- GREEN DOG & CAT
- ペットフード・ペット用品通販
- 犬との生活・特集一覧
- 犬の特集
- 飼い方・生活
- 犬にお留守番させる時、挨拶してから出かけますか?
犬にお留守番させる時、挨拶してから出かけますか?
- 飼い方・生活
- 専門家監修
犬にお留守番をさせて出かける時、昔からよく言われるように何も言わずに黙って出て行った方がいいのか、それとも「行ってきます」と一声かけた方がいいのか、という悩ましい問題に一石を投じた研究結果を、ガニング亜紀さんが紹介してくださいます。
※この記事はオウンドメディア「犬のココカラ」に掲載されたガニング亜紀さんの原稿を元に、GREEN DOG & CAT ライフナビ編集部が編集してお届けしています。
出かける前には犬に話しかけない方が良いという通説

皆さんは犬を置いて出かける時「いってきます」「すぐ帰るからね」などの声をかけてから家を出ますか?
昔からよく言われている通説では「犬を置いて出かける前に声をかけたり撫でたりすると犬が興奮してしまうので、犬にかまわず黙って出かける方が良い」というものがあります。
そのように指南する専門家もいますし、聞いたことがある、実行しているという方も多いかと思います。
一方で「その説は知っているし反対するわけではないけれど、出かける前にはついつい犬に声をかけてしまう」という方もいるでしょう。私自身もその1人です。
けれども2018年に、この通説とは異なる内容の研究結果が発表されて「出かける前の犬への声かけ問題」は改めて注目を浴びることになりました。
通説を覆した研究結果
その研究はイタリアのピサ大学のマリーティ博士の研究チームによって発表されました。とても規模の小さい予備的な研究なのですが、通説を覆す内容のために大きな注目を集めました。
研究のための実験に参加したのは10匹の犬と7名の飼い主で、飼い主が不在の間の犬の状態が観察されました。
飼い主不在のシチュエーションはそれぞれの犬につき2つの違うパターンで実験されました。
1つめのパターンでは、飼い主は犬を1分間撫でた後に、犬と実験者だけを部屋に残して3分間不在になります。
もう1つのパターンでは、飼い主が犬を1分間無視した後に、同じように犬と実験者を残して3分間不在になります。
飼い主は犬から見えない場所に隠れていて、実験者から連絡を受けると犬がいる部屋に戻ります。飼い主が不在の間の犬の行動の観察、実験前後の犬の心拍数、飼い主が不在の間の犬の唾液中のコルチゾール値から犬のストレスレベルを探るというものです。
実験の結果は
● どちらのパターンでも、大きなストレスを示す犬のサインや行動は少なく、唾液中のコルチゾール値も大きな上昇はなかった。
● どちらのパターンでも、飼い主が部屋を出た後に犬たちは約90秒間飼い主を探す行動を見せた。これは不在の3分間のおよそ半分の時間に当たる。
● 約90秒間飼い主を探した後、撫でられたパターンでは「横たわる」「3秒以上の長さで地面を嗅ぐ」などの落ち着きを示す行動が見られた。
● 撫でられたパターンでは無視パターンに比べて実験後の心拍数が低くなっていた。
この結果は、飼い主が犬と離れる前に犬を無視するよりも撫でる方が、不在中に犬が落ち着いていたことを示しています。
声をかけるか、黙って行くか、それが問題だ

マリーティ博士の実験の結果だけを見れば、出かける前に犬を撫でる方が良い結果になるように見えます。
この研究が発表された直後には「今までの説は間違っていた!」という論調で紹介するメディアも多く見受けられました。
確かに犬を撫でてから出かけるとポジティブな影響があったことは特筆すべき事柄です。
けれどこれは小規模の予備研究で、飼い主の不在時間も3分間というとても短いものであること、実験に参加した犬は分離不安の問題のない犬ばかりだったことなどから、結論を出すにはさらに研究が必要だと研究者自身が述べています。
コロラド大学のベコフ博士はこの研究の結果を受けて、よく似た内容の非公式なデータを紹介しています。
20匹の犬を対象にして、家を出る前に犬を撫でて「すぐ帰るからね」と声をかけた場合と、何も言わずに出かけた場合の、残された犬の様子を観察したものです。
ここでもやはり、声をかけた時には犬がより落ち着いている傾向が見られました。
特に分離不安の傾向があると報告された7匹の犬では、何も言わない→声をかける→優しく撫でる、の順で犬がより落ち着いている様子が観察されました。
しかしベコフ博士が最も注目すべきだと考えたのは、飼い主不在の間の犬の落ち着き度は、犬の性格や飼い主との関係性によってずいぶん変わってくるということでした。
声をかけることで興奮度がグンと高くなってしまう犬では何も言わずに出かけた方がスムーズな場合もあるし、優しく撫でて気持ちを落ち着けてから出かけた方が良い場合もあり、場合によっては飼い主が居ようが出て行こうが気にしていないという犬もいるでしょう。
「当たり前じゃない?」と思われるかもしれません。
けれども多くの研究あるいは犬のトレーニング方法において「犬の個性」「犬のおかれた環境」「人間との関係性」という点は考慮に入れず「犬」という括りだけで結論が出されているのは珍しいことではありません。
マリーティ博士の研究の結果から考えられる結論は「今まで言われていた、出かける前には犬に声をかけないというのは全ての場合に有効なわけではない。
しない方が良いと言われていた声かけや撫でる行動が良い結果をもたらす場合もある。」ということです。
私たちは「こんな時にはこういう風に犬に接しましょう」というシンプルな結論を求めがちです。けれど大切なことは「こんな時にはこういう風に」の意味や理由を理解した上で、今目の前にいる犬が不安や恐怖などの不快を感じない、それぞれの最良の方法を見つけることです。
そのためにはそれぞれの犬の性質を把握して犬の出すサインを読み取ることが不可欠です。
まとめ

犬を置いて出かける時、昔からよく言われるように何も言わずに黙って出て行った方がいいのか?それとも「行ってきます」と一声かけた方がいいのか?という悩ましい問題に、一石を投じた研究結果が発表されたことをご紹介しました。
犬の心や行動の問題は「犬には玉ねぎを食べさせてはいけません」のように全ての犬に当てはまるシンプルな結論がないことがほとんどです。
それだけに難しく私たちは試行錯誤をするのですが、それぞれの犬はみんな違うからこそ面白く愛おしいと言えます。
お出かけ前の声かけ問題をきっかけに、「個としての愛犬」と向き合ってみると新しく楽しい世界が開けてくるかもしれません。
【参考記事】
・Effects of petting before a brief separation from the owner on dog behavior and physiology: A pilot study
・Should You Say Goodbye to Your Dog Before You Leave?