米FDA発表グレインフリードッグフードと犬の心臓病についての情報と、飼い主の心得
先日アメリカ食品医薬品局(食品や医薬品の安全を管理する米政府機関Food and Drug Administration 以下FDA)が、グレインフリーフードと心臓病の関連についての可能性を発表したことは日本でも報道されました。
今回は16種類のドッグフードブランドが発表されたため、ここアメリカでも多くの飼い主たちが戸惑っています。
「犬のココカラ」を読んでくださっているみなさんも心配されたり迷ったりされているかと思いますので、今わかっていること、まだ不明なこと、アメリカの専門家の声などをお伝えします。
ガニングさんの他の記事はこちら→ガニングさんの記事一覧
FDAが発表したデータの経緯
そもそもの始まりは2018年7月にFDAが最初の警告を発表したことでした。
「犬の拡張型心筋症の症例が散発的に報告された。診断された犬の多くがエンドウ豆、レンズ豆、その他の豆類、ポテト類、これらのタンパク質、デンプン、繊維などの成分が原材料一覧の前半に多く列記され、それらが主成分であることを示すフードを食べていた」というもので、その時には具体的な件数やフードのブランド名には触れられていませんでした。
この時点で、これらの原材料を含むフードと拡張型心筋症の因果関係については不明だと発表されていました。
そして約1年後の2019年6月下旬に、情報の更新としてブランド名を含むデータが公表されました。
2014年1月1日から2019年4月30日までの間にFDAに報告された拡張型心筋症の犬は515症例でした。
拡張型心筋症は一般的にドーベルマンやグレートデーンなど大型犬〜超大型犬に多い遺伝性疾患と認識されていますが、FDAに2例以上の複数の報告があった犬種はチワワやパグなどを含む35犬種以上で、報告の多かった上位3つはゴールデンレトリーバー、ミックス、ラブラドールでした。この上位3犬種はアメリカで最も登録数の多い犬種でもあります。
拡張型心筋症と診断された犬たちの食事は515件中452件がドライフードで、他にウェットフード、手作り食、生食、いくつかの混合がありました。
犬たちが食べている市販のフードのうち91%が穀物を使っていないグレインフリーフードで、93%にエンドウ豆、レンズ豆が含まれていました。
このように従来認識されていたのとは違う犬種が拡張型心筋症と診断されていることと、報告された犬の多くが穀物フリーで豆類が使用されているフードを食べていたことから、その原因や因果関係は不明ながらデータの公表に至りました。
グレインフリーフードと拡張型心筋症の因果関係について今わかっていること、未だ不明なこと
結論から言いますと、グレインフリーフードと拡張型心筋症の間に因果関係があるのかないのか、あるとすればどんなものなのかはまったく判っていません。
FDAは犬たちが食べていたフードの栄養分析や、犬の血液や尿、便の検査を継続して行っていますが、フードには栄養上の問題はなく犬の組織検査でも特に発見はないままです。
グレインフリーフードと心臓病の関連は、あくまでも相関関係であり、はっきりとした理由があって結果につながったことを示す因果関係は不明なままです。
相関関係について言えば、例えばFDAのレポートの中でも触れられているのですが、拡張型心筋症の診断や治療には複雑な検査と高額な費用が必要です。愛犬にそれだけのレベルの医療を受けさせる層がグレインフリーのプレミアムフードを利用している率が高いのは自然なことです。
アメリカのメディアでは拡張型心筋症の診断例が10以上あった16のドッグフードブランドを中心に報道していますが、FDAのレポートに科学的なデータや根拠が何も示されていないため、それ以外に報道することが見当たらないと言った様子です。
しかしいくつかのメディアでは、獣医学栄養士などの専門家にインタビューを行って、一般の飼い主がどのように対応するのが良いのかを質問しています。
インディアナ州の地方紙ザ・ヘラルドでは地元獣医師や栄養士の声を次のように紹介しています。
今回のFDAの発表でパニックにならないでください。今のところ愛犬の健康状態が良好でフードが体に合っていると感じるなら、フードを変更する必要はありません。
515件と聞くと多くの診断例だと感じるかもしれませんが、アメリカに7700万匹いると推定される犬の数から見れば、515例というのは科学的な根拠もないままに何かを指摘するには小さ過ぎる数字です。
FDA自身も発表したブランドのフードを利用している人々にフードの変更を勧めてはいません。
何より大切なことは、まだ原因も詳細もわからないFDAの発表に振り回されずに、心配なことがあれば愛犬の健康状態をよく知っているかかりつけの獣医師と飼い主さんがしっかりと連携を取ることです。
心臓の健康を考えるときに知っておきたい栄養素、タウリン
とは言え、愛犬の健康を真剣に考えている飼い主さんが心配になるのも理解できることです。
拡張型心筋症を含む心臓の健康を考える時、知っておきたい栄養素としてタウリンがあります。
タウリンはアミノ酸の一種ですが、通常は肉や魚に含まれているシステインとメチオニンという2種類のアミノ酸を使って体内で合成されます。
タウリンは身体のさまざまな臓器で重要な役割を果たしていますが、心臓では心筋の収縮に必要不可欠です。
拡張型心筋症を含む犬の心臓病では、全てではありませんが血中のタウリン濃度の低下がみられるケースがあります。今回のFDAのレポートのなかでもタウリンについても報告がされています。拡張型心筋症と診断され、血中タウリン検査がされていた犬猫のうち約42%において、その濃度の低下が認められました。
また、いくつかの症例では、獣医の治療と食事の変更に加え、タウリン補給後に改善がみられたそうです。
肉や魚が十分に使用されているフードを与えていれば犬の体内でタウリンの合成が行われます。またフードによってはサプリメントとしてタウリンが添加されているものもたくさんあります。けれども犬の体質やフードの調理方法、食物繊維の量などによって、タウリンの吸収率が落ちてしまうこともあります。
愛犬の心臓の健康を積極的にサポートしたいと思われる場合は、かかりつけの獣医さんにタウリンのサプリメントをプラスすることを相談してみるのも良いかと思います。
そのためにも飼い主さん自身が、フードの内容を勉強して把握しておくことも大切です。
おわりに
FDAが発表した、グレインフリーフードが犬の拡張型心筋症に関連している可能性があるというレポートについて、現在の時点では因果関係は何も判っていないこと、パニックにならず落ち着いた対応が大切なことなどをご紹介しました。
全ての犬にとって理想的なフードというものはありません。逆に言えば、犬が喜んで食べて健康状態が良好であれば、それがその犬にとっての理想的なフードです。
グレインフリーが全ての犬にとって良いわけではなく、穀物が使われている優良なフードもたくさんあるように、どのフードがいちばん良いかは犬によって違います。
病気についても、たった一つの要因だけで発病するかどうかが決まるわけではありません。
これらのことを念頭に置いておくと、犬の食べるものも、犬にとっての幸せを作ることも、良い選択肢が見えてくるのではないかと思います。
《参考URL》
https://www.fda.gov/animal-veterinary/news-events/fda-investigation-potential-link-between-certain-diets-and-canine-dilated-cardiomyopathy
https://duboiscountyherald.com/b/fda-dog-food-study-not-a-reason-to-panic
【GREEN DOGからこの記事をお読みのみなさまへ】
フードに関するさまざまな情報が溢れるなか、どれが本当のことなのか、パートナー(愛犬)に合っているものは何なのか、なかなか判断が難しいと思います。
そんなときはぜひ、GREEN DOGのごはんの窓口をご利用ください。犬と猫の食の専門家ペットフーディストたちが力を合わせてみなさまとパートナーをサポートいたします。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします
Twitterでグリーンドッグ公式アカウントをフォローしよう!
Follow @greendog_comガニング 亜紀(ガニング アキ)
最新記事 by ガニング 亜紀(ガニング アキ) (全て見る)
- ホリデーシーズンは急性膵炎のシーズン?「ほんの少し」が招くリスク - 2023年12月15日
- 愛犬との絆を深める:ミラーリングの魔法 - 2023年11月17日
- 犬が幸せに生きるために大切な3つのCとは - 2023年10月6日