【犬との暮らし】犬の心を育む15~神秘の共感力とちょっと困ったシンパシー
こんにちは。ヒトと犬の心と行動カウンセリングをしている、心理士でドッグメンタルトレーナーの白田祐子です。
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犬が人間の感情やしぐさに敏感なことは、昔から経験的に分かってはいても、それを証明する科学的根拠はありませんでした。近年、信頼性の高い方法で行われている犬の行動研究は、今後、人と犬の関係をどのように導いてくれるのでしょう。前回・前々回に引き続き、私たちが普段感じている、飼い主あるあるの「やっぱり!」をいくつかの実験結果から考えていきます。
涙の先に滲む犬の姿
「映画を見て泣いていたら心配そうにやってきた」「落ち込んでいたら愛犬が寄り添ってくれた」など、悲しい時や気分が滅入っている時、愛犬が寄り添い、なぐさめてくれたという経験をお持ちの方は多いと思います。そして、それは決して「思い込みや勘違いではない」と信じていることと思います。事実、最近の研究で、犬は飼い主のみならず、悲しんでいる人をなぐさめようとする習性を持っていることが分かったそうです。
生後8か月~12歳の18頭の様々な犬種を集め、飼い主と見知らぬ人が、それぞれ別の部屋に犬を招き入れ、泣き真似をするという実験を行いました。その結果、18頭中15頭の犬が飼い主を含め相手が見知らぬ人物であっても、静かに近づいて寄り添い、さらに内13頭は人間の体に触れるなど癒しを与えるような“なぐさめ行動”を見せたそうです。
また、環境の変化による影響を考慮し、実験参加犬の自宅で、飼い主と見知らぬ人が会話をし、その後、それぞれが泣き真似をする実験をしても、15頭の犬が飼い主にも、見知らぬ人にも、接近や従順な態度による“なぐさめ”をしたそうです(注:「泣き真似=変わった行動=接近」の影響を防ぐため、「ハミング(変わった行動)」も行ったが、泣き真似にのみ接近した)。
犬は悲しみがわかるの?
たとえば、上記の実験に参加した生後8か月のイエローラブラドールは、自分のしっぽを追いかける遊びに夢中だったにもかかわらず、実験者の泣き声を聞くとすぐに近づき、その肩にやさしく前足をかけたそうです。この結果からは「自分の欲求(好奇心など)」や「飼い主の要求」のみに応えるのではなく“泣いている”という「人間の感情」に共感し、「なぐさめ行動をした」と考えられます。もし「泣いている時に近づいたら撫でられた」など、学習によるものであれば、より積極的に飼い主に近づくはずですが、飼い主と見知らぬ人へのなぐさめ方に「大きな違いはなかった」そうです。
犬は言葉で私たちに事実を伝えてくれませんので、結論は「犬は泣いている人に寄っていく傾向があるが、理由は不明」と結ばれるかもしれません。人間であれば、誰かをなぐさめる行為は、社会経験や他者との関わり合いなど、精神の成熟・心の成長度合いなどから心理学を背景に説明をすることができます。でも、実験に参加したラブラドールはまだ8か月です。私も以前、動物病院で隣合わせた女性が小鳥を亡くして泣きだすと、同じ月齢の頃の愛犬が私と彼女の間に割り入り、彼女の肩に頭を寄せ、頬に鼻を付けたため、とても驚いた経験があります。愛犬のそのような行動は初めて見ましたし、精神の成熟度は未熟といってよい状態でした。
犬はもともと群れで暮らし、仲間の感情に敏感な生き物です。また、人間と暮らし始めた遠い昔から、人間の感情に共鳴・共感する力をより備えた個体を積極的に繁殖させてきた可能性は高いでしょう。でも、昔も今も犬たちには、本能的に人間への共感力が備わっているのではないかと感じてなりませんし、そう考えた方が楽しいと思うのです。みなさんは、どう思いますか?
あなたの人間関係もお見通し!?
あなたの犬が始めて出会う人物に対して、好意的であったり、あるいは素っ気ない態度をとるなど、相手によって接し方が異なるのは、珍しい光景ではないと思います。でも、愛犬のその態度「実はあなたの行動や感情とリンクしています」と言われると、少しドキッとしませんか。
飼い主が見知らぬ人と出会ったときの態度で、犬の行動はどう変わるかを検証した実験があります。
●方法
ノーリードで自由に歩ける犬とその飼い主のペアを部屋に招き入れます。飼い主が所定の位置に立った後、見知らぬ人が入室し同様に所定の位置で立ち止まります。その後、飼い主が(1)接近(2)そのまま(3)後退、の3つの行動をとります(人は声を出したり、犬を見たり、体の動きや顔の表情を変えることはしない)。
■結果
実験に参加した72匹の犬の7割以上が、最初に飼い主と見知らぬ人を交互によく見た。さらに、飼い主が「後退」した場合、「接近」した場合と比べると
- ① 見知らぬ人に目を向けるまでの時間が短かった(すぐに見知らぬ人へ目を向けた)。
- ② 見知らぬ人とのコンタクト(接近または体の一部を付ける)までに時間がかかった。
- ③ 飼い主とのコンタクト(接近または体の一部を付ける)時間が長くなった。
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結果から、犬は飼い主の後退を「恐れに直面した合図」と捉えていると推測することができます。犬は人の動きや表情や声・話し方などから、「近づこう」「無視しよう」「逃げよう」などを判断します。でも、今回の実験のように表情や声などの手がかりがない場合は、飼い主の行動を判断材料としているようです。
愛犬の「コールセンター」はあなたです
犬が私たちの行動を参考(判断材料)とする行動現象を、心理学では「社会的参照(social referencing:他者への問い合わせ)」と呼びます。社会的参照とは、どのような行動をとるべきか、自分の経験や知識だけでは判断に迷うとき、幼児であれば親、犬であれば飼い主など、重要な他者の表情や声・反応をうかがって、それを手掛かりに行動を決定することをいいます。
たとえば、愛犬と散歩中に他の犬が現れたとき、あなたが「全く平気」とリラックスして笑顔を見せ、悠々と行く先を示すと犬は安心して付き従います。反対に「大丈夫かな?」「怖いな」と心配そうな表情や声を出すと犬も不安になります。さらに「恐れに直面した合図」と思わせる行動をとったなら、犬はその後「怒れに対処する行動」をとります。この時、回避行動(無視する)がとれない犬であれば、吠えてしまう可能性が高まるのです。
あなたの犬は、初めての状況やちょっと困った状況で決断に困ったとき、「どうしたらいいの?」と、あなたに“問い合わせ”をしています。“問い合わせ”は、目の前に広がるさまざまな現象を豊かな体験へと変える、未来へ続く灯りなのです。でも、24時間365日“問い合わせ窓口”を開けておくのは大変ですよね。だからこそ、あなたの犬があなたに問い合わせたとき、いつでも笑顔で自信を持って応えてあげられるよう、信頼関係を深めておきたいものです。
おわりに
「今の気分は?」「肩の力を抜いて」「笑顔で」。愛犬の行動にお悩みの方に、私がいつも口にする言葉です。“犬は人の心の鏡”と言っても過言ではありません。私も自分の感情から愛犬の行動を変えてしまった経験があります。散歩で会うと挨拶をする方でしたが「ちょっと苦手だな」と感じたときから、愛犬がその方の姿を遠くにでも認めると吠えるようになってしまったのです。私は行動を変えた自覚はありません。しかし、感情は無意識に漏れ出るものです。ネガティブ感情を払拭すると、特別な矯正はしなくても、愛犬はまた何事もなく静かにすれ違うようになりました。これは私の中でとても大きな意味を持つ出来事となりました。
飼い主の方と愛犬が、顔だけではなく、なんとなくしぐさまで似ている時があります。そこには、科学では解き明かせない人と犬の神秘な結びつきがあるように思います。
あなたとあなたの犬がシンクロしたとき、あなたの犬が幸せかどうか。その答えは、あなたの心の中に隠されているのかもしれません。
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