2021.11.15一緒に。もっと、

罰を与える訓練は愛犬を悲観的にする?犬の楽観的傾向と悲観的傾向のおはなし

  • 罰を与える訓練は愛犬を悲観的にする?犬の楽観的傾向と悲観的傾向のおはなし

罰を与える訓練は愛犬を悲観的にする?犬の楽観的傾向と悲観的傾向のおはなし
私たち人間は、物事についての見方や考え方についてそれぞれに違う傾向を持っています。同じ物事について、ある人はポジティブに考え、ある人はネガティブに捉えるという例はたくさんあります。何事も前向きに考えてテキパキ動く傾向、反対に悪いシナリオを想定して慎重に動く傾向というのも人によって分かれるところです。
このような傾向は犬にもあるのだそうです。楽観的な犬と言うと簡単にイメージできる気がしますが、悲観的な犬とはどんな感じなのでしょうか?
犬を楽観的にする要素、悲観的にする要素について、いろいろな研究も発表されています。愛犬のパートナーとして私たちが知っておきたい点をご紹介します。

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楽観的?悲観的?犬の認知バイアスを調べる方法

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人がある物事について判断する時、必ずしも合理的な理由があるわけではありません。これまでの経験や習慣によって作られた固定観念や不安から合理的でない判断をしてしまうことを認知バイアス(認知の偏り)と言います。災害や事故に遭った時に実際よりも大したことがないと考えてしまう正常性バイアスはその1つです。

認知バイアスは人間だけでなく犬にもある心理現象で、動物行動学では犬の認知バイアスを調べるためにしばしば使われるテスト方法があります。
「曖昧な状況で犬がプラスの期待をするかマイナスの期待をするか」を調べるもので、テスト方法は犬がいる場所から一定の2つの地点にそれぞれボウルを置き、1つには常にトリーツが入っており、もう1つは常に空っぽという状態にします。犬はどちらのボウルに行くとトリーツがあるかをトレーニングで学びます。トレーニングの後、2つの地点の中間という曖昧な位置にボウルを置いて、犬がボウルに近づく時の行動や時間を測定します。迷いがなく短時間でボウルに直進する犬は楽観傾向が強く、ボウルに近づくのにノロノロと時間がかかる犬は悲観傾向が強いと判定されます。

楽観的が良くて悲観的がダメというわけではありません。自然の中の生き残り戦略では最悪を想定して行動する用心深さが必要な場面はたくさんあるからです。けれど必要以上に悲観的になることがストレスや分離不安につながる事もあり、楽観的な面がある方が家庭犬として暮らしやすい場合は、人間が考慮してあげる必要があります。

ノーズワークは犬を楽観的にする?

罰を与える訓練は愛犬を悲観的にする?犬の楽観的傾向と悲観的傾向のおはなし
犬の物事の見方を楽観的な傾向にする方法があるのでしょうか?
2019年にフランスとアメリカの犬の認知研究の第一人者が共同で行った研究結果は、私たちにもすぐに取り入れられる興味深いものでした。

あらかじめ認知バイアスのテストを受けた20頭の家庭犬を2つのグループに分けます。テスト結果に基づいて両方のグループの楽観度と悲観度はほぼ同じになるように分けられます。
1つのグループは嗅覚を使って探し物をするノーズワーク、もう1つのグループは人間の側にきれいに付いて歩くヒールワークのトレーニングを受けます。トレーニングはどちらも上手く行くとトリーツが与えられる報酬ベースの方法です。
2週間のトレーニングの後、犬たちがもう1度認知バイアスのテストを受けたところ、ノーズワークのグループは楽観的な傾向がはっきりと高くなっていました。一方ヒールワークのグループには変化がありませんでした。

嗅覚という犬にとって最も重要な感覚を使って、犬自身の判断で何かを探すという活動は、犬にとっての世界が「何か良いことが待っているかもしれない!」という期待に満ちたものになったことを示しています。

トレーニングの際の報酬や罰と認知バイアスの関連

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では反対に犬を悲観的な傾向にしてしまう要素とは何でしょうか。これはいくつかの研究機関がよく似た報告を発表しています。そのうちの2つをご紹介します。

1つは2021年にオーストリアのウィーン獣医科大学が実施したものです。30頭の家庭犬を2つのグループに分けて特定の行動のクリッカートレーニングを行います。1つのグループは行動が上手くできてクリッカーを鳴らした時に100%の確率でトリーツが与えられ、もう1つのグループは60%の確率でトリーツが与えられました。
2つのグループの学習速度には違いがなかったのですが、認知バイアスのテストを行ったところ、60%のグループは悲観的な傾向がより高くなっていました。

もう1つは2021年にポルトガルのポルト大学が行ったリサーチで、報酬ベースのトレーニング方法を実践するスクールで訓練を受けている犬と、嫌悪刺激ベースの方法を実践しているスクールの犬を比較したものです。嫌悪刺激とは、トレーナーの指示に犬が上手く応えられなかった時に大声で叱ったり、リードを強く引っ張る、叩くなど嫌悪的な刺激を与えることです。
両方のグループの犬が認知バイアスのテストを受けた結果は一目瞭然でした。報酬ベースの犬は楽観的で、嫌悪刺激ベースの犬は悲観的というものでした。嫌悪刺激が強いほど又は回数が多いほどテスト中に犬がボウルに近づく速度は遅くなっていました。

指示通りに動いても毎回報酬がもらえなかったり、嫌悪的な刺激をたびたび与えられていると、犬は目の前の物事に対してポジティブな期待をすることをやめて「どうせ良いことなんて待っていない」という心理状態になることが示されました。大切な愛犬の世界をこんな風にしたくはないですね。

おわりに

罰を与える訓練は愛犬を悲観的にする?犬の楽観的傾向と悲観的傾向のおはなし
犬にも楽観的な傾向と悲観的な傾向を示す認知バイアスがあり、犬の普段の生活の中にこれらの傾向に影響を与える要素があるということをご紹介しました。

特別なトレーニングや嫌な経験をしていないニュートラルな状態の場合には、楽観的な傾向の犬の方が多いことが過去の研究から分かっています。犬と言えばいつも楽しいことや美味しいものを探してワクワクしているというイメージは大きく間違っていないようですね。

本格的なノーズワークのレッスンでなくても家の中や散歩中の宝物探しゲームは、その瞬間だけでなく犬の世界をより楽しいものにすることにつながります。反対に、犬からトリーツやおもちゃを取り上げてからかったり、犬にとって不快な刺激を与えることは犬の世界から希望を奪ってしまうことにもなりかねません。

犬の楽観的傾向と悲観的傾向という考え方が、より多くの人に広まっていくと犬たちの世界がもっと明るいものになりそうです。

《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2018.12.009
https://doi.org/10.1007/s10071-020-01425-9
https://doi.org/10.1101/823427

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ガニング 亜紀(ガニング アキ)

米国カリフォルニア州在住。2005年から犬との暮らしをスタートして2匹の犬をそれぞれ15歳で見送りました。犬たちとの16年間で知識が増えると犬との暮らしが楽になることを痛感しました。自分が「へ〜!」と感じたことを堅苦しくなくお伝えしていきたいと思っています。