犬は人の心をどれくらいわかっているのでしょうか?
犬といっしょに生活していると、ついつい当たり前のように彼らが私たちの気持ちや言葉を理解しているという前提で犬と接することがあります。嬉しいことがあって気持ちがウキウキしている時には犬もはしゃいでいるように見えますし、落ち込んでいる時には寄り添ってくれるように感じるので、それは無理もないとも言えます。
実際のところは、犬はどれくらい人間や他の動物の感情や精神状態をわかっているのでしょうか。
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犬は他者の感情にどう反応するのだろう?
愛犬が自分の気持ちを察していると感じている方は多いと思います。私自身も確信に近い感じでそう考えて来ましたが、時々「でもそれは自分の願望を反映しているだけではないだろうか?」と思い直すこともありました。
そのような疑問を確かめるべく2017年にウィーン獣医科大学が行なった実験があります。たくさんのスピーカーを設置した実験室で犬が飼い主と一緒にくつろいでいる時に、スピーカーからさまざまな音を流して犬の反応を観察するというものです。
スピーカーの音は、嬉しい時のポジティブな感情の犬の声、苦痛や恐怖などネガティブな感情の犬の声、人間が笑う声(ポジティブ)、人間が泣く声(ネガティブ)、雨や風など無生物の音、虫の音など感情を伴わない音です。
実験に参加した犬たちは犬と人間の感情を伴った声が聞こえた時にはっきりとスピーカーに注目し、特にネガティブな感情の声を聞いた時には凍りついたように動かなくなる頻度が高くなっていました。これは犬の声でも人間の声でも同じでした。ポジティブな声に対しても反応を示しましたが凍りついたような行動は見られませんでした。
この結果は犬が他者の感情に同調したり、他者の感情が犬に伝染している可能性を示しています。私たちはテレビなどで悲しい話を見聞きして気持ちが落ち込んだり、他の人の幸せな報告を聞いて心が温かくなったりすることがあります。これは『情動伝染』と呼ばれる脳の活動です。この実験を行なった研究者は、犬にも情動伝染があり、犬の感情は時に人間の感情を反映している可能性を指摘しています。
どうやら私たちが愛犬に対して「気持ちが伝わっている!」と感じていたのは間違いではなかったようです。
ストレスを感じているのも犬にはお見通し
私たちの感情に大きく影響するもののひとつにストレスがあります。実はこのストレスについても犬が察知できるという研究結果があります。
2022年にイギリスのベルファスト大学が、犬が人間のストレスの匂いを嗅ぎ分けられるかを確かめる実験を行いました。実験のための臭気選別のトレーニングを受けた家庭犬たちが、人間の平常時の汗と呼気のサンプル、ストレスを誘発する計算問題を解いた後の汗とサンプルを約94%の精度で嗅ぎ分けたというものです。
この結果は犬が人間のストレスを嗅ぎ分けられるというだけでなく、表情などの視覚的な情報や声などの聴覚的な情報がなくても、他者がストレスを感じていることを察知できることを示しています。
犬がストレスに関連する物質を嗅ぎ分けたとは言え、ストレス関連物質の匂いとその時の人間の心理状態との関連を犬が理解しているという証拠はまだありません。でも犬たちが飼い主さんのことを「落ち込んでる時はいつもと違う匂いがするなあ」と思っている可能性は、頭の隅に置いておいた方が良さそうですね。
犬が私たちの感情を受け止めていると知ることがなぜ大切なのでしょう
犬が人間や他の犬の感情を受け止め、犬自身の感情に影響を及ぼしていることはわかりました。犬への感情の伝染が他の犬という同種間だけでなく、違う種である人間との間でも起こっていることは、犬と人間の関係の強さと犬の感情的能力の高さを表しているとも言えます。
人間の感情やストレスが犬に影響を与えていると知っておくことは犬の福祉のためにとても大切です。例えば、セラピードッグは時に気持ちの不安定な人に寄り添うことが必要です。先に示したような研究結果から、人間を癒すためのセッションの後に犬の感情のフォローが不可欠であることがよくわかります。
仕事を持っている犬でなくても、家庭で暮らしている犬たちも同じです。仕事のストレスでイライラしている時、悲しいことがあって落ち込んでいる時、腹立たしいことがあって怒っている時、犬のそばで感情をあらわにすることは控えた方が良さそうです。
もちろん人間ですからいつも上機嫌というわけにはいきませんし、たまには犬に慰めてもらうことがあっても良いと思います。しかし毎日のように犬に向かって悩み事や辛かったことを延々と話して聞かせたり、犬の前で家族が喧嘩をすることは、犬の脳にネガティブなインパクトを与えていると知っておくと自然と意識が変わりますね。
おわりに
犬には人間と同じように「感情の伝染」が起きること、犬は人間のストレスを匂いで嗅ぎ分けられることをご紹介しました。
犬が私たちの気持ちを察する能力は人間の希望的観測どころか、そのもっと上を行っているのかもしれません。それはまた犬たちが苦痛を受ける能力についても深く考慮しなくてはならないということです。
大切な愛犬との関係をより良いものにするためには、私たちは自分自身の感情をきちんと扱う必要があるようです。でも愛犬の顔を見れば自然とポジティブな気持ちが湧き上がってくるので、実はそんなに難しいことではないかもしれませんね。
《参考URL》
Investigating emotional contagion in dogs (Canis familiaris) to emotional sounds of humans and conspecifics
https://link.springer.com/article/10.1007/s10071-017-1092-8
Dogs can discriminate between human baseline and psychological stress condition odours
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0274143
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