向きな姿勢を持つようになりました。
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