犬は笑顔を理解するか?科学が明らかにすること
私たちは毎日当たり前のように愛犬に向かって笑いかけたり、色々な表情で話しかけたりしています。また時には「ダメ!」と少し怖い顔で言ってしまったり、家族の誰かと険しい顔で話をする顔を犬に見せてしまったりすることもあるでしょう。
犬たちはそんな時の私たち人間の顔の表情をどのように受け止めているのでしょうか?笑顔や怒った顔は人間が感じるのと同じような意味で解釈しているのでしょうか?
犬と暮らしている人にとって、彼らが人間の表情を理解しているかという問いかけは「どうしてそんな当たり前のことを聞くの?」と感じるものかもしれません。この問いかけを科学的に検証した研究結果があります。
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犬は見知らぬ人の表情を読み取って区別することができる
犬は見知らぬ人の顔の表情を読み取ることができるのだろうかというテーマで、ブラジルのサンパウロ大学とイギリスのリンカーン大学の研究チームが2021年にユニークな実験を行いました。
実験に参加したのは91頭の犬たちと、2人の女性AさんとBさんで、この人たちは俳優で犬たちとは初対面です。2人はよく似た容姿で同じ髪形、同じ洋服を着用して実験に臨みました。
まず犬の目の前でAさんがBさんに物品を手渡します。その際Aさんは常に無表情で、Bさんは「嬉しい表情」「無表情」「怒った表情」の3パターンのうちのどれかの表情で受け取ります。俳優を採用したのは、これらの表情を声を出さずに的確に表現するためです。
犬たちは3つのグループに分けられ、3パターンの表情のうちのどれか1つを見るよう設定されます。物品のやり取りを犬に見せた後に、2人の俳優はトリーツの入ったボウルを持って犬の前に現れます。この時に犬はどちらの人に近づいたか、またはどちらにも近づかなかったのかが観察されました。
結果は、犬がどちらの人にも近づかなかったのは「怒った表情」では42%、「無表情」では35%、「嬉しい表情」では7%だけでした。
ABどちらかに近づいた場合、「怒った表情」では無表情で物品を手渡したAさんに近づいた犬は95%、怒った顔で受け取ったBさんに近づいた犬は5%でした。ABどちらも無表情だったパターンでは、犬たちがどちらに近づいたかはほぼ半々でした。「嬉しい表情」では、無表情で手渡したAさんへは32%、嬉しい顔で受け取ったBさんに近づいた犬は68%でした。
■ABどちらかに近付いた犬の割合
A | B | |
無表情のA×怒った表情のB | 95% | 5% |
無表情のA×無表情のB | 50% | 50% |
無表情のA×嬉しい表情のB | 32% | 68% |
■ABどちらにも近づかなかった犬の割合
Bが無表情 | 35% |
Bが嬉しい表情 | 7% |
Bが怒った表情 | 42% |
この結果から犬は見知らぬ人の表情を見分けてその意味を理解し、その後の自分の行動を決めるための判断材料にするという複雑なスキルを持っていることがわかりました。
犬にとって身近な人の表情と反応はとても大切
犬にとって一番身近な存在である家族の人間の表情についても興味深い研究があります。
人間の赤ちゃんと保護者の実験で、赤ちゃんを笑顔であやしたり話しかけたりしていた保護者が突然無表情になって声掛けもやめてしまうというものがあります。赤ちゃんは最初は保護者の注意を引こうとして声を出しますが、次第に自分自身も無表情になり、最後は泣いてしまうという結果が幅広く確認されています。
2023年にアルゼンチンのブエノスアイレス大学の研究チームが、91頭の家庭犬と29頭のセラピードッグを対象にして同じ実験を行いました。結果は人間の赤ちゃんと同じく、今まで笑顔で話しかけていた飼い主が無表情で黙り込むと、犬たちは最初は気を引こうと引っかいたり頭をこすりつけて来たりしたものの、それでも飼い主からの反応がないと少し距離を置いてストレスを感じていることを示す行動を見せました。
セラピードッグは人間の表情やしぐさを読み取ることが得意であると考えられ家庭犬の反応と比較されたのですが、飼い主の無表情や無反応に対して家庭犬もセラピードッグもほぼ同じ反応を示しました。
私たちが笑ったり怒ったりすることの意味を犬はわかっている
犬は初めて会った人の怒った顔や嬉しい顔の意味を読み取り、怒っている人には近づかない、嬉しそうな人にはトリーツをもらいに近づいていくという理にかなった判断をします。
また身近な家族の顔から笑顔が消えて反応を返さなくなるとストレスを感じるという犬の行動は、家族の笑顔や家族との交流が彼らにとって大切なものであることを表しています。
私たちが犬に向かって笑ったり怒ったりすることは、犬にとって単なる顔の筋肉の動き以上の意味があります。彼らは笑顔の価値も、怒りや無表情のネガティブな意味もちゃんとわかっています。
これらを知っておくと、犬へのトレーニングの際には笑顔で褒めること、散歩や遊びの時間には犬としっかりと向き合ってのポジティブな反応が、より良い成果や強い結びつきを作るためにとても大切であることが理解できます。反対に散歩中にスマホに没頭したり、トイレの失敗を怖い顔で叱ることが犬の心と関係性に悪い影響を及ぼすこともよくわかりますね。
おわりに
犬が人間の顔の表情を理解していることについて2つの研究結果をご紹介しました。
過去の他の研究では、犬は人間の声についても笑い声などポジティブなトーンと、泣き声などネガティブなトーンに対して違う反応を示し、ネガティブなトーンを好まないことがわかっています。ハッピーな感じの赤ちゃん言葉での声掛けも、犬と仲良くなり強い結びつきを作ることに有効だという報告もあります。
犬が人間の心の機微を理解しているということが、毎日の生活感覚だけでなくデータとして示されると、私たちも迷いなく犬への対応を選ぶことができます。笑顔とハッピーな声で楽しさと優しさが詰まった犬との毎日を作っていきたいですね。
《参考URL》
Dogs can infer implicit information from human emotional expressions
https://doi.org/10.1007/s10071-021-01544-x
Still-face effect in domestic dogs: comparing untrained with trained and animal assisted interventions dogs.
https://link.springer.com/article/10.3758/s13420-023-00589-x
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