イギリスの子供向けワークショップから考える、犬と人が幸せに暮らすための「犬の福祉」について
動物福祉や犬の福祉という言葉は色々なメディアでよく見聞きするようになりました。でも「犬の福祉」が具体的にどういうものなのかと聞かれると、ピンと来ないという方も多いと思います。
ネットなどで言葉の意味を調べてみると、きちんと正確に定義された長い文章が出て来ます。
この犬のココカラでも何度もテーマとして取り上げられている言葉でもあるので、文章を読めば皆さんも「なるほど」と思われるに違いありません。
それなのに「犬の福祉」という言葉や概念は今ひとつ定着していないという感じがあります。
犬の福祉を人々がしっかりと理解して、実際に犬の福祉が向上するにはどうすれば良いのか?その答えの1つがイギリスでのリサーチによって示されました。
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「犬の福祉」を身近な言葉に置き換えてみよう
英語で「動物福祉とは何?」と検索すると出てくる答えの中で最もシンプルなものは「動物のwell being」とあります。
Well beingをシンプルに日本語にすると「幸福」です。心と体の状態の両方を表す言葉でもあるので「心と体の幸せ」とも言えます。
つまり「犬の福祉を向上させる」というのは「犬の心と体の幸せ度をアップさせる」と言い換えると分かり易いですね。
犬の心と体の幸せと言っても、犬と暮らしていない人や犬に興味のない人にとっては、これもまたピンと来ないテーマかもしれません。
このテーマを社会の多くの人が自然と受け入れて身につけるためにはどうすれば良いのでしょう?
イギリス最大の犬の福祉チャリティ団体であるドッグズトラストはこのテーマを検証するために大規模で長期的なリサーチを実施しています。
子供向けのワークショップでの教育
ドッグズトラストでは小学校に教師の資格を持っている職員が出向いて、子供向けの「犬の福祉向上のためのワークショップ(参加実践型の教室)」を実施しています。
対象になるのは7〜11歳の児童です。
ワークショップの内容は「責任ある犬の飼い主になるための教室」「犬について賢くなるための教室」の2種類です。
どちらのコースにも子供たちが繰り返し教えられる次の5つのテーマがあります。
犬は感情と欲求を持っている生き物であることを知ろう
自分の行動が、自分の安全と犬の福祉に影響を与える可能性があると認識しよう
分析的に考え福祉に基づいて情報を選択し、メディアなどからの誤った情報を拒否する能力を身につけよう
犬を迎えることは生涯の責任を持つことで、使い捨ての物ではないと理解しよう
自分のライフスタイルに合った適切なタイプの犬を選ぶことの重要性を理解しよう
教室に犬がやって来てデモンストレーションをしたり犬のビデオを見たりしながら、具体的な犬の感情や行動、どのように犬と接するのかを学んで行きます。うらやましい感じですね。
子供たちへの教育が未来にもたらすもの
ドッグズトラストが行っている教育ワークショップは、犬の福祉について子供たちへの教育という目的の他に、このような教育を受けた子供が将来犬と関わる時の影響を調べるというリサーチの一環でもあります。
ワークショップ参加後の子供たちの、犬に関する知識のテストの結果や犬の周辺での行動を観察すると明らかに犬への理解が深まり、適切な行動が増えていたそうです。
他の研究の結果では、同じような犬に関する教育を受けた子供が1年後も同じように犬の周辺で適切に行動することができたと報告されています。
教育を受けた子供のグループと受けていないグループで特に違いが顕著なのは、咬傷事故の件数だそうです。犬のボディランゲージを学び、怯えている犬に近づかないということを教えられた子供は咬傷事故の被害者になる確率がグンと低くなります。
犬の周辺にいる人間が安全であることが犬の福祉の一部であるというのは、子供の頃から教えられていないと身につかないことかもしれません。
ワークショップを受けた後の子供たちの犬に対する理解度のスコアは、家庭で犬を飼っていてもいなくても違いが見られなかったそうです。このことも教育によって犬への理解が深くなったことを示しています。
ドッグズトラストの研究では、ワークショップに参加した子どもたちが成長した後も犬と正しく接することができているかどうかなど、さらに長期間の追跡調査を続けていくそうです。
おわりに
犬の福祉、つまり犬の心と体の幸せ度を向上させるために、子供たちへの教育が有効な手段になるという話題をご紹介しました。
ワークショップの5つのテーマは、ご家庭でお子さんに犬のお話をする時にも、私たち大人にとっても参考になりますね。
子供の頃に興味を持って学んだことは大人になっても忘れずに身についていることが多いものです。小学校で子供たちに犬の福祉についての教育をすることは、犬についての大切な基本を理解している人が増えていくことにつながるでしょう。
リサーチの長期的な観察結果が出るのはまだ少し先の話になりそうですが、具体的な結果が出ることで子供たちへの教育が拡がっていくきっかけになればいいなと思います。
《参考URL》
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0230832
https://theconversation.com/children-often-misread-fear-in-dogs-making-a-bite-more-likely-118405
【関連記事】なぜ犬に「選ぶ自由」を与えることが大切なのでしょうか?
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