2023.06.09一緒に。もっと、

キューとコマンドは違う?言葉で変わる愛犬との関係性

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キューとコマンドは違う?言葉で変わる愛犬との関係性
話す時、書く時、考える時、私たちは言葉を使います。あるものごとについて、どんな言葉を選ぶのかによってその人の印象が左右されることもあれば、自分自身の気持ちに影響を及ぼすこともあります。人が選ぶ言葉には、その人が周りの世界をどう見ているのか、その人にとって何が大切なのかが自然と現れます。

これは犬のことについても同じです。私たちが選ぶ言葉は愛犬との関係がどのようにあって欲しいのかを表現していると考えると、犬のトレーニングに対する見方も変わるかもしれません。

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「キュー」か「コマンド」かは単なる言葉の違いではありません

キューとコマンドは違う?言葉で変わる愛犬との関係性
長年にわたって犬と暮らしている方は、犬のトレーニングの用語が時代と共に変化しているのを見てこられたことと思います。中でも目につくのは、犬への「おいで」「おすわり」など行動を呼びかける言葉が以前は『コマンド』と呼ばれていたのに対し、近年は『キュー』という呼び方に置き換わったことです。

キューという言葉は、人間が発した合図に対して犬が望ましい行動をした時に報酬(トリーツや犬の好きな遊びなど)を与えることでその行動を強化するという「正の強化」のトレーニング方法と共に広まりました。

コマンドという単語には命令する、指揮する、支配するという意味があります。犬に対してコマンドという言葉を使うのは、命令に従わせることや支配することが目的で、人間と犬の間には上下関係があるという前提です。

キューという単語は合図または手がかりという意味です。犬に対してキューを発する目的は、犬が合図に気づいて行動を選択することです。キューを使うトレーニングは、人間が望む行動を犬が選ぶよう互いに協力するという関係性が目標です。

このように2つの言葉は単純に意味が違うというだけではなく、犬と人間の関係性の本質を表しています。もちろんコマンドという言葉は長年の習慣で使っているだけで、犬と協力し合う関係性を作り上げているというトレーナーや飼い主さんも沢山いらっしゃいます。しかし言葉の持つ意味とそのパワーを知ると、なぜキューという言い方が広まってコマンドに取って代わったのかが理解しやすくなりますし、使いたい言葉も明確になります。

「オビディエンス、服従」から「ライフスキル、協力」へ

キューとコマンドは違う?言葉で変わる愛犬との関係性
犬が命令に従うと言えば、オビディエンス=服従訓練はまさに文字通りの言葉です。オビディエンスはドッグスポーツのひとつとしてその名が定着していますが、この言葉は服従や従順を意味します。

服従訓練の元来の目的は、犬が家庭の中や公共の場所で安全に暮らし、他の犬や人間と平和的に過ごせるようにすることです。しかし服従という言葉を使うと、問答無用で犬に従順でいることを強いる雰囲気が強くなってしまいます。

そこで近年では、犬が安全に暮らすためのスキルを身につけるためという意味で『ライフスキルトレーニング』という言葉が使われています。また従来の服従訓練には含まれていない医療行為や身体の手入れを受け入れるためのトレーニングは『協力的ケアトレーニング』と呼ばれています。ライフスキルトレーニングと協力的ケアトレーニングを総合して『パートナーシップトレーニング』という呼び方もあります。

ここでもコマンドからキューへと変化していったように、犬が人間に服従することを良しとするのではなく、生活に必要なスキルを身につけるため犬と人間が協力し合う関係を目指す方向へと変わっていることがわかります。

犬と人間が協力し合うというのは、たとえ嫌なことでも犬が我慢して受け入れるのではなく、人間が犬のニーズを満たすことで犬が積極的に協力することを自ら選択することです。この関係性を服従という言葉で表すことは不可能ですね。

言葉は私たちの心を作り、犬の心にも影響を与えます

キューとコマンドは違う?言葉で変わる愛犬との関係性
犬と人間の関係は長年にわたって主従関係があるべき姿だと考えられて来ました。しかし20世紀後半から犬の認知についての科学的な研究が大幅に増え、犬の脳や感情について多くのことがわかるようになりました。その結果、犬の望ましい行動には報酬をあたえて定着させるトレーニング方法が犬にとっても人間にとっても最良であることが明らかになりました。

科学に基づいた方法で犬と人間が協力し合うというパートナーシップにコマンドや服従という言葉はふさわしくありません。

人間は誰しも何かを思い通りにコントロールしたいというコントロール欲を多かれ少なかれ持っています。自分よりも小さく弱い存在である犬に対しては無意識のうちにコントロール欲が出てしまうこともあります。命令的な言葉はそのような意識を強化することにもつながります。

愛犬がキューを覚えてくれない、トレーニングを嫌がることを「わがまま」や「頑固」という言葉でレッテルを貼ってしまうことは心の中のコントロール欲に燃料を与えてしまいます。同じ状態で困ってしまっても「混乱しているんだな」「何が必要なんだろう?」という言葉で考えることで犬とのパートナーシップを築いて行けます。

頭の中で考える言葉や口に出す言葉は私たちの意識や心を作り、それが行動となって現れることで、犬の心と行動にも反映されます。

おわりに

キューとコマンドは違う?言葉で変わる愛犬との関係性
犬のトレーニングに使われる言葉が様変わりして来たことから、犬と人間の関係性について考えてみました。

犬は人間の思い通りに動くべき道具ではなく、自分で考えたり感じたりすることができる独立した存在です。人間との暮らしの中で望ましくない行動や危険な行動を避けるためには、命令してコントロールするのではなく協力し合うパートナーでいることが必要です。

言葉はそのような関係を築くためのパワーを持ったツールのひとつです。思いやりのある言葉を選んで、愛する犬たちとの信頼と絆を作っていきたいですね。

《参考URL》
Position Statement on Humane Dog Training
https://vet.osu.edu/vmc/sites/default/files/files/companion/behavior/avsab-humane-dog-training-position-statement-2021.pdf

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ガニング 亜紀(ガニング アキ)

米国カリフォルニア州在住。2005年から犬との暮らしをスタートして2匹の犬をそれぞれ15歳で見送りました。犬たちとの16年間で知識が増えると犬との暮らしが楽になることを痛感しました。自分が「へ〜!」と感じたことを堅苦しくなくお伝えしていきたいと思っています。