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「犬がご飯を食べない」のはなぜ?一万年の歴史から見る「食の悩み」の解決法
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- 専門家監修
一万年前のヒト(人間)と犬の関係から「ご飯を食べない悩み」について考えていきます。「健康なのに食が細い」「好物しか食べない」といったパートナー(愛犬)の悩みは、多くの飼い主さんが抱えています。その答えは、もしかしたら1万年以上前の犬と人間の歴史にあるかもしれません。今回は、ペットフーディストの視点から、パートナーの「食の悩み」の意外な原因と、その解決策を歴史の視点から紐解いていきます。
一万年以上前から始まった関係性(犬とヒトの歴史)
犬は、およそ1万年以上前から人間と共生してきたと言われています。犬の祖先であるオオカミがヒトの居住地に近づき、ヒトが残した食料を食べるようになったのが始まりです。
最初は互いに警戒していましたが、次第にヒトは犬の優れた嗅覚や聴覚、狩猟能力に気づき、狩りの手伝いをさせるようになりました。犬もまた、ヒトがもたらす安定した食料や安全な住処を求め、ヒトと協力関係を築いていきます。
こうして、元は違う種族であった犬とヒトは、狩りの成功や生活の安定といった互いの利益を求め、長い時間をかけて特別なパートナーシップを形成していったのです。
「狩猟犬」から「愛玩犬」へ。食への危機はどこへ行った?
かつて、パートナーの祖先は、自ら獲物を探し、群れの一員として生きていました。食事は命がけで手に入れるものであり、「食べなければ生きていけない」という強い食への危機感を本能的に持っていました。
しかし、私たちヒトと共生する中で、パートナーの役割は大きく変わりました。狩りを手伝う「狩猟犬」から、家の中で愛される「愛玩犬」へと変化したのです。
安全な家の中で、ご飯は毎日決まった時間に出てくる。美味しいおやつももらえる。わざわざ探しに行かなくても食事が手に入る生活は、パートナーにとって安心で快適なものです。しかし、この豊かな環境は、「いつ、どこで食事が手に入るか分からない」という本能的な緊張感を失わせてしまいました。
大昔の犬の祖先たちは、次の食事にありつくため、全身を使って獲物を追い、獲物の匂いを嗅ぎ分け、頭を使いました。しかし、現代の私たちと暮らすパートナーは、食べ物を獲得するための苦労や、体を動かす機会が圧倒的に少なくなっています。この環境の変化が、食欲の低下や「ごはんを食べない」という悩みの根本的な原因の一つになっていると考えられます。
ご飯を食べない原因は「退屈」と「ストレス」
健康なのにごはんを食べない原因は主に3つあります。
- 食への危機感がない
- 運動量や刺激が足りない
- ストレスを感じている
大昔の犬が、自らの力で食事を手に入れていたのに対し、現代の愛犬の生活はとても単調です。外敵の心配もなく、探さなくても食事が用意される毎日。これは安心であると同時に、彼らの本能的な食欲や活力を奪ってしまう可能性があります。
食べない原因の一つとして、まず「食への危機感がない」ことが挙げられます。空腹を経験することがほとんどないため、食事に対する意欲が低下してしまうのです。
また、「運動量や刺激が足りない」ことも大きな要因です。エネルギーを消費する機会が少ないと、当然お腹も空きません。さらに、外の世界の様々な匂いや音、触覚といった五感への刺激が不足すると、退屈から食欲がわかないこともあると言われています。
そして、意外に思われるかもしれませんが、「ストレス」も食欲不振の原因となります。ストレスとは、過度な緊張や恐怖だけではありません。例えば、大好きな飼い主さんが自分に注目してくれないと感じたり、生活環境の変化があったりするだけでも、パートナーはストレスを感じてしまいます。このストレスが食欲を減退させてしまうことがあるのです。
「ごはんを食べないから」と、おやつやトッピングを与えてしまうのは逆効果です。空腹を経験させる機会を奪ってしまい、ますます「ごはんを食べなくても大丈夫」と学習させてしまうからです。さらにやっかいなのは、「食べないと、さらにおいしいものを出してくれる」と覚えてしまうこと。
食欲がないのにおやつは食べる場合、それはもしかしたら、お腹が空いているのではなく、単に刺激や気分転換を求めている、またはグルメ化のサインかもしれません。
私たちができること:五感を刺激する工夫
愛犬の食欲不振が「退屈」や「ストレス」から来ている場合、私たちができることは、愛犬の生活に「刺激」と「喜び」を取り戻してあげることです。犬の祖先が当たり前に得ていた五感への刺激を、意図的に作ってあげましょう。
散歩で外の世界を探検する
単に歩くだけの散歩ではもったいないです。外に出れば、たくさんの匂い、音、感触といった五感への刺激があります。
匂いを自由に嗅がせる: リードを緩めて、愛犬が興味を持った場所の匂いをじっくり嗅がせてあげましょう。匂いを嗅ぐことは、愛犬の脳を活性化させ、たくさんのエネルギーを消費します。
新しいコースに挑戦する: 毎回同じ道を歩くのではなく、たまには行ったことのない道や公園に足を運んでみましょう。新しい発見が、退屈な毎日に新鮮な刺激をもたらします。
脳を働かせる遊びで満足感を得る
エネルギー消費には、体を動かすだけでなく、頭を使うことも効果的です。脳を働かせる遊びは、パートナーに達成感を与え、食欲を増進させる効果も期待できます。
知育玩具(トリーツ・ゲーム)を活用する: おもちゃの中にフードやおやつを隠し、愛犬が自分で工夫して取り出す遊びです。
ノーズワーク(嗅覚を使った遊び)といって、おやつを部屋のあちこちに隠して探させる遊びです。愛犬の優れた嗅覚を使い、満足感を得ることができます。
まとめ:食は「命」と「喜び」の原点
今回のテーマについて、動物学者テンプル・グランディン氏が残した言葉を最後に紹介します。
「犬がいろいろな行動を自ら学ぶのは、私たち人間の反応によって、行動が強化されるからだ」
あなたが愛犬のごはんを食べない姿を見て心配したり、おやつを与えてしまったりする行動は、「食べなければ心配してもらえる、もっと良いものをもらえる」という学習を強化してしまうことになります。
愛犬にとっての食事は、単に栄養を摂るだけの行為ではありません。それは、自らの力で獲物を獲得する喜びであり、生命を維持するための大切な行動でした。
私たちができるのは、愛犬に健全な食欲を取り戻してもらうこと。そのために必要なのは、体を動かし、頭を使う機会を増やすことです。そうすることで、ごはんを食べるという行動が、再び「命」と「喜び」の原点となるのではないでしょうか。
私たちの生活に合わせてくれている愛犬が、退屈な毎日だと思わないよう、一緒に豊かな経験を重ねていきたいですね。
【参考図書】
・動物感覚 アニマル・マインドを読み解く テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン (著) NHK出版 (2006/5/23) ISBN-10:4140811153







