【犬との暮らし】犬の心を育む10~困った行動と欲求不満の関係
こんにちは。ヒトと犬の心と行動カウンセリングをしている、心理士でドッグメンタルトレーナーの白田祐子です。
私たちは生きているなかで「私はあの人に嫌われている?」「なんか、失敗しそう」など、掴みどころのない不安や悩みに襲われることがあるかと思います。そのようなとき、往々にして目の前に見えていることよりも、ずっと前の段階に問題の根源があるように思います。実はそれは犬も同じです。例えば、あなたが外出から戻ったら愛犬が家の中をめちゃくちゃにしていたり、他の犬を見るたびに吠えたり、怯えたりするなど、私たちを悩ませる問題もその行動だけに注目して注意やしつけをしても、なかなか改善はされないものです。
原因は、もう少し手前にあるかもしれません。今回は問題行動の原因の一つである欲求について考えます。
ドッグメンタルトレーナー白田さんのこれまでの記事はコチラ→白田さんの記事一覧
目次
困った行動は欲求不満のバロメーター
あなたが愛犬にどのようにして欲しいのかという意思を伝え、理解してもらうためには、まずあなたが犬の気持ちを理解するところからはじめる必要があります。犬の気持ちを理解するということは、犬の行動を理解するということで、行動を理解するということは、欲求を理解するということでもあります。
状況に相応しくない反応を示す不適応行動は、周囲が困るだけではなく、犬自身にも苦痛や不快な感情を伴う欲求不満から引き起こされていることが多いため、困った行動は欲求が満たされているかを判断するバロメーターサインであることが少なくありません。
現代の犬の欲求不満
人と犬が一緒に暮らしはじめたきっかけは、犬が狩りの手伝いをする代わりに、人は安全な寝床と食料を提供するという取引だったと考えられています。でも、時を越えた現代では人と犬の関係が複雑かつ強固になったことで、私たち人間の過度な介入を招き、犬がある種の欲求の充足を阻害される危険性を孕んでしまいました。
欲求不満の状態が続くと、怒りや悲しみ、緊張や不安など、さまざまな不快な感情が生じることが分かっています。さらに不快感情は攻撃・逃避・防衛などの過剰行動や望ましくない行動として現れやすいため、たとえば、飼い主に制されるなどして「他の犬に近づきたいのに近づけない」などの外的要因や、「近づきたいけど振舞い方が分からず緊張してしまう」などの内的要因のどちらにおいても、欲求不満状態が続くと「犬=不快」と歪んだ結びつきがされてしまい、結果、不特定多数の犬に吠えるなどの行動が発現してしまいます。
犬同士の群れで暮らしていた時は、欲求を満たすための知識と困ったときの対処法の両方を成長過程で身に付けることができました。でも、人間と暮らすことでそれらを身につけるチャンスを逃してしまうと、漠然とした不安に打ち勝つことができず、いつまでも冷静な判断ができなくなる可能性が高まってしまうのです。
欲求不満耐性と代償行為
多少の欲求不満状態に置かれても、困った行動を起こすことのない犬もいます。欲求不満に対する怒りや不安の感情が低く、自分の感情や行動をうまくコントロールできる能力は母体からの影響など個体によって違います。しかし、欲求不満耐性と呼ばれるこの能力は、自分自身の置かれた状況を様々な角度から適確に理解しようとすることによって向上させることができるので、私たちのサポートによる経験しだいで、犬の心の安定に大きな違いが生まれるともいえます。
心理学用語で代償行為と呼ばれる行動で欲求を満たす場合もあります。たとえば、狩猟欲求に対して、ぬいぐるみを振り回す、ボールを追う、音の出るおもちゃを噛む、自転車や電車を見るとその場で回るなど、がよく見られます。一方で、運動量が少ない、行動のバリエーションが少ないなどの退屈な日常を繰り返していると、自分の能力を試しながらいろいろな活動をしたいという欲求が満たされず、飛び跳ねる、吠える、走り回る、破壊行為やいたずらをするなど、自分なりの方法で満足させようとします。
犬の基本的欲求
アメリカの心理学者マスロー(またはマズロー)(Maslow,A.H.,1943)は人間の欲求は食べる・眠る・休むなどの生理的欲求がある程度満たされると、安らかでありたいなど安全欲求が芽生え、それが満たされると、次に社会の成員として認められたいという社会的欲求が芽生えるというように、欲求には階層があり段階的に進むという欲求の段階的階層説を提唱しました(図1)。そしてその法則を元に動物の欲求階層説も考案されたようです(図2)。
しかし犬は群れで暮らす動物です。進化の過程で、家族や仲間と一緒に過ごし触れ合いたい、群れに帰属し受け入れられ、信頼されたいという欲求が非常に強くなりました。互いの気持ちを確認する手段として、カーミングシグナルと呼ばれる犬の共通言語を遺伝的に持ち合わせるまで発達させたことは、社会的欲求の解決がいかに重要であるかの証でもあります。特に現代の犬と他の動物の欲求を同義にするには無理が生じるため、欲求の種類とそれらがバランスよく満たされた先の心の安定をイメージしてほしいと思います(図3)。
安全欲求と困った行動の深いつながり
安全欲求
安全欲求とは、危険や病気など生命を脅かすものから守られ、安らかでありたいという欲求です。安心できないと長時間に渡って警戒心が刺激され、十分に休むことができません。安全欲求には身体のみではなく心の安らぎも含まれます。日常的に健康管理に気を付けていても、あなたに穏やかな態度や一貫性がなかったり、犬を不安にさせる行動をとるなど信頼度が低ければ、安全欲求は満たされません。あなたの犬は不安な感情が強まり、自分で自分の身を守ろうと攻撃性を強めたり、逃げ腰になるなどの可能性が高まってしまいます。
安全欲求は困った行動と非常に密接しているため、信頼関係の見直しが必要なことを気づかせる重要な欲求であることを覚えていてほしいです。
関連記事はコチラ→【犬との暮らし】犬の心を育む4~犬に信頼されるための「3つのC」
社会的欲求のその先にあるもの
社会的欲求(所属と愛情の欲求)
自分が属する仲間に信頼されていると感じることは、犬の健全な成長と幸せな暮らしに欠かすことはできません。人と犬が共生する社会には、人と犬の関係と、犬同士の関係の両方が存在し、犬同士でしか満たされない欲求も存在します。交流がスムーズにいく犬同士であれば、匂いを嗅ぎたい、近づきたいという欲求のもとに、仲間と触れ合いたい、受け入れられ信頼されたいという欲求が働きます。そして、集団のなかにうまく溶け込み、認められていると感じると、自信を持ち、自分自身の感情や行動をコントロール(自律)しながら、さまざまな欲求を自分自身で満たすことができるようになるのです。
関連記事→【犬との暮らし】犬の心を育む2~ニーズとセルフコントロール
おわりに
あなたがあなたの犬の最もよき理解者であることが、犬の幸せの理想の姿だと思います。
そのためにも犬を無力な赤ちゃんのように扱い感情移入だけするのではなく、犬同士の社会的欲求や匂いを嗅ぐ追跡をするなどの犬特有の欲求もあることを、理解し経験させてあげる必要があります。
もちろん、犬を擬人化することで共感し、深い心の結びつきを可能とした側面はあります。でも、この世の中で遭遇するいろいろなことに対して、犬が本来持つ能力を発揮し、犬本来のやり方で対応法を学び、自分で対処していけるという自信を持たせてあげることは、犬が犬として生きるうえで大きな喜びだと思うのです。そして、そのような犬の喜びを思い描きながら、あなたがプラスアルファの愛情と知識と経験を与えてあげられたなら、あなたの犬もそれを最高の贈り物として暮らしていけるのではないでしょうか。
【関連記事】【犬との暮らし】犬の心を育む11~「望む行動・望まない行動」とご褒美の関係
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします
Twitterでグリーンドッグ公式アカウントをフォローしよう!
Follow @greendog_com白田 祐子(しらた ゆうこ)心理士/ホリスティックケア・カウンセラー
最新記事 by 白田 祐子(しらた ゆうこ)心理士/ホリスティックケア・カウンセラー (全て見る)
- 使えるとこんなに便利!失敗しないクレートの選び方 - 2019年3月12日
- うれしいと笑う?犬の表情と気持ちを読み取るポイントとは - 2018年11月30日
- はじめてのお散歩!子犬との散歩を楽しむために知っておきたいこと - 2018年8月7日
「犬のココカラ」は何時も楽しみにしています。特に、白田さんのお話は、新しい事が分かったり、今までの接し方を省みる機会になり、勉強になります。