獣医師が解説!ダックスに多い椎間板ヘルニアとコーギーのDMについて
椎間板ヘルニアとは、脊椎の間の椎間板が正常な位置からはみ出してしまうことにより、脊髄を圧迫・障害し、さまざまな神経症状をひきおこす病気です。
特にダックスフンドでの発症が圧倒的に高いのですが、その他にペキニーズ、フレンチブルドッグ、ウェルッシュ・コーギーなどさまざまな小型犬種でも好発します。また小型犬種だけではなく、ラブラドール・レトリーバーやドーベルマン、ロットワイラーなど大型犬種でも発症がみられます。
今回は、椎間板ヘルニアの種類と好発犬種、原因、自宅でのケア方法などについてGREEN DOGの獣医師 伊東が説明します。
目次
椎間板ヘルニアとは?
背骨はいくつもの骨(椎骨)がつながっていて、椎骨と椎骨の間には椎間板があります。
椎間板は、中心のゼリー状の髄核とそれを取り囲む線維輪からなり、椎骨にかかる衝撃を吸収するクッションのような役割を持っています。椎間板を座布団に例えるならば、髄核が綿で、線維輪が厚い座布団カバーというイメージです。
ヘルニアとは、身体の一部が本来あるべきところからはみ出てしまう状態。
椎間板ヘルニアとは、椎間板の成分(髄核、線維輪)が脊柱管内に飛び出し、脊髄(*1)を圧迫・障害すること。
椎間板ヘルニアの分類
<HansenⅠ型>本来は柔らかい髄核が、硬く変性して繊維輪を突き破り飛び出す(脱出)
<HansenⅡ型>繊維輪が厚く変性し、脊柱管内に突き出る(突出)
犬で椎間板ヘルニアが最も起こりやすい場所は、腰椎部(背中)と頚椎部(首)です。犬は頭と胴体の重みを脊椎が支えていて、跳ねたり、身体をねじったりすることによって、特定の部位に力がかかりやすいためと考えられています。
(※1)脊髄は、脳からの指令を全身に、末梢の感覚などの情報を脳に伝え、また反射に関わる重要な中枢神経であり、背骨のなかの空間(脊柱管)に守られています。
椎間板ヘルニアの原因は?
遺伝によるもの
<HansenⅠ型>
軟骨異栄養性犬種で好発することが知られています。軟骨異栄養症は、軟骨の形成不全で骨が発育されないことにより骨が短くなる病気です。この病気は遺伝子が関係しており、いくつかの犬種はこの遺伝子を定着させて作出され、軟骨異栄養性犬種と呼ばれています。
その代表がダックスフンドです。足が短いのは、この遺伝子を持っているからとされますが、足だけに影響するわけではなく、体全体の骨にも異常を出やすくしてしまいます。そのため、椎間板にも異常が現れやすくなり、他の犬種よりも椎間板ヘルニアを発症する素因を持っているのです。これらの軟骨異栄養性犬種では、若齢期からの椎間板ヘルニアのリスクが高く、多くは3~7歳頃に急性に発症します。
【代表的な軟骨異栄養性犬種】
ダックスフンド、ペキニーズ、フレンチブルドッグ、ビーグル、ウェルッシュ・コーギー、コッカー・スパニエル、シー・ズー、ラサ・アプソなど
加齢によるもの
<HansenⅡ型>
軟骨異栄養性犬種ではない犬において、中~高齢期に多く発症します。原因としては、繊維輪の加齢による変化と椎間板への慢性的なストレスが考えられています。
チワワやヨークシャー・テリア、マルチーズ、パピヨン、プードル、ゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリーバー、ドーベルマン、ジャーマン・シェパード、ロットワイラーなどは、こちらのタイプであることが多いです。
症状について
<HansenⅠ型>突然に椎間板の脱出が起こるため症状が急速に現れ、しばしば重症化します。
<HansenⅡ型>加齢に伴う変化のため、症状はゆっくりと進行します。
発生部位と障害具合によるさまざまな症状
- ■頚椎部(首)
- 首に激しい痛みがある。後肢だけではなく、前肢にも障害が現れ歩くのも難しくなる。重度になると呼吸が妨げられ、突然、死亡することもある。
- ■腰椎部(背中)
- 一般的に5段階に分類され、グレード5の患者には48時間以内の緊急手術が必要。
背中に痛みがある。背中を丸めることが多く、運動を拒否する。抱いたり、背中を触った時に「キャン」と鳴く。
後肢の力が弱くなり、ふらつきながら歩く。
完全麻痺。後肢は全く動かず、前肢のみで歩く。普通の姿勢で立てなくなる。
後肢が全く動かない。肢先の感覚はある。排尿が自力でできなくなる。
下半身は完全に麻痺し、感覚もなくなる。肢先を鉗子で強く挟んでも痛みも感じない。
変性性脊髄症 Degenerative Myelopathy(DM)
椎間板ヘルニアと初期症状が似ています。日本においてウェルッシュ・コーギー・ペンブロークで発生頻度が高く、注目を浴びています。
■どんな症状?
・脊髄の神経細胞が変性することによる機能障害が起きる。
・痛みを伴わず、ゆっくりと進行する。
・10歳過ぎ頃から。前肢にも現れ、進行すると四肢が麻痺。
・発症の詳細なメカニズムは不明。遺伝子の異変によるものということが分かっている。
・進行すると排泄障害や呼吸困難などの症状が現れる。
■運動させてもいい?
変性性脊髄症は積極的な運動をさせたほうが良いと考えられている。運動制限が必要な他の病気と区別するために、精密検査が必要。
※椎間板ヘルニアでは運動することで症状を悪化させてしまう。
治療について
内科療法
・軽い初期症状であれば、炎症や痛みを抑える薬で治療。
・ケージレスト(運動制限)が必要な場合は、1~2歩程度しか移動できないケージで2~4週間は安静にさせる。
外科療法
HansenⅠ、Ⅱのどちらか、また飼い主の意向によっても外科の適用は異なります。
■外科手術適応
・後肢で立つことができない場合、脊髄を圧迫している箇所を取り除く。(グレード2以上)
・内科療法によって症状が改善しない、もしくは症状があまり改善せずに生活の質が下がっているケース。
※手術後は神経の回復のためにリハビリが重要
■緊急の治療が必要
深部痛覚がない。48時間が経過すると脊髄が壊死し、治癒する可能性が著しく低下してしまう。(グレード5)
下半身麻痺になった動物のケア
後肢による自力での起立・歩行ができない
寝たきりになることをできるだけ避けるため、運動量を維持しましょう。ハーネスやタオル、車いすで腰を支えて歩くサポートができます。前肢を元気に動かせるのであれば、車いす を使用するのがおすすめです。
下半身麻痺
尿失禁や排尿障害の症状がでて自力での排尿が難しい場合、飼い主による1日に2~3回の圧迫排尿が必要になってきます。細菌性の膀胱炎のリスクを減らすために定期的な尿検査も重要です。
食事や運動、日常生活でできること
日常生活のコントロール
階段の上り下り、ソファへの跳び乗り降りをさせない
興奮してむやみに走り回らないようにしつける
フローリングには滑り止めマット を敷く
過度のボール投げ、フリスビーやアジリティーなどで急転回する動きは避ける
足を踏みはずしやすい砂利道での散歩は控える
体重のコントロール
体重が適正よりも多い場合の食事は、低脂肪・低カロリー・高タンパク質(筋肉の維持)がおすすめです。
※フードだけでなくオヤツの与えすぎにも注意。
犬のダイエットについての記事はコチラ →犬のダイエット方法~散歩・運動・遊び編
運動
運動で関節や背骨を支える筋肉をしっかりつけましょう。予防やリハビリのための水中運動(ハイドロセラピー)は効果的です。
※日々の運動やリハビリについては、獣医師としっかり相談してください。
まとめ
椎間板ヘルニアでは、迅速な診断と治療が重要です。少しでもおかしいと思ったら直ぐに動物病院に相談してください。治療は、リハビリを含めると長期に及びます。特に好発犬種は、予防のために日々の背骨や首への負担がかからないような生活・食事管理・運動を意識しましょう。
コチラの記事もおすすめ→【犬との暮らし】 シニア犬と暮らす 2 ~椎間板ヘルニアと介護
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Follow @greendog_com伊東 希(いとう のぞみ) 獣医師、ホリスティックケア・カウンセラー
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