- GREEN DOG & CAT
- ペットフード・ペット用品通販
- 犬との生活・特集一覧
- 犬の特集
- 病気
- 獣医師が解説!犬のワクチン予防接種について
獣医師が解説!犬のワクチン予防接種について
- 病気
- 専門家監修
犬には感染力がとても強い病気、発症すると重症になり特効薬のない病気、後遺症が残る病気などがあります。今回は、犬のワクチン予防接種について、ワクチンの種類や、メリット・デメリット、接種方法や接種回数、子犬のワクチンプログラムなどについてもくわしく解説します。
ワクチンってなに?

自然条件のもとでは、母親からは胎盤を通して、もしくは初乳を飲むことで子に免疫が移行します。これを移行抗体といいます。
抗体とは、ウイルスや細菌などにくっつき、病原性を失わせる働きを持つタンパク質のことです。特に犬では移行抗体の95%以上を初乳からもらいます。
けれども、多くの子犬では、その移行抗体も8~12週齢頃にはかなり弱くなります。そのため、自分の力で抗体を作り出さなくてはならなくなります。
自分の力で抗体を作るためには、一度、その病気にかかる必要があります。とはいうものの、抗体を作るために、怖い感染症にかかるわけにはいきませんね。その代役をしてくれるのが、ワクチンです。
ワクチンは、病気が発現しない程度に毒性を弱めた病原体、あるいは死滅させた病原体やその一部分を含んでおり、それをわざと体に入れることによって病気への抗体を作らせます。すなわち、実際に病原体に感染しなくても、その病原体に対する免疫をつけることができるのです。そして、次に同じ病原体が体に入ってくると、抗体がすかさず攻撃を開始して、病気を発症させない、もしくは症状を軽くすることができます。
ワクチン接種前の注意点

ワクチンを接種することは、異物を体に入れることです。そのため、体調が良く、精神的にも安定している日を選び、接種させましょう。また、副作用などがでた場合に直ぐに対応してもらえるよう、できるだけ午前中に接種するようにします。
また次のような場合は、無理に行う必要はありません。場合によっては病状が悪化したり、免疫がしっかりつかなかったりすることがあります。かかりつけの獣医師とよく相談して、接種の日程や必要性を見極めましょう。
要注意!ワクチン接種を控えたほうが良い場合
・元気がない、具合が悪そう
・疲れている
・旅行やシャンプーが数日以内に入っている
・嘔吐・下痢をしている
・消化管内に寄生虫の感染がある
・他の病気の治療をしている(特に、がんや自己免疫疾患)
・発情、妊娠中である
・栄養状態が悪い
・4週齢に達していない子犬である
・シニア犬(高齢犬)である
・ワクチン接種後にアレルギー反応(アナフィラキシーショック)を起こした経験がある※1
※1:アナフィラキシーショックを起こしたことがある場合、すべての個体についてワクチンを控えたほうがいいということではありません。アナフィラキシーショックを起こしたものと同じワクチンを打つのは危険ですが、それが必要なコアワクチンである場合には、抗体価を検査したり、別のメーカーのワクチンにしたり、含まれている血清アルブミンを変更するなどの対策も取ることができます。まずは動物病院の先生と相談して、方針を決めるのが良いでしょう。
またシニア犬も若い頃より慎重にワクチン接種する必要がありますので、体調を考慮し、かかりつけの先生と相談しながら接種しましょう。
ワクチンの種類
犬のワクチンには法律で接種が義務付けられているものと病気にさせないために任意で接種するものの2種類あります。また、犬コロナウイルスワクチンのようにWSAVA(世界小動物獣医師会)が推奨していないもの(非推奨ワクチン)があります。
法律で接種が義務付けられているワクチン
狂犬病ワクチン
狂犬病は、犬や人を含むすべての哺乳類に感染し、有効な治療法はなく、発症した場合には100%死亡する病気です。狂犬病の主なまん延源は犬であり、人はほとんどの場合、犬から感染しています。日本では1957年以降狂犬病の発症はありません※1が、海外では未だ猛威をふるっています。海外から狂犬病が入ってくる危険性は常にありますので、日本では3ヶ月齢以降の全ての犬に対して1年に1回の狂犬病ワクチン接種が義務付けられています。また、犬が海外に渡航する際にも、相手国によって接種が必要とされます。ただし、重篤な心不全や腎不全を患っている、もしくは狂犬病ワクチンによる副作用の経験のある犬では接種は猶予されます。また重篤な感染症を患っている場合では回復を待ってから予防接種を受けることが認められています。
※1
【参照】輸入症例を除く(2006年11月 厚生労働省健康局結核感染症課 報道発表資料より)
病気にならないために任意で接種するワクチン
コアワクチン
コアワクチンは、生活環境にかかわらず、全ての犬が接種すべきと考えられているワクチンです。これらの対象となる感染症は世界中で発生が認められていて、重篤な症状を示すものです。コアワクチンの対象になる感染症には、次のものがあります。日本では狂犬病ワクチンもコアワクチンに入ります。
ジステンパーウイルス感染症
呼吸器症状(咳など)・消化器症状(下痢など)・神経症状をおこす致死率の高い病気です。
パルボウイルス感染症
特に子犬で激しい下痢・嘔吐、あるいは突然死を引き起こす、致死率の高い病気です。
アデノウイルス感染症
・犬伝染性肝炎(アデノウイルス1型)
急性の肝炎を起こし、黄疸や嘔吐などがみられ、子犬で突然死を引き起こすことがあります。
・犬伝染性喉頭気管炎(アデノウイルス2型)
咳が長く続くことが多く、ケンネルコフとも呼ばれ、犬かぜの病原体の一つと考えられています。
アデノウイルス2型のワクチンを用いることで、犬伝染性肝炎(アデノウイルス1型)を同時に予防することができます。
ノンコアワクチン
ノンコアワクチンは、住んでいる地域や生活スタイルによって感染リスクが高い場合に接種することが推奨されているワクチンです。次の感染症などを対象としています。
レプトスピラ感染症
数種のタイプがあり、軽症なものから、腎障害、黄疸を起こす重症なものまで多彩な症状を示します。ドブネズミなどに保菌され、その尿に汚染された水や土壌から皮膚あるいは口から感染します。人にもうつる人畜共通感染症です。暖かい地域(四国・沖縄・九州)では多くみられます。
犬パラインフルエンザウイルス感染症
主に、咳・鼻水・発熱・食欲低下などの風邪のような症状がみられ、犬かぜとも呼ばれます。一般的にこの病気の単独感染では症状が軽いとされていますが、他のウイルスや細菌などと混合感染すると重症化します。
ボルデテラ・ブロンキセプチカ感染症
犬の気管支敗血症菌として知られている細菌による感染症で、犬パラインフルエンザウイルスと同時に感染することが多く、ケンネルコフ(犬伝染性気管・気管支炎)の原因となります。
【関連記事】
子犬のワクチンの接種時期と回数

移行抗体の量が減ってくる、当然ながら病気に感染しやすくなります。そのため、ワクチン接種が必要なのですが、母犬からの移行抗体が体内に残っている子犬では、ワクチンを接種しても効果が得られないことが多くあります。
移行抗体の量が減り、ワクチンの効果が一番発揮できそうなタイミングで接種するのが良いのですが、その時期は個体差があり、特定することができません。
そのため、子犬には数回にわたってワクチン接種をする必要があります。
WSAVAのワクチネーションガイドラインにおける子犬のコアワクチンプログラム(接種法)は、多くの国で推奨されていますので紹介します。
子犬のコアワクチンのプログラム
一般的な家庭犬におけるワクチンプログラムです。ワクチンプログラムを開始する時期と接種の間隔に応じて、回数が異なります。また、感染症が多発している地域ではワクチンの再接種が2週間毎になることもあります。
1回目のワクチン・・・6~8週齢
最も早く移行抗体が切れていることを想定して、この時期にワクチン接種します。
2~3回目のワクチン・・・前回の3~4週後
前回の接種時に移行抗体の量が減っておらず、ワクチンによる抗体が充分できていない可能性があります。そのため、再度、ワクチン接種します。
3~4回目のワクチン・・・前回の3~4週後
大部分の子犬がワクチンによってしっかりと抗体を作り出せると考えられる16週齢もしくはそれ以降に、最後のワクチン接種を行うことが推奨されています。
ブースターワクチン・・・26~52週齢のいずれかの時点
初年度のコアワクチン接種で、いずれかのワクチンの免疫がついていない可能性がある犬に、確実に抗体をつけさせることが主な目的です。これで、子犬のワクチンプログラムが完了します。
ただし、前回の最終接種の4週間以降の血液検査で抗体価を測定して、防御免疫がしっかりついていることが確認できれば、ブースターワクチンは必要ありません。
ノンコアワクチンの初年度の投与頻度は、ワクチンの種類によって異なります。
ワクチンは毎年接種するの?
ではその後、生涯を通じてどのようにワクチン追加接種をしていけばいいのでしょうか。追加接種に関しては議論がありますが、WSAVAのワクチネーションガイドラインでは、子犬の時期にしっかりとワクチン接種を行っていることを前提として、コアワクチンはその後は3年毎、ノンコアワクチンについては1年毎が推奨されています。
また、海外と日本国内では流通しているワクチンの種類が異なりますので、特定のものだけ接種したい場合でも、不可能なことがあります。
地域の特性をはじめ、年齢や副作用の経験、持病の有無、ウィルス抗体価などによってワクチン接種のタイミングや必要性は異なってきます。ワクチンによる利点は多いにありますが、副作用もありますので、愛犬のワクチンプログラムについては、かかりつけの獣医師とよく相談して決めるのがベストでしょう。
2024年度版のガイドラインでは、狂犬病やレプトスピラが流行している地域ではこれらもコアワクチンに含まれるようになりました。また、ワクチン接種スケジュールやシェルターでのワクチン接種に関する推奨事項も詳細に記載されています。
最新の情報を確認し、かかりつけの獣医師と相談することをお勧めします。
【参考記事】
ワクチンの副作用

ワクチンの副作用で顏が腫れたチワワの子犬
ワクチンは異物を身体に入れることですので、稀にですが、副作用としてアレルギー反応がでることがあります。主な副作用としては、次のようなものがあります。
- アナフィラキシーショック...虚脱や呼吸困難など急性の激しいアレルギー
- 皮膚症状...目や口の周りがパンパンに腫れる、痒がる、赤くなる
- 消化器症状...嘔吐や下痢
日本では、小型犬種で副作用が多く、特にミニチュア・ダックスフントでの高い発生率が報告※2されています。アナフィラキシーショックによる死亡例はありますが、発症しても迅速に適切な処置を行うことにより多くが回復します。また、その他の皮膚症状や消化器症状も通常は、時間の経過と共に治まります。
アナフィラキシーショックは、接種直後から1時間以内、皮膚症状や消化器症状は半日経ってあらわれることもあります。接種直後は動物病院にてしばらく安静にし、その日は飼い主が様子をみるようにしましょう。
ワクチン接種した日は、できるだけ静かにゆったりと過ごさせるようにします。散歩は短時間であれば問題ありませんが、激しい運動はさせないようにしましょう。また、シャンプーなどストレスのかかることは2~3日は避けたほうが良いでしょう。
ワクチンの接種によって、解毒に関わる身体の機能に負担をかけてしまうこともあります。ミルクシスル種、クリバーズ、ゴールデンロッド、リコリス根、ダンデライオン根、ネトル、バードックなど、身体の内側からサポートする働きが期待されるハーブを利用するのも良いでしょう。
※2
【参照】VIP 5号2017年 特集ワクチン接種後アレルギー 犬におけるワクチン接種後アレルギー反応/大森啓太郞
ワクチンの種類と価格
混合ワクチンには、2種や3種、5種、6種、7種、8種、9種、10種など、さまざまな種類が販売されています。一般的によく使われているワクチンは、5~8種のようです。これらのワクチンが対応している感染症は、パルボ、ジステンパー、アデノウイルスのコアワクチンをメインとして、それに犬パラインフルエンザ、レプトスピラなどのノンコアワクチンが追加されています。
ワクチンの価格の目安が分かると安心だと思いますが、動物病院によって異なります。事前に確認をしましょう。おおよその目安ですが、参考にしてください。
・5~6種混合ワクチン 5,000円~7,000円ほど
・7~8種混合ワクチン 6,000円~9,000円ほど
・狂犬病ワクチン 3,000円~4,000円ほど
またワクチンの種類、接種時期などは手帳などに記録しておきましょう。フィラリア予防のお薬の記録を残せる手帳も市販されています。母子手帳のように使えて、病院が変わった際にも重宝します。
まとめ

パルボやジステンパーウイルス感染症など犬が発症すると重篤な症状に陥る病気は、身近に潜んでいます。子犬の集団発生の話も、残念ながらしばしば耳にします。ワクチンを打つことで、愛犬を病気から守ることができます。そして、集団全体のワクチン接種率を上げることによって、環境からこれらの感染症をなくすことにもつながります。日本は67年間狂犬病の発生のない国です(輸入症例は除く。2024年現在)。いつまでもそうあり続けるために、狂犬病ワクチンを軽んじることなく、毎年必ず接種するようにしましょう。