2023.07.07一緒に。もっと、

小型犬症候群と呼ばれる犬の行動はどうして起きるのでしょうか

  • 小型犬症候群と呼ばれる犬の行動はどうして起きるのでしょうか

小型犬症候群と呼ばれる犬の行動はどうして起きるのでしょうか

小型犬はその愛らしい姿に加えて日本の住宅事情にもマッチすることから根強い人気を誇っています。その一方で「小型犬はよく吠える」「小型犬は言うことをきかない」といったあまり嬉しくない声が聞かれることもあります。

英語ではスモールドッグシンドローム(小型犬症候群)という言葉があり、小型犬に多く見られる、吠えたり唸ったり興奮したり飛びついたりといった望ましくない行動の総称のように使われています。

小型犬症候群というのは病気の名前ではなく、小型犬の行動を表現するカジュアルな通称です。でもなぜ小型犬たちはこんなふうに呼ばれてしまうのでしょうか。

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犬の体のサイズは行動に影響するのだろうかという調査

小型犬症候群と呼ばれる犬の行動はどうして起きるのでしょうか

小型犬は中型犬や大型犬に比べて興奮したり怖がったりすることが多く、そのためによく吠えると考えられていますが、それは本当なのでしょうか?

この点について、2010年にオーストリアのウィーン獣医科大学が調査した結果報告があります。
この調査は犬の飼い主を対象にしたアンケートによって行われ、犬の行動、トレーニング方法、飼い主の行動などについて1,276件の回答が集められました。質問に含まれた犬の基本情報から体重20kg未満と20kg以上で犬や飼い主の行動に違いがあるかどうかが分析されました。

その結果、20kg未満の犬は「おすわり」「おいで」などの一般的なキューに対する反応性が低い、興奮しやすく見知らぬ人や犬に吠えたり唸ったりする、初めての状況や大きな音に対する不安や恐怖が強いといった傾向が20kg以上の犬よりも強いことがわかりました。

犬の行動だけでなく、飼い主の行動も小さい犬と大きい犬では違いが見られました。20kg未満の犬の飼い主は犬の望ましくない行動に対して、ある時は叱り、ある時は許すといった一貫性の無さが目立ちました。20kg未満の犬ではドッグスポーツやジョギングなど犬と一緒に行うアクティビティに費やす時間が短いこともわかりました。また小さい犬は望ましくない行動に対して罰を与えられた時の不安や恐怖がより強い傾向がありました。

このウィーン獣医科大学による調査は現在も多くの動物行動学の専門家や団体から支持され引用されることが多いものです。
全ての小型犬に当てはまるわけではありませんが、『小型犬症候群』と呼ばれる小型犬に多い行動上の問題は確かにあるようです。

小型犬症候群を作り出しているのは犬ではなくて人間

小型犬症候群と呼ばれる犬の行動はどうして起きるのでしょうか

小型犬が不安や恐怖を強く感じる傾向が強いのは彼らの身になって考えてみれば無理もないことです。5kgにも満たない小型犬にとって人間の体のサイズは威圧感があるでしょうし、初めて会う大きな犬に不安を感じるのも当然のことです。不安や恐怖を感じた時に逃げたり隠れたりすることができなければ、犬は吠えたり唸ったりします。攻撃的な行動も、そのほとんどは恐怖から来ています。

自分よりずっと大きい犬や人間、初めての場所や未知の物体は怖い存在ではないことを犬に教えてあげるのが社会化です。小型犬症候群の犬は社会化不足の犬でもあります。

大きな犬の場合はじゃれて飛びついたり、軽く噛んだりすると大きな事故にもなりかねないのでトレーニングをしっかりとする人が多いのですが、小型犬の場合は飛びついても甘噛みをしてもあまりダメージがないので、トレーニングをしていない例も少なくありません。

「おすわり」も「おいで」も信頼関係のあるトレーニングによってできるようになるものなので、小型犬がキューに反応しないというのは適切に教えられていないせいかもしれないですね。

小型犬と飼い主さんがいっしょに活動する機会が少ないというのは、犬が毎日退屈している可能性があります。
こうして考えると、小型犬症候群は犬のせいではなくて周囲の人間が作り出していると言えます。

愛犬を小型犬症候群にしないために

小型犬症候群と呼ばれる犬の行動はどうして起きるのでしょうか

愛犬を小型犬症候群にしないために、または小型犬症候群を克服するためには「社会化」「選択の機会を与える」「退屈させない」「自信をつける」ということが大切です。

飼い主さんが社会化の不足を認識した場合には、社会化に力をいれているパピー教室やドッグトレーナーに相談をすることが一番です。社会化は犬が感じる不安や恐怖への対応でもあるので、ここが上手く行けば望ましくない行動の根本を断つことにつながります。

生活の様々な場面で犬が自分で何かを選択するのはとても大切なことですが、小型犬の場合は無意識に選択の機会を奪われていることも少なくありません。散歩の時に歩きたいコース、匂いを嗅ぐ時間、遊びの時間の切り上げ時など、いつも犬をヒョイと抱き上げて人間の都合で動いていないでしょうか。安全に問題がない場合には、小型犬にも選択の機会をたくさん与えてください。

トリーツを入れて遊ぶフードパズル、空き箱とトリーツやおもちゃを使った宝探しなどは、犬が自分で考えて問題を解決することで、退屈をやっつけながら自信をつけることができます。

またノーズワークは犬にとって大切な嗅覚を使いながら、犬が自分で次の行動を選び自信をつけられるという点で理想的なドッグスポーツです。

おわりに

小型犬症候群と呼ばれる犬の行動はどうして起きるのでしょうか
小型犬症候群と呼ばれることもある小型犬の望ましくない行動と、それを作り出しているのは人間の行動ではないかということを考えてみました。

小型犬は華奢な骨格など体の作りのために気をつけないといけない点はありますが、犬としての本質的な部分は、体が大きくても小さくても同じです。

毎日お散歩に行って、存分に匂いを嗅ぎ、体を動かし、他の犬や人との接触を持つことはもちろん、これらの行動を犬自身が「したいか、したくないか」を選べることは全ての犬にとって必要です。

Behaviour of smaller and larger dogs: Effects of training methods, inconsistency of owner behaviour and level of engagement in activities with the dog
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2010.01.003

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ガニング 亜紀(ガニング アキ)

米国カリフォルニア州在住。2005年から犬との暮らしをスタートして2匹の犬をそれぞれ15歳で見送りました。犬たちとの16年間で知識が増えると犬との暮らしが楽になることを痛感しました。自分が「へ〜!」と感じたことを堅苦しくなくお伝えしていきたいと思っています。