2019.09.27一緒に。もっと、

もっとノーズ、プリーズ!~家庭でもできる麻薬探知犬トレーニング~ノーズワークシリーズその7

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もっとノーズ、プリーズ!~家庭でもできる麻薬探知犬トレーニング~ノーズワークシリーズその7
文と一部の写真:藤田りか子

藤田りか子さんのノーズワークシリーズはこちら

麻薬探知犬は「麻薬」のにおいを嗅ぎわけることで、麻薬のありかを人々に伝える犬です。しかし、そもそもどうして麻薬を探そうとするのでしょう?犬は麻薬のにおいが好きだから?

いえいえ、何もトレーニングをうけていなければ麻薬のにおいを嗅いでも、犬は関心を示すことがありません。むしろどうでもいい意味のないにおいです。ならばどうして麻薬を探したいという気持ちになるのか?

そのからくりは意外にもシンプル。麻薬のにおいで「楽しいこと」という連想がトレーニングを通して犬に植え付けられているからです。楽しいことだからこそ、探したいという意欲が湧いてくるのですね。この連想は条件付ともよばれ、まさにあの有名な「パブロフの犬」と同じ原理でもあります。

イワン・パブロフ(1849-1936)というのは帝政ロシア・ソビエト連邦の生理学者なのですが、彼の犬をつかった実験をご存知ですか?犬がベルの音をきいたとたんに「食事」を連想し、すでにその音だけで唾液を分泌させている、という話です。ベルというのは、犬にとって全く無意味な音です。しかし、この音が鳴れば美味しい食べ物をもらえる、という事象を何度も犬に経験させることで、次第に犬は音を食べ物(ポジティブな意味合い)の到来として連想しはじめるわけです。

麻薬探知犬を作る時は、いわばこれとよく似た条件付を犬に行います。麻薬のにおいとくれば食べ物、という連想を人が犬に植え付けてしまうのです。つまり麻薬のにおいを嗅いだら、食べ物が人から与えられる。これを何度も繰り返していくうちに犬は麻薬自体をとても「好ましいにおい」としてとらえるようになり、「麻薬=食べ物」の方程式が頭にインプットされるという仕組みです。ここでは食べ物との連想と申しましたが、実際の麻薬探知犬は食べ物よりもむしろ「おもちゃ」で刷り込まれます。麻薬探知犬になるような犬は生まれつき狩猟欲が強く、むしろおもちゃを追いかけたり引っ張ったりすることの方がただ差し出された食べ物をたべるよりも面白みを感じるのです。

麻薬探知犬トレーニングにチャレンジ

これまでこのシリーズでは、教えなくとも犬が生まれつき興味のあるにおい、すなわち「フード」や「トリーツ」を使って嗅覚遊びをみなさんに紹介してきました。が、ここで一大チャレンジ、犬が全く興味のないにおいを覚えさせるゲームに挑戦してみませんか?そう、家庭でもできる麻薬探知犬トレーニング!

対象とするにおいはもちろん麻薬である必要はありません。なんでも結構です。私はコングを使っています。コングというのは特殊な素材でできているので、他のゴム製品にはない独特のにおいを持っています。コングをまるままつかうこともあるのですが、1-2cmぐらいに小さく切ってそれを隠して探させます。コングは職業的な探知犬(ガン探知犬、麻薬探知犬、地雷を探す軍用犬など)の、トレーニング臭としても使われています。

みなさんへの私からのおすすめはティーバッグに入っている紅茶!というわけで紅茶のにおいをさがすゲームを紹介します。

練習にあたり用意するもの

1. ティーバッグ。ブランドはなんでもいいです。ただし、一度このブランドのこのフレーバーと決めたら、それだけをしばらく使ってみてください。紅茶と一概にいっても、犬の嗅覚を通すと、ブランドやフレーバーによってまったく違うものなのです。
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2. 蓋のある容器 (透明ではないもの)。できれば蓋に穴があるようなもの(アルミニウムの灰皿など)。なければ自分で蓋に穴をあけます。きりでごりごり穴を開ける方法もありますが、簡単なやり方は、きりの先を火であたためること。熱くなったところで、グリグリと蓋に穴をあけると、するりと抜けます。
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3. トリーツ(いつも食べているものではなく、特上においしいもの)

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愛犬が本当に喜ぶトリーツを見つけるのも飼い主の楽しみですね

練習の手順

1. 容器にティーバッグをいれます(でもお湯はそのあとに入れないでもいいからね!)。蓋をしめます。

2. 容器を1つ犬の前に示します。犬が鼻をつけたら
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3. 「いいこ!」「よし!」など褒め言葉を与え、すぐにトリーツをあたえます。
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4. もし犬が鼻をどうしても容器につけない場合は、蓋の上にトリーツをおいておきます。そしてそれを食べてもらいます。

5. これを何回か繰り返してみましょう!

この続きは次回にて。それまでにみなさんに宿題をさしあげます。容器を出したら蓋にトリーツを置いてなくとも、犬が自発的に嗅ぎにゆくぐらい、練習をしてみてください。

犬によりますが、好奇心の強い犬は10分ぐらいで覚えてしまうし、あるいは1週間かかる子もいます。犬も個性それぞれ。なかなかできないのは、犬ができないのではなく、その犬がもつ性質のため。たとえ犬が思い通りの行動をみせなくともがっかりしないように!この遊びをいっしょにすることが、犬にとって楽しいひとときになっているのですからね。これこそ環境エンリッチメントとなっており、犬にQOLを与えているものなんですよ。

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藤田 りか子(ふじた りかこ)

ドッグ・ジャーナリスト。レトリーバー二匹と自然豊かなスウェーデン・ヴェルムランド県の小さな村に在住。スウェーデン農業大学野生動物管理学科にて修士号を得る。犬の繁殖管理や福祉の先進国スウェーデンはじめ北欧の犬情報はもとより、ヨーロッパ各地の純血種の知識に詳しい。著者に『最新世界の犬種図鑑』。 現在ノーズ・ワーク(嗅覚を使うドッグスポーツ)に夢中、コンペティターでもある。