2018.06.19一緒に。もっと、

【犬との暮らし】都会の犬たち17~子犬を迎えたら必ず行いたい「社会化」について

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【犬との暮らし】都会の犬たち17~子犬を迎えたら必ず行いたい「社会化」について
都会で暮らす犬たちには多くの試練があることを今までお話させて頂いています。日常的に行っているお散歩や定期的に行われるシャンプーや爪切り、獣医師での検診等々、様々な状況に向き合わなければなりません。そんな状況を犬はあたりまえに受け入れてくれるだろうという人間側の楽観的な考え方をちょっと見直してみませんか?

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犬がいろいろなことを受け入れやすいのは生後4週間から12週間

何に対しても好奇心で向かっていったり、素直に人間や動くものに付いてきてくれるのは子犬のほんのわずかな期間です。感受期とも言われているこの時期は生後4週間から12週間の間に訪れ、見るものすべて口に入れて確認したり、触ってみたりと犬が能動的に行動していく時期でもあります。犬たちはこの時期に出会ったものを比較的受け入れやすいことから、飼い主にとって社会化と言われる、様々な物に慣れさせるという作業を進めていく絶好の時期でもあります。

ところが、新しい飼い主の元にやってくる時期は生後8週以降が多く、感受期が始まる4週から8週までの期間はブリーダーさん宅で犬は生活しています。そこで、ブリーダーさんの役割がとても重要になります。しかし、この時期子犬を車に乗せて走ってくれたり、衛生上問題の無い範囲で人と接触させたり、これから遭遇するであろう音などに馴らしていくという手間をどれだけのブリーダーさんがかけてくれているでしょうか。多くの台雌をかかえ、常に沢山の子犬がいるようなブリーダーではおそらくそこまで手は回らないでしょう。特にパピーミルと呼ばれる繁殖工場にそれを望むのはまず無理です。

また生後35日程度で親元から離されてセリに出された子犬たちの場合でも、ペットショップなどでそこまでケアしてくれるところは無いのではないでしょうか。

しかし、本来であれば新しい飼い主の元に行く前から子犬の社会化は始めて欲しいものです。なぜなら、その後10数年人間社会の中で生きていく犬たちがいつもに平常心でいられるために必要なプロセスだからです。

飼い主の元にやって来たとき、すぐに新しい環境に慣れるかどうかはそれ以前の犬の生活環境に大きく左右されます。もちろん、人の手を借りてそこまで育ってきているので、おそらく人間に対する愛着に関しては問題ないでしょう。しかし、隣家の音、窓の外から聞こえてくる車の音、様々な生活音に対する免疫が出来ていなければ、新しい飼い主の元にやってきた子犬は、おそらく散歩にすら出られないでしょう。ひろびろとした自然の中でのびのび育つというのは子犬にとって理想的な環境ですが、中にはその後騒々しい都会で暮らして行かなかければいけない犬たちもいます。新しい環境に順応できるかどうかは社会化にかかっていると言ってもいいでしょう。

子犬を迎えたら飼い主が行うべき「社会化」とは

子犬を迎えた直後、あまりの可愛さについつい手から放せない状態になるというのはよくある話です。ずっと以前に聞いた話ですが、あるペットショップでは、子犬を渡すとき、

「環境が変わって慣れるまでに時間がかかるので、1週間ぐらいは箱のような暗い場所に入れて、外に出さないでください。」

と言ったそうです。おそらく社会化という概念がまったくなかった頃の逸話でしょう。今では考えられませんね。
では、連れて帰った後はどうすればいいのでしょう。当然環境が変わることから犬も戸惑うでしょうが、時期が早ければ社会化の扉は開いているので、犬が自分から近寄って行くという機会を与えたいものです。そうなると子犬にとって危険なものは全て子犬の口や手の届かないところに撤収しておかなければなりません。『危ないかどうか自分で判断させる』という時期には少々早すぎるので、極力危険は排除します。犬がかじってもいいもの、犬が口に入れても安全なものだけを置いて、危険な場所には入れないようにするなど人間側の配慮は手を抜けません。何かを口に入れて、開腹手術などのストレスを与えてしまえば、人間との信頼関係にひびを入れないとも限りません。

また、ワクチン接種との兼ね合いで地面に下ろせない時期であっても、家の窓を開けて外の匂いを嗅がせたり、生活音を聞かせたり、場合によっては抱っこで散歩に出て、轟音を立てて走り去る車やバイクを見せて、それらが自分には関係の無い日々の出来事にしてあげましょう。特に住居環境が高層マンションで外部の音から遮断されていたり、閑静な住宅街では、家の中にいるだけでは外の状況を感じることは出来ません。抱っこでエレベーターに乗って他の住人がいることを教えたり、抱っこで近所を散歩しながら、犬や人、車などが自分の周りにあることを早くから認識させて馴らしていくことが不可欠です。もちろん、生来の気質がおおらかで、多少のことでは動じない犬もいるので、社会化を行わなかったからと言ってすべての子犬が散歩に出られなくなるわけではありません。しかし、中には怖くて固まってしまい、落ち着いて散歩が出来るまで数か月間かかる犬がいるのも事実です。

【犬との暮らし】都会の犬たち17~子犬を迎えたら必ず行いたい「社会化」について

地面に下りられない時期はカートで散歩。見るものすべてが子犬にとって新しい

20年以上前になりますが、私自身まだ「社会化」という言葉すら知らなかった頃、私は先住のボーダーコリーを抱いて近所を散歩しました。我が家は私道に面していて住人以外の車はほとんど入ってこないのですが、私道の先はバス通りになっていて車の量もかなり増えます。そのため、早く一緒に散歩に出たかったこともありますが、新しい環境に早く慣れてもらいたいと思ったのです。ところが、ワクチンが済んで自分の足で外を歩かせたところ、バス通りに出た途端フリーズしてしまい、実際私道からバス通りに出られるようになるまでには、数日かかってしまいました。私道を往ったり来たり歩きながら、バスが走って行く様子を30メートル手前で見せ、それから20メートル、10メートルと少しずつ距離を短くして、自分の足で自然に私道からバス通りに出られるようにしたのです。

社会化期を過ぎてしまった犬は社会化できないの?

先にお話したように、子犬の社会化に適した時期は生後4週から12週というわずかな期間です。では、その時期でなければ犬は周囲の環境に慣れることはないのでしょうか。そんなことはありません。ただ、好奇心より警戒心が勝ってしまい、無心に受け入れることができなくなるのです。つまり成長と共に少しずつ怖いものが増え、石橋をたたいて渡るようになっていくわけです。丁寧に時間をかけて慣れさせるという作業を行えば、怖いものをひとつずつ減らしてやることはできます。しかし感受期とは異なり、すんなりいかないことも多くあります。飼い主があきらめてしまうか、犬が自信をつけるまでつきあってやれるかが今後の犬の成長に大きく関わっていくとも言えるでしょう。

社会化期を過ぎてしまっても犬たちは日々新しいものに遭遇し、少しずつその経験値をあげていくのですが、人間はそのたびに、犬が新しいものを受け入れやすいようにサポートしてあげることで犬の心理状態を出来るだけフラットに保つことができます。

例えば、いつもの散歩ルートにある朝突然粗大ごみが置かれていたとします。犬は遠くからそれをみつけると異変を感じて腰が引けたり、吠えたりしてしまうかもしれません。そこで飼い主が『いつもと同じだから。』と腰が引けた犬を無理やり引きずって行くか、吠えるとうるさいからと反対方向に歩きはじめるか、あるいは犬のリードを緩めて犬に行動を選択させるかによって、その後の犬の反応は大きく変わってくるはずです。つまり、人間にとっては些細なことでも、犬にとっては大きな問題に直面したとき、強制するか、解決の機会を取り上げるか、あるいは自分で解決させるかで、犬の心の成長をサポートできるかどうかは違ってくるでしょう。

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散歩の途中でフリーズしてしまったら、自分から歩きだすのを待ってあげることも大事です。

おわりに

犬は人間以上に多くのことに気づいてしまいます。その心の動揺に気づいてサポートしてあげられれば、ストレスを軽減しながら経験値をあげていくことができます。ちょっとした環境の変化で怖がったり吠えてしまう犬たちは多くいます。冷静に解決できるようなメンタルキャパシティの広い犬に育つよう手助けをしてあげたいですね。

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【犬との暮らし】都会の犬たち17~子犬を迎えたら必ず行いたい「社会化」について

三井 惇(みつい じゅん) CPDT-KA、ドッグトレーナー/ドッグダンスインストラクター、ホリスティックケア・カウンセラー

1997年に迎えたボーダーコリーと始めたオビディエンス(服従訓練)をきっかけ に、犬の行動学や学習理論を学び、2006年WanByWanを立ち上げる。愛犬の出産、子育て、介護と様々な場面でも多くを学び、愛犬のQOLの向上を目指して2008年にホリスティックカウンセラーの資格を取得。2016年自身のトレーニング方法を再確認するために世界基準のドッグトレーナー資格CPDT-KAを取得。現在、4頭目と5頭目のボーダーコリーとドッグダンスの楽しさを広めながら、東京近県で出張レッスンを行っている。
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