2019.01.08一緒に。もっと、

保護犬にラベルをつけること〜アメリカでの静かな運動

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保護犬にラベルをつけること〜アメリカでの静かな運動

今回は ガニング亜紀 さんの記事です。
ガニング亜紀さんの他の記事はこちら →ガニングさんの記事一覧

皆さんの中にも保護犬を迎えて家族になったという方がいらっしゃると思います。

我が家の2匹の犬たちもシェルターから迎えた保護犬で、そのうちの1匹は雑種犬です。

アメリカのアニマルシェルターにいる雑種の保護犬を巡って、全国のシェルターで静かに広がっているムーブメントがあります。

バージニア州のポーツマス・ヒューメイン・ソサエティという保護施設から始まった『アメリカンシェルタードッグ運動』と呼ばれるこの動きは、私たちに犬と向き合う時の姿勢を改めて問うて来るものです。

《参考URL》
・https://portsmouthhumanesociety.org/american-shelter-dog/
・https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0202633

『雑種』?それとも『○○ミックス』?

日本語の『雑種犬』に当たる英語は『mutt』と言います。しかしこの言葉は「行儀の悪い」とか「厄介な」というニュアンスを含むため、動物保護施設などでは使われることが無くなっていき、「ラブラドールミックス」とか「チワワミックス」という表現が多く使われるようになっていきました。

『〇〇ミックス』にどの犬種を当てはめるかは、ほとんどの場合シェルターのスタッフによって犬の外見的な特徴から推測して決められます。

この時にどんな犬種に分類されたかで、その犬の運命は大きく変わる可能性があります。

ラブラドールやプードルのような人気犬種に分類されれば、多くの犬が問題なく新しい家庭に迎えられていきます。

一方、ピットブルやドーベルマンなど「危険」と言われる犬種のラベルが付くと引き取り手が現れずに殺処分になってしまう例も多いのです。

ポーツマスの保護施設では、この非合理的で不公平なやり方をストップして、純血種ではないミックスの犬を『アメリカンシェルタードッグ』と呼ぶことを始めました。

雑種犬を見た目で判断する難しさ

保護犬にラベルをつけること〜アメリカでの静かな運動

雑種またはミックスと呼ばれる犬を外見で識別することに関しては過去にいくつもの研究が行われ、信頼できるDNA検査なしには1匹の雑種犬の中の犬種を特定することはほぼ不可能だと結論づけられています。

最近の研究では2018年8月にアリゾナ州立大学ケーナイン 科学の研究者がシェルターにいる900匹以上の犬のDNA検査を行いました。

検査結果をシェルターで掲示されている犬のプロフィールと比較したところ、一致していたのはわずか10%という結果でした。

また1匹の犬について平均3つの犬種のDNAが確認され、単純に1つまたは2つの犬種の名前でミックスと呼ぶことに無理があることも、あらためて浮き彫りになりました。

別の研究では、保護犬のプロフィールにピットブルという言葉が入っていると、その犬に新しい飼い主が見つかるまでの時間が平均の3倍以上になることも明らかになっています。

犬の外観だけを基にした精度の低いラベル付けのせいで、引き取り手が現れなかったり殺処分になってしまうという悲劇は無くして行く必要があります。

しかし一般的な動物保護施設で全ての犬のDNA検査を行うことは予算や手間の面で到底不可能です。

それならば、せめて不確かな犬種のラベル付けは止めようというのが『アメリカンシェルタードッグ運動』が広がっている背景です。

犬種ではなく個々の犬と向き合うこと

保護犬にラベルをつけること〜アメリカでの静かな運動

ポーツマス・ヒューメイン・ソサエティではアメリカンシェルタードッグという呼び方を選び、運動の象徴として使っています。

しかし呼び方の選択は問題の焦点ではありません。この運動に賛同している保護施設の中には、保護犬の犬種がはっきりわからない場合には単純に犬種を表示しないという方法を取っているところもあります。

複数の犬種のミックスでは、外観にどの犬種の特徴がどの程度出ているかわからないように、身体能力や気質でもどんな特徴が現れるか予測することはできません。

アメリカンシェルタードッグ運動に賛同する保護施設の人々が強調するのは「全ての犬はみんなそれぞれに違います。〇〇の犬種だからこうだろうと推測するのではなく、今目の前にいる犬の行動や性格を観察して理解して欲しいのです。」ということです。

これらの保護施設では犬のプロフィールの紹介に犬種名を表示しない代わりに、犬のエネルギーレベル、どんな遊びが好きか、子供が好きか、他の犬と遊ぶのが好きか、以前はどんな環境でどんな経験をしてきたか、医療上の履歴といった情報をリストアップしています。

これらの情報は、スタッフが犬を知るために時間をかけて得たものです。

アメリカのアニマルシェルターという遠い世界の話に聞こえるかもしれませんが「犬はみんなそれぞれに違う。犬の個性を観察して理解すること。」は純血種の家庭犬と暮らしている人にとっても大切なことです。

今目の前にいる愛犬の心や体は、一般的な「トイプードル」とか「ジャックラッセルテリア」というラベルだけで分かるものではなく、「個」としての犬と向き合うことで、理解を積み上げたり深めたりしていくものです。

おわりに

保護犬にラベルをつけること〜アメリカでの静かな運動

アメリカで静かに広がりつつある、アニマルシェルターでの雑種犬のラベル付けを廃止する運動をご紹介しました。

多くの人はついつい「ラブラドールならフレンドリーだろう」「トイプードルなら訓練しやすいだろう」といった犬種への先入観で犬を見がちです。

純血種の場合は、犬種も確かに犬を理解する上での情報の一部です。しかし、あくまでも一部です。

犬種の情報ばかりを重視していると「こんなはずではなかった」が生まれ、犬も人も不幸になってしまいます。

雑種犬であれ、純血種であれ、皆それぞれに違う「個」としての犬と向き合い、世界にひとつだけの素敵な関係を作っていきたいですね。

アニマルシェルターについて他の記事はコチラ → 犬の心を落ち着かせるための子守唄

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ガニング 亜紀(ガニング アキ)

米国カリフォルニア州在住。2005年から犬との暮らしをスタートして2匹の犬をそれぞれ15歳で見送りました。犬たちとの16年間で知識が増えると犬との暮らしが楽になることを痛感しました。自分が「へ〜!」と感じたことを堅苦しくなくお伝えしていきたいと思っています。