2021.10.15一緒に。もっと、

犬も「あの時楽しかったね」という思い出を持っているのだろうか?

  • 犬も「あの時楽しかったね」という思い出を持っているのだろうか?

犬も「あの時楽しかったね」という思い出を持っているのだろうか?

犬と暮らしていると毎日いろいろな思い出が増えていきます。家族に迎えた日のことや、いっしょに出かけた場所のこと、あんなイタズラをしたねと、過去のことを思い出すこともよくあります。そんな時にふと「そう言えば犬も昔のことを覚えているのかな?」と考えたことはありませんか。
実は犬の記憶に関する研究はとても新しい分野なのだそうです。現在「犬の記憶」についてわかっていることと、私たちが心に留めておきたいことを考えてみようと思います。

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犬にはエピソード記憶がないと言われていた

犬も「あの時楽しかったね」という思い出を持っているのだろうか?
いつ、どこで、誰と、という時間や場所や感情などの情報を含んだ個々の経験の記憶をエピソード記憶と言います。情報や電話番号を覚えるのとは違う種類の記憶です。長い間エピソード記憶は人類に特有のものだと考えられており、10年くらい前には、犬はエピソード記憶を持っていないと断言する研究者も少なくありませんでした。

しかし好きな人や楽しく遊んだ経験のある場所を再訪した時の犬の喜び方や、過去に辛い思いをした経験から特定の状況を怖がるようになった犬を例に挙げて、犬にもエピソード記憶はあるのではないか?という声もありました。
動物の場合、エピソードを覚えていたとしてもそれを言葉で説明してくれるということはありませんので、エピソード的記憶と呼ばれています。

犬のエピソード的記憶を証明した2つの研究

犬も「あの時楽しかったね」という思い出を持っているのだろうか?
犬のトレーニング方法の1つでミラーメソッドという名前をお聞きになったことはあるでしょうか。ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学者が考案した方法で、飼い主やトレーナーがジャンプやタッチなどの動作をやって見せてDo it(やってみて)というキューで犬が真似をするというものです。
2016年、同じ動物行動学者がこのミラーメソッドを使って、犬が過去に起こった他者の行動を記憶していることを証明しました。

17頭の家庭犬を対象にしてミラーメソッドの訓練を行い、完成した時点で犬の記憶を分析するためのテストを実施しました。
テストは犬の前でいくつかの動作をして見せた後に一定の時間をおいてからDo itというキューを出したら、犬は人間が最後に見せた動作を覚えていて真似するだろうか?というものです。動作とキューの間の時間は1分と1時間で設定したところ、大部分の犬が時間をおいても動作の真似をすることに成功しました。時間を少しずつ延ばしていったところ、最長24時間後でも動作を真似することができました。
過去に人間が見せた動作を覚えており、その記憶をたどって行動できるということは犬にもエピソード的記憶があることを証明します。

もう1つ、2019年にはカナダのウェスタン大学の比較心理学の研究者が、犬の嗅覚を使っての実験で犬がエピソード的記憶を持っていることを示しました。
4種類の異なる匂いをそれぞれ違う場所で違う時間に犬に嗅がせた後に、そのうちの2種類を探し出すという課題を与えました。これには犬が「どの匂いを、どこで、いつ」嗅いだのかを思い出す必要があるのですが、実験に参加した犬たちは課題をクリアすることができました。
この研究の重要な側面の1つは犬の嗅覚に焦点を当てたことです。言うまでもなく犬は優れた嗅覚を持っています。この実験は犬の記憶、学習、感情を引き出すには嗅覚が大きな役割を果たしていることを示しています。

犬も思い出を持っているということの意味

犬も「あの時楽しかったね」という思い出を持っているのだろうか?
このように現在は、犬が時間、場所、他者の行動などを含めたエピソード的記憶を持っていることが明らかになっています。進化の観点から見ると、エピソード的記憶は犬だけでなく動物界に広く存在するスキルだと考えられるそうです。
また犬の記憶のシステムが人間と似ていることがわかり、加齢による認知機能障害の予防や治療方法が犬と人間共通で研究できることが期待されます。

また犬がエピソード的記憶を持っているという認識は、動物福祉の面でも大きな意味のあることです。体罰など嫌悪的刺激を使う訓練方法がどうして望ましくないのか、早すぎる週齢で母犬や兄弟犬から引き離すことの弊害など、エピソード的記憶と絡めて考えると深く実感できます。

おわりに

犬も「あの時楽しかったね」という思い出を持っているのだろうか?
過去10年ほどの間に、犬にも人間と同じようなエピソード的記憶があることが明らかになったというトピックをご紹介しました。
私たち犬と暮らしている者にとっては、犬も「あの時の海」「昨日の公園」「自動車で出かけた旅」といった思い出をちゃんと持っているのだという科学的なバックアップはとても嬉しいことです。
それだけに、愛犬にはできる限り「うれしい」や「楽しい」をたくさん作ってあげなくてはと思いますし、毎日を大切にしようという思いを強くしました。

《参考URL》
http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2016.09.057
https://doi.org/10.1037/com0000174

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「犬のココカラ」編集部 チームGREEN DOG 監修・執筆

GREEN DOGの獣医師、トレーナー、カウンセラー、グルーマーなど犬の専門資格を持ったプロたちが一つのチームとなって、責任を持って執筆または監修しています。