2017.11.10心のケア

【犬との暮らし】犬の心を育む8~「甘え」から生まれる信頼関係と社会性の発達

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【犬との暮らし】犬の心を育む8~「甘え」から生まれる信頼関係と社会性の発達

こんにちは。ヒトと犬の心と行動カウンセリングをしている、心理士でドッグメンタルトレーナーの白田祐子です。

愛犬の困った行動を「子犬の頃に甘やかしてしまったから?」と思っている方もいるのではないでしょうか。あるいは、人から「甘やかしている」と心ない言葉を言われて傷ついている方もいるかもしれません。犬は物理的にも精神的にも人間を頼りに生きています。ですから、甘えさせることは決して悪いことではなく、むしろとても大切なことだと思います。でも、犬の成長による甘えの違いを理解しておかなくては、犬の心に陰を落としかねないのも事実です。
今回は犬の甘え行動について考えていきます。

ドッグメンタルトレーナー白田さんのこれまでの記事はコチラ→白田さんの記事一覧

社会性の発達と心の安定に重要な母子間の愛着関係

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子犬の健全な成長には母犬との関係が重要

犬の脳や社会性の発達、情緒や情動行動の安定など、犬が健全に育っていくのに必要な資質は遺伝的に授かるだけではなく、母犬が子犬の世話をどれだけするかという、母子間の愛着関係が非常に重要な要因であることが科学的に解明されてきました。子犬が鳴くのは生理的欲求(空腹、眠いなど)が満たされないときだけではなく、不安な気持ち、寂しい気持ちを表現するサインでもあります。そのとき、母犬が寄り添い舐めてあげるのは、子犬に安心感を与えるための大切な行動なのです。

子犬は成長に伴って、親から離れて動きまわる時間がどんどん増えていきます。でも、時々、母犬の胸に飛び込んで甘えます。これは目に見えない漠然とした不安を解消するための行動です。未成熟な犬不安の正体や対処法などを知りませんから、不安な気持ちを母犬からの安心感で補おうとします。しかし、徐々に成長するに従って具体的な問題(不安)にも向き合い、母犬や周囲の犬のやり方を真似するなどして、不安を払拭する別の方法も学んでいきます

甘えの充足感の違いによる心の発達の影響

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安心感は相手を信頼する心の鍵

甘えは一言でいうと相手に愛情を求めることです。甘えが満たされたとき、自分は大事にされていると感じるものです。このような安心感は自信がつくだけではなく相手を信頼する心の扉の鍵にもなります。自信と信頼に裏打ちされた犬の行動を見ていると、他の犬の行動や感情を落ち着いて判断し、相手や状況に合わせた対応をしていることがわかります。逆に、甘えたい欲求が充分に満たされない状態が長く続いた場合、不信感や怒りが蓄積されて社会的活動が希薄になり、自信を喪失して神経質になりやすくなったりします。エネルギーが外部に向かうと攻撃的になるなど、人や犬と敵対しやすくなる可能性も高まります。

また、甘え行動で解決できずに抱えてしまった悲しみや怒りを深く心に閉じ込めてしまうと、苦痛や嫌悪などの感情を含めた何事にも無関心で無気力になるなど、心理学用語の学習性無気力(Learned helplessness:Seligman&maier.1967)状態に陥る可能性もあります。学習性無気力は、一見大人しく手がかからないように見えますが、幸福感や喜びの感じ方も薄い危険な心の状態といえます。

犬の感情サイクルに必要な土台とは

犬の心は『安心・不自由・意欲』など、幾つかの感情サイクルを繰り返しながら段階的に成熟していくと考えられます。そして、それらすべての感情の出発点となるのが甘えなのです。

子犬は生後すぐに母犬から安心感をもらいますが、やがて、その依存状態を不自由と感じる心が芽生えてきます。このとき、自由を求めて動こうとする気持ちが意欲です。意欲はとても高いエネルギーで、運動機能や知的能力、好奇心を試したいという欲求が沸きあがり活動も活発になります。そうして自由を満喫していると、やがてまた不安が訪れ甘えの世界へと戻ります。安心感をもらうと再び「チェレンジしたい」「欲求を満たしたい」と自主的な世界へと向かうというサイクルを何度も繰り返します。

社会に適合していこうとする自主性が芽生えるには意欲が必要ですが、意欲の元にあるのは安心感です。安心感はどこからくるのかというと十分な甘えからです。甘えから得られる安心は心の成長に必要な土台となるのです。

漠然とした不安から具体的な不安へ

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不安にも段階があります

ひとつの感情サイクルが次のサイクルへと繋がるきっかけとなる不安は「何だか不安」という漠然とした一次的な不安から、不安と安心、不自由と自由を繰り返すことで、その強度も具体性も高まり「社会に馴染めない」「方法が分からない」「自分の欲求をうまく表現できない」など、二次的な不安へと変わっていきます。

成長度で変わる安心感の意味

成長度によって不安が変容すると、犬がその時々で必要とする安心感も異なってきます。たとえば、身体接触で保護されるだけではなく「不安を解消する術を知りたい」「チャレンジするときに見守っていてほしい」などがあります。

保護と援助について詳しくはコチラ→犬に必要とされるリーダー像とは?

そのことを十分理解していないと、あなたの犬が依存の世界に戻ってきたときに「この子はとてもビビリ」「臆病なので心配」など、つい身の安全を守ることだけに気をとられてしまい、次のサイクルへ向かうサポートのチャンスを逃す可能性が高くなってしまいます。さらに、犬自身も求めていたものとは違う種類の反応が返ってくることで「理解してもらえない」と感じ、あなたに対して不満や不信感を抱くようになる怖れもあります。

どんなに「試したい!」という意欲があっても、人との協力関係を築けなければ犬の持つエネルギーは空回りしてしまい、時にそれが、私たちには困った行動に映ってしまうのです。

不安になって振り向いたときに、そこにはちゃんと守ってくれる人がいて「大丈夫だよ」と頷き「見守ってくれている」そういう関係こそが、犬たちが求めている本来の甘えの形なのではないでしょうか。

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犬の甘え感情のサイクル(Yuko shirata,2017)

ワン!ポイントアドバイス
『甘やかす』と『甘えさせる』の違い

『甘やかす』

してはならないこと。利己的過干渉や過保護など、犬の束縛や支配に繋がる恐れがある。「もっと食べたい」など、必要以上の物質的な要求をそのまま受け入る、経験を積むと出来るようになることをさせずに保護のみをするなど。

『甘えさせる』

必要なこと。利他的で犬のペースを尊重し、情緒的な要求を受け入れること。どうしても上手くできないことや、我慢できないことを手伝い助けてあげるなど。

「甘やかす」と「甘えさせる」とは区別の難しいことも多いと思います。犬の成長過程の行動を「この子はこうだ」と早合点して成長を止めないように、犬と向き合う時間を持ちましょう。

おわりに

あなたが愛犬に注ぐ愛情と愛犬からの甘えは、互いに補完し強めあう関係にあると思います。犬に必要な精神的サポートをするには、犬のペースや様子を良く見極めて「チャレンジさせるべきか、やめさせるべきか」の判断を適切に行わなくてはなりません。そのためにも、あなたの犬が依存の世界に戻ってきたときそれは以前とは違う要求である可能性が高いことを意識しあなたの知識や経験愛情などを最大限に発揮させて注意深く対応することが必要になります

愛情表現は撫でたり褒めたりすることもよいですが、微笑みや頷きなど表情とエネルギーで伝えることもできます。犬との結びつきを高め、いつでもあなたの犬と心を一つにできるのはあなたしかいないのです。一方通行の愛情ではなく、犬が幸せに生き、あなたやあなたの家族がよりよい毎日を送るために、犬がどのように意思を伝え、どのように学習するかなど、適切な知識と経験を持ち合わせた人が今以上に増えていくと「世界が少し変わるかもしれない」と私は思うのですが、皆さんはどうお感じになりますか。

次の記事はこちら →【犬との暮らし】犬の心を育む8~カフェでのんびりと過ごす心の準備と自信と成長

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白田 祐子(しらた ゆうこ)心理士/ホリスティックケア・カウンセラー

公益社団法人日本心理学会認定心理士。トレーニングスクール、ル・ブラン湘南代表。25年前から犬の気持ちを理解するため犬の行動や心理を独学し、保護施設でしつけなどのボランティア活動を開始。現在のパートナーは、3頭目の雑種の保護犬11歳の女の子。大学で教育学、認知心理学、社会心理学などを専門的に学び、人と犬の関係性や犬の心の成長の研究を行う。2013年にスクールを立ち上げ、飼い主と犬のパーソナリティを重視。思考に訴えかける行動矯正が多くの女性に支持されている。翌年ホリスティックケア・カウンセラーの資格を取得。食事の重要性を再認識しフード選びのアドバイスも積極的に行う。里親制度の啓蒙や地域行政と連携した動物相談など、教育、行政、法律と多方面で犬と人の問題に向き合っている。ヒトと犬の関係学会員、愛玩動物飼養管理士、神奈川県動物愛護推進員。
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